2月に、山形国際ドギュメンタリー映画祭実行委員会の主催で成瀬巳喜男監督の作品を特集した上映会があります。
その影響か、レンタル店でも成瀬巳喜男の特集コーナーがあり、先日一枚借りてきて見ました。
偉大な、佳品です。
モノクロの画面が本当に美しく、何故か見てゐて、妙な心地よさを感じる。
40年前の日本の地方都市(清水市となってゐます)。
小さな商店街。スーパーマーケットの進出。黒電話。木造家屋。ちゃぶ台。買い物籠。三輪自動車。…
そこで生まれる、若い寡婦と義弟との恋愛。
話としては、特段変はったものでもありませんが、それを緊迫感のある画面に映し出した手腕の見事さ。
若き高峰秀子の演技がほんとうに素晴しい。
目の動きと、わずかな顔の蔭りが、本当の役者であることを証明してゐる。
終始、緊張感のある姿を見せながら、義弟の告白を受けて身を引くために故郷山形の新庄へ向かふ。「送るよ」と云った義弟は、山形行きの列車に乗り込むのですが、やがて彼の姿をみて、ふっと、あきらめたやうに、気持ちを許すかのやうにかすかに微笑む。
そして、気持ちを決したやうに大石田駅で途中下車し、冬の銀山温泉へゆく…。
”乱れる”かもしれない自分の気持ちと葛藤してゆく姿が、とても美しく描かれてゐる。義弟は、受け入れない義姉を残して酒を飲みに出かけ、翌朝板戸の上の姿で女の前に現れるが、けがなのか、死んでゐるのか、事故なのか、自殺なのか、不明のまま、女は、身を振り乱して運ばれてゆく姿を追ふ。
映画は、そのシーンで、唐突に終はる。
追ひかける途中の、悔恨とも、愛の確信ともとれる表情がとても素晴しく、それを演じた高峰秀子と、演じさせた監督の見事さに感服。
そして、義弟を演じた加山雄三もまた素晴しい。
不器用な演技ながら、それがそのまま、義姉への不器用な恋愛感情として演じられてゐる(否、監督がそうさせたものでせう)。
(写真は、パンフレットから)