中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(Novel Corona Virus : nCoV)は数日のうちに数倍の患者数となる広がりを見せています。一人の患者が何人に感染を拡大させるかを示すR0という指標が通常のインフルエンザが2程度であるのに対して今回のnCoVは英米らの研究者による論文では4近いとされます。そして発症率が5%程度と低いので感染者数はより多く、感染拡大阻止は70%以上可能ながら、パンデミックとなる可能性も高いだろうと考えられます。現状では、感染率が高くても発症率や死亡率が高くなければ普通のかぜ(コロナウイルスが多い)と同様と考えられますが、発症後の死亡率がインフルエンザよりも現状高いのでやはり注意が必要です。中国で2003年流行したSARSのR0は3程度で感染力は強めでしたが、2013年中東で流行したMERSは1以下と弱く、今回のnCoVはかなり強いと言えます。1月28日にWHOは新型肺炎の危険性評価を「中程度」から「高い」に改めましたが、この感染力の高さを反映したものと思われます。
今回のnCoV発生の2ヶ月前、2019年10月に米国Johns Hopkins大学のCenter for health securityで新型コロナウイルスによる感染が南米ブラジルの養豚場で発生したとして、それが全世界にパンデミック流行して、18ヶ月で65万人が死亡するというシミュレーションをしました。あまりにタイミングが良かったので同施設のEvent201のホームページには「今回の催しは中国の新型肺炎流行を予測したものではありません、フィクション上のウイルスで65万人死亡というモデルは今回のものと関係ありません」という但し書きが慌てて加えられました。ただ感染力の強いコロナウイルスが全世界に広がるモデルとしてはかなり良く練られたものと思われ、今後今回の肺炎の広がりとの比較がなされてゆくと思います。
今回の肺炎について、武漢の生鮮市場の生きた動物(ネズミ)が元ではないかと言われていて、科学誌Natureでも紹介されている武漢にあるセキュリティーレベル4(最高)の微生物実験施設から何らかの生物兵器や実験動物から漏れたものではないかという疑惑も囁かれています。この施設ではSARSウイルスの研究も行われていて、今回のウイルスがSARSに遺伝子配列も似ている事も疑惑に関連してます。まあこの手の疑惑は陰謀論を含めて証明しようもないですし、明らかにされることもないでしょうが、2020年1月14日には新型検査キットが深圳(武漢でなく)の大学で開発されたという発表などかなり前から(しっかりした簡易検査キット開発には最低2-3ヶ月は必要と思う)nCoVの詳細を政府は知っていた可能性は示唆されています。日本での感染確認は国立感染症研究所に検体を送って公表された遺伝子から作られたプローブでRNAを増幅するPCR法で確認しているのでどんなに早くても1-2日はかかります。普通簡易検査は遺伝子でなく蛋白を抗体で検出するものですから、そのウイルスに特有の蛋白構造に対する特異的な抗体をマウスなどに産生してもらった上でそれを精製、大量増殖してきちんと反応することを確かめてからキット化するという大変な手間がかかります。武漢は早々に都市閉鎖されましたし、邦人救出に動いた米国、日本政府もこのウイルスがただ者ではないとの情報を教えてもらった(米国から?)と考えるべきかもしれません。
今回のウイルスが広がった原因は、本来レベル4の微生物実験施設で廃棄殺処分される予定の動物が「元気そうだから」という理由で殺処分されずに市場で売られて、持っていたウイルスが散撒かれたというお粗末な理由が一番ありそうな気がします。施設で働く全ての職員が高度な知識と倫理観に裏打ちされているなんてことはあり得ません。まあこれは単なる想像ですが。
今回の新型感染症、日本における流行は予断を許さない状況ですが、もう少し冷静に経過を見守って行こうと思います。