rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 タックス・ヘイブン

2013-10-09 21:21:15 | 書評

書評 「タックス・ヘイブン」—逃げていく税金 志賀 櫻 著 岩波新書1417 2013年刊

 

東京大学在学中に司法試験に合格する俊才である著者が、卒後大蔵省に入省し、その後税務畑を歩む中でOECDなどの国際的な場で日本を代表して活躍するようになり、一時警視庁に出向してこれまた湾岸戦争などの国際舞台を経験する中でタックス・ヘイブンとの関わり、諸外国の税務関係者と共にタックス・ヘイブンをどう対処するか奮闘した経緯などを一般の読者にも解りやすく解説したもので、非常に興味深くスラスラと読んでしまいました。

 

タックス・ヘイブンの特徴として1)まともな税制がない2)固い秘密保持法制がある3)金融規則や法規則が欠如している、といったことがあげられ、高額所得者や大企業による脱税・租税回避、悪徳資金のロンダリングやテロ資金の隠匿、投機マネーによる秩序ある経済の破壊、の温床になっていると説明されます。

 

タックス・ヘイブンには、バージン諸島やクック諸島などの南の孤島、モナコやサンマリノなどの都市、金融センター(ウオールストリートやロンドンのシティ)内のオフショアセンターなど様々な形態があって、それぞれに特徴があると解説されます。本書ではこれらのタックス・ヘイブンで実際にどのような租税回避が行われているかが解説されると共に、日本を含めた諸外国がいかに協力してタックス・ヘイブンによる租税回避に対抗してきたかについても解説されます。私などは、米英は「政府がらみでグローバリズムの権化」のように普段感じているのですが、米英の税務当局も決してタックス・ヘイブンを放置しているわけではなく、何とか税を回収し、悪徳マネーを表に引きづり出そうと四苦八苦していることが示されます。マネーロンダリングと取り組むFATF(financial action taskforce)とか国際金融について問題を話し合うFSB(financial stability board)などの国際機関について、実際に著者が参加した内側からの解説は非常に興味深いものがあります。

 

タックス・ヘイブンも経済の発展のためには悪い所ばかりではなく、きっとそれなりに必要悪な部分もあるのでは、と私のような経済の素人は思ってしまうのですが、著者の揺るぎない視点は「タックス・ヘイブンは人類にとって百害あって一利なし」という立ち位置で貫かれており、安心感を持って読み進むことができます。

 

著者も指摘しているのですが、タックス・ヘイブンを利用しているのは民間ばかりではなく、「MI6やCIAなどの各国諜報機関もからんでいることがある程度解っているから厄介」と暴露しているのですが、「タックス・ヘイブン退治のための新たな税制」や「秘密を暴露させる法制」について解説があり、少しずつ実効性を持ってきていることは希望を持たせます。

 

NHK特集のブログでも触れましたが、強大なマネーによる金融マネーゲームによって金融が不安定になると、庶民が額に汗して働いた所得から納められた税を原資に政府から金融機関救済の補助金交付がなされたり、国債が発行されたりして金融の安定が計られるのですが、それらは税を納めた庶民の元には還元されず、富裕層や巨大なファンドに吸い上げられてタックス・ヘイブンを経由してより大きな行き場のないマネーにと変わってしまいます。日本も消費税増税が決まりましたが、これらの税が日本の国民のために使われて我々の所得となって還元されるのならば問題がないのですが、景気刺激のためにこの20年間使われてきた政府の支出は、結果的に日本の経済を回す事に使われず、行き場のないファンドマネーとして国民の手から離れていった事が問題なのです。そしてこの事を皆が解っていても解決策がなかったことが一番の問題だと日本だけでなく、国際的に共通の認識ができてきたのだ、とこの本を読むと感じます。つまりこれは日本だけではなく、米英、欧州、そして中国でも対策をとりはじめているということです。

 

行き過ぎた管理社会につながる危惧はありますが、各国の行政官僚によるタックス・ヘイブン(強大なファンドマネー)退治という国際協力を私は支持します。「タックス・ヘイブンを利用する者は必ずそこに居住し、それ以外の国に入国する際は10億円の入国料を払うこと」というような国際協約を作ってもよいと私は思います。オフショアセンターはなくても普通の庶民は困りません。庶民と関係のない世界の超富裕層の方達はアンパン一個500万円といったタックス・ヘイブンの小島で一生暮らしたら幸せだろうと思います。

 

これは私の妄想だけではなく、本書でもシチズンシップ課税、出国税、以前ブログでも紹介した金融取引税・トービン税などの新しい税のありかたとして紹介されています。

 

著者の志賀氏は1949年生まれの60台の方ですが、ひ弱な東大の秀才というより銃弾の飛び交う紛争地にも乗り込んで日本の国益を追求するといった男気を感ずる頼もしい方であり、文章も簡潔明瞭で解りやすい、世の中に対する基本姿勢もぶれない、という点で本書は十分一読に値する書籍と思いました。

コメント (2)
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