rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 米中対決

2014-08-22 17:06:24 | 書評

書評 米中対決-見えない戦争(ハヤカワ文庫NV) ドルー・チャップマン/奥村章子(訳) 2014年刊

 

最近はあまりSF的な小説は読まないのですが、本屋で表題に惹かれて、パラパラと内容を見るとなかなか面白そうだったので思わず買ってしまった本だったのですが、架空の出来事とは思われない内容に休日を使って一気に読んでしまいました。内容はアマゾンの紹介では以下のようになっています。

 

武器・兵器によらぬ現代の新たな戦争を描く衝撃の話題作! 投資会社に勤務する若者ギャレットは、大量の米国債が中国によって密かに売りに出されていることに気づいた。報告を受けた財務省は市場の混乱を未然に防止する。一方ギャレットは、DIA(国防情報局)に極秘プロジェクト、アセンダントの一員としてスカウトされる。サイバー攻撃など、さまざまな形でアメリカに打撃を与え続ける中国に対し、彼は驚くべき方法で敢然と反撃を開始する。

 

という紹介から、軍事ものというよりもまさに「サイバー戦争とはこのようなもの」という分かりやすい解説という方が近いと思います。現代社会においては、戦場で軍人と戦場になった民間人だけが犠牲になる戦争よりも、株や経済を混乱させ、また生活に必要なインフラをサイバー攻撃で使用不能にする方が国家・国民にとっては損失が大きいと言えます。サイバー戦争で国内が混乱して内乱状態になってしまえば最早外国との戦争など不可能になってしまう訳で、国内のロジスティクスを無視して「集団的自衛権を認めれば日本も外国と戦争ができる」状況になると単純に考えている人達こそ平和ぼけと言えるのではないかと私は感じます。

 

本書に出てくる設定は現在の世界の実態をかなり反映したものと思われます。例えば米国の政府が一体ではなく、CIAとDIAが対立しているのは、現実に国務省と国防総省が異なる国家戦略を取っていることに似ています。中国が貧富の差が限界を超えて中国共産党に変わる新たな支配者を見いだすための革命(天下が変わる事)をそろそろ民衆が欲していることは明らかと思われますが、女毛沢東に相当する「タイガー」と呼ばれる革命家が共産党中央から恐れられ、ニュースからその支配地域についての報道が消えて行くことから革命の進行を知る(ネタバレで済みません)といった設定、国内の不満を外に向けるために戦争を起こす事、しかも相手から先に手を出させる事で自己の戦争を正当化させようという目論みも現実的と言えます。中国のサイバー攻撃に激怒した米国は(相手の目論みに乗って)自ら中国に第一撃を加えそうになるのですが、主人公達の反撃で逆に中国から第一撃が加えられそうになり、いざ第三次大戦勃発という瀬戸際に行くのですが、このあたりの駆け引きは実際の戦闘よりもスリリングで作者の手腕を感じました。

米国は生活インフラをサイバー攻撃されたことで各地に暴動が起きたりするのですが、これなどは現在進行中のミズーリ州の内戦状態ともいえる暴動(黒人青年が射殺されたことをきっかけとする)を彷彿とさせます。「タイガー」と呼ばれる革命家の描き方にもっとミステリアスな工夫があっても良いかとも思いましたが、全体としてよくできた小説であり、きっと映画化もされるのではないかと思いました。

コメント
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