Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「ドーピング検査」の統計学

2018-02-20 15:20:32 | Weblog
オリンピックでは必ず話題になるドーピング問題。今回の平昌冬季オリンピックでは、日本人選手に抜き打ち検査で陽性反応が出て、出場停止になってしまった。本人は禁止薬物を意図的に飲んだことを否定しており、うっかり何かを間違って飲んだのかもしれない。しかし、難しいのは、そもそも100%正確な検査というものがあり得ないことだ。

どんな検査にも大なり小なり誤差はある。しかし、検査に基づく意思決定は0-1の二値になる。そこで統計学が登場するのだが問題が残る。本当は禁止薬物を使用しているのにそれを見逃してしまう危険(偽陰性、第二種の過誤)と本当はシロなのにクロと判定してしまう冤罪の危険(偽陽性、第一種の過誤)、これらをどうバランスさせるかが難しい。

というのは、これら2つの危険を同時に減らすことはできないからだ(検査の精度が一定である限り)。冤罪を出さない方向で意思決定すると本当の悪を見逃してしまう。それは許さじと厳しめに判定すると今度は冤罪が増えてしまう。これはほんの一例で、統計学の諸問題を興味深いエピソードとともに平明に説明しているのが『ヤバい統計学』だ。

ヤバい統計学
カイザー・ファング
CCCメディアハウス


著者はいわゆるデータ・サイエンティストで、統計学者ではない。だからなのか、統計学を実際の意思決定に使う場面を詳しく描いているのが特徴だ。同じ著者の『ナンバーセンス』も翻訳されているが、こちらに出てくるグルーポンの話はマーケターにとって面白いはず。どちらも好著だが、欲をいえば2冊が1冊に圧縮されていればなおよかった…。

ナンバーセンス
ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方
カイザー・ファング
CCCメディアハウス