rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

NHKBS 欲望の資本主義2020 感想

2020-01-15 18:46:56 | 社会

2020年1月NHKBSで欲望の資本主義2020が放送されました。昨年、一昨年も「欲望の資本主義」と題して各界の識者や経済学者が現在の資本主義の問題点を浮き彫りにしたのですが、今年は「不確実性への挑戦」と銘打っての展開となりました。ポイントは「実体経済は様々な経済学の理論通りに行かない」が「学問として何らかの経済学に沿って経済運営する他ない」現実において、我々はどう対応すべきか、つまり理論通りにゆかない「不確実性」の原因と対策は何か、という事です。

番組のホームページから(動画リンクはありません)

以下内容の抄録ではなく、備忘録として気付いた点についての感想をまとめます。

 

○ 何故経済理論通りにゆかない?

・  人間の欲は無限であり、また一方で希望が持てない状況では無欲でもありえるから。(中間層がなくなり、社会が二極化してくると欲の多寡も二極化してくる)

 

○ 異次元の緩和(市場の貨幣を増やす)は有効か?

・貨幣には下に示すような3つの意義があります。

貨幣の意味 1)異なる物の価値を比較する物差しとしての役割

      2)価値そのもの(金や貴金属の替わり=金属主義としての貨幣)

      3)経済を循環させる水の役割(負債の記録、帳簿としての名目)

一部の人や企業、ファンドなどに金が貯まって、それらが限られた名義のままTax havenなどに塩漬けにされたままで一般の人達に広く分配されないと、実体経済で循環される貨幣が足りなくなって不況(或はデフレ)になってしまいます。だから市場に貨幣を増やせば好況になるはず、という理論です。

異次元の緩和は、3)の意義を満たすという点では正しいのですが、市場に出した貨幣が実体経済内で循環し続けないで、塩漬けされた蓄財や一部信用経済に吸い込まれてしまう現実があって100%理論通りには行きませんでした。リフレ派の元日銀副総裁 岩田紀久男氏と元日銀理事早川英男氏の掛け合い漫才の様な対論が実に興味深く、理屈通りには行かない現実を物語っていました。

 

○ 新たな理論としてのMMT (modern monetary theory)はどう?

・  昨年来注目を浴びるMMT理論ですが、要は「政府は赤字を気にせず、自国の発行する通貨で財政出動を許容されるインフレの範囲内ならいくら行っても良い」とするものです。

異次元緩和で市場に貨幣を散撒いても、所有者が限定された蓄財分野に吸い込まれて塩漬けされてしまうなら、吸い込まれて塩漬けされた分、新たに貨幣を発行して実体経済(庶民)に供給し続ければよいじゃん、という発想です。これに驚懼しているのは塩漬けマネーを持っている金持ち達、つまり貨幣の意味として2)「価値そのもの」を重視している人達です。1)3)として貨幣を考えている人達にとってはMMTはあまり怖いものではありません。ただ2)として貨幣を溜め込んでいる人達がGoldや貴金属(将来に渡る変わらない価値)としての貨幣の意味がなくなる、と考えて一期に溜め込んだ貨幣を実体経済につぎ込むと「ハイパーインフレ」が起こる事も確かでしょう。

 

○ 世界が畏怖するデジタル貨幣は?

・今回の番組では取り上げられませんでしたが、中国で現実化されつつある「デジタル人民元」による経済運営は、貨幣の1)と3)の意義を大きくし、デジタル上の仕様を変えてしまえば(新通貨の発行)貨幣を2)として溜め込む意味を少なくする事も可能となってしまいます。通貨の使用が全国民の個人番号ごと把握されてしまえば脱税も不正送金やロンダリングも不可能になります。こうなるとMMTの弱点は考えなくても良くなる可能性があります。

 

○ 温故知新的な宇沢弘文氏の「社会的共通資本」の思想

・  ジョセフ・スティグリッツ氏も激賞してましたが、日本の誇る世界的経済学者の宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」の考え方こそが、行き詰まった経済運営に解決の糸口を示すものではないか、というのは私も同感です。経済も政治も人類、社会生活が豊かになるための「方便」「手段」に過ぎない、経済の拡大が目的ではない、という大前提に立ち戻って、医療や教育といった利潤追求では目的達成ができない事象は「社会的共通資本」として経済原則から外して考えよ。利潤追求を可能とするのは特定の分野に限定せよ、という思想です。

 

以上、不確実性への答えは明確ではありませんが、質の高い、内容のある良い番組でした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする