一度だけ、母親にレコードを買ってきてもらったことがある。
当時、私は高校生だったのだが母親が街中に買い物に行くというので、リリース
されたばかりのローリング・ストーンズの新譜を買ってきてくれるよう頼んだのだ。
その日は日曜日だったので、明日になれば学校帰りに馴染みのレコ屋に立ち寄って
買うこともできたのだが、どうにも聴きたくて我慢ならず、だからといって自ら
出掛けるのも億劫だ。そこで、馴染みのレコ屋がスーパーへ行く道中にあることを
思い出し母親に頼むことにしたのだ。
小遣いから捻り出したレコード代金とスタンプカード(笑)を渡して「店のおばちゃんに
『ローリング・ストーンズの新しいLPをください、タイトルはUNDERCOVERです』
って言うんやで。」と念押し。
「間違ってもコレを買ってくるんじゃないんやで。」と「刺青の男」のジャケットを
見せる。流石に母親も「刺青の男」は息子が飽きずに聴いているものだから、その
ジャケットの絵柄も頭に入っていたようで「それは間違わんわ。」と出掛けていった。
さて。買い物から帰ってきて開口一番こう言われた。
「お母さんは、こんな恥ずかしいものを買わされるとは思わなかった。」
「えっ?」と思いながら手渡されたレコードのジャケットを見ると・・・。
今でこそ発売前のCDのジャケット写真なんかすぐにわかるのだが、あの時は何で
事前に知らなかったのだろう。NOW PRINTINGとでも書かれてあったのかも。(笑)
とにかく手渡されたレコードを見て私は初めてジャケットのデザインを知ることと
なった。
う~む。ちょっと微妙。(笑)
「レコード屋の人(女主人)と二人でマジマジと見て笑ったわ。息子さんはコレどう
思いますかねって言われたわ。お母さんはもう恥ずかしくて・・・。」
確かに微妙だけど「お母さん、あんたの息子はもっといろいろ知っていますよ」
と言いたいところを堪えて、「これは参ったね。どうもありがとうね。」と
いいつつも「おかん、何恥ずかしがっとんじゃ。」と心の中で呟く私。
私がスコーピオンズのファンでなくて良かったじゃないか。
あれ以来、母親にレコード購入を依頼したことは一度もない。(笑)
「STICKY FINGERS」のジッパーは妹に下げられ、フロント・ジャケの下に
パンツ姿があることを見破られ、母親には「UNDERCOVER」を手渡される。
まったく、ストーンズは兄妹・親子の会話のきっかけを与えてくれる素晴らしい
ツールなのであった。
掲載写真はポール・ケリーが74年にリリースした「HOOKED , HOGTIED &
COLLARED」。鍵をかけられ豚のように縛られ、おまけに首輪までされたぜ、という
見たまんまタイトルである。
このジャケットから一体どんな音を想像しろというのか、と思う方もおられようが
中身は正真正銘のサザン・ソウル。ナッシュビル録音ということと、ポール自身が
SSWのような側面を持つことから、王道でありながら捻りのある実に味わい深い
1枚。
もし高校生の私がこのアルバムを買ってきてくれと頼んだら、ストーンズの時
以上に事態は複雑になったかもしれない。(笑)それならそれで、面白かった
かもしれないけれど。