ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/04/22 映画「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」で憲法第25条を問う

2010-05-03 17:07:57 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

「日本の青空」に続く平和憲法シリーズ第2弾の映画「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」を4/22に埼玉会館小ホールで観てきた。今の私にはアクティブなことはあまりできないが、自主上映企画を応援するくらいはできるので続けていくつもり。
【映画「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」】
あらすじと主な配役は、インディーズサイトの「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」の項からほぼ引用、加筆。
“豪雪・多病・貧困”とてつもなく大きな問題を抱えていた、岩手県の山間の小さな村・沢内村。長く無医村であったこの地で、父親(加藤剛)から医者になることを期待されながらも村を離れていた深澤晟雄(長谷川初範)はある日、妻ミキ(とよた真帆)と帰郷する。
昔と変わらず悲惨な村の状況を前に晟雄は、何とか村をよくしたいと立ち上がった。
自分達を苦しめている問題を打破しようと村民に語りかけ、自らの信念である『生命尊重』行政の在り方を説き、いよいよ村民の医療無料化に踏み切ろうと決意するが、国民健康保険法違反という壁に突き当たってしまう。
晟雄は、村民のいのちのため、全国に先駆けて何としてでも実現させようと「少なくとも憲法違反にはならない。国がやらないから、村がやるんです!」と憲法25条を盾に、老人・乳児医療無料化を推し進めていく。やがて、全国でも最悪の乳児死亡率だった村が、全国初の乳児死亡“ゼロ”という記録を生みだすまでになる。

高齢者・乳児医療費を日本で先駆けて自治体で実現した「沢内村」の深澤晟雄(ふかさわまさお)村長の伝説は聞いたことがあったし、職場の資料室での写真整理作業の中で月刊の機関紙で取材したと思われる写真にも遭遇したことがあった。
しかしながらここまで長い冬を雪に閉じ込められる陸の孤島というところまではイメージを持てていなかった。村民はみな貧しく医者にもかかれず、死亡診断書を書いてもらうために遺体をそりに積んで病院のある隣の町まで峠を越えていくという映像にまず衝撃を受ける。
だからこそ勉強のできた晟雄に父がかけた「医者になれ」という望みも、理科の解剖実験で不向きをさとった晟雄がたどった回り道の末のドラマも理解できた。

手にした職で満州まで行き、引き揚げ後の会社勤めを労働者の首切りの仕事をする嫌さにやめての帰郷して田畑を耕す生活に入る。そこで戦後の数年間をともに憲法について勉強した青年会の太田祖電(大鶴義丹)たちと再会。夜間高校の英語講師の職も得て生徒たちや家族の様子から村民の生活の厳しさを痛感。人望から教育長に推薦され、「行脚と対話」を大事にして地域ごとに婦人から話をきく活動に着手。村の暮らしをよくするためには村民の半分を占める女性の意見を聞かせて欲しいという発想が、まさに憲法の精神そのものだと思った。
助役の後任に推薦されると村の住職でもある太田祖電を後任の教育長に推薦。ともに「行脚と対話」を続けていく。学歴のない若手の農業家・佐々木吉男(宍戸開)の安定収入を得られるナメコ栽培の賛同者を増やしたいという熱意に共感し、ナメコ賛同者づくりの「行脚と対話」で組合を組織し産業として育てていく実践力にも驚く。
豪雪から道を確保する事業を提案するが、村長の諦念という壁にぶつかる。そこで村長選挙に立候補するが、深澤助役の人望の厚さに無投票当選。佐々木吉男を助役に抜擢し、3人で村政の刷新をすすめていく。
村の予算の一割以上をかけてパワーのあるブルドーザーを入れて峠道を冬でも通れるようにすることで村民の「諦めの気持ち」を払拭し、貧しさから老人が死ぬまで医者にかかれないことへの挑戦を始める。まずは保健婦を2名採用して巡回の母子健診からスタート。治療よりも予防を重視して巡回健診にも力を入れて、そのための医師の派遣を周囲の自治体の協力を得る。さらに村立病院に常駐の医者を派遣してもうらうべく母校の東北大学の医学部に何度も足を運んで実現。
さらに「いのちの格差」をなくすための第一歩を65歳以上の高齢者の医療費の無料化を決断。県からの圧力に屈せず、「行脚と対話」の中で築いた婦人組織をはじめとした村民の村長との絆の力が保守志向の強い村の議員たちも動かす場面は感動的だ。ついで乳児医療も無料化。保険ばかり重視していると批判する対立候補に勝っての2期めに入り、ついに全国初の乳児死亡“ゼロ”という偉業を達成。
「諦め」に支配されていた村の人々の気持ちを前向きに取り組む姿勢にひっぱっていくそのリーダーシップの素晴らしさに感嘆する。

ヘビースモーカーであることが気になって見ていたが、村長は多忙な中で受診せず食道がんが末期になってようやく見つかったが遅かった。
福島の病院から戻る遺体を乗せた車が峠道を走ってくる感慨深い幕切れ。映画はこの道を夫婦二人で雪にまみれて帰郷したところから始まったっけ。

主演の長谷川初範が素晴らしく魅力的。妻ミキ役のとよた真帆も女子大出のインテリさんが田畑に入って頑張る様子を熱演。なさぬ仲の娘を可愛がって育てるために実子をあきらめたというエピソードにも驚いたが、信念を貫いて愛する夫とともに生きた女性像をくっきり出していたと思う。

父親役の加藤剛と佐々木役の宍戸開は「日本の青空」に続いての出演。眼鏡をかけた太田祖電は大鶴義丹と最初は気がつかなかったが、好演。

民主党政権になって後期高齢者医療制度が見直されるという約束なのだが、放置すれば優先順位が低いとかいってどんどん先延ばしや内容が後退することも十分ありえる。
しっかりと監視していかなければならないと思う。このまま何もしなければ、「安心して老後が迎えられる社会」は絵に描いた餅のままだ。
東京都が裁判の末に行政責任をとることにして無料化した喘息治療を、是非国として無料にして欲しい。ものすごく薬代も高くて年間の治療費は10万円を越すのだ。このままでは高齢者ケアハウスに入るようなことになる時は都内の施設にしないといけないのではないかとまで思いつめている。

最後に「日本国憲法」第25条の条文を掲載しておく。
一、 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
ニ、 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(追記)
プログラムに太田祖電さんが寄稿されていて、肩書きが元村長となっていたので、深澤村長のあとを継承されたんだろうと推測。
その中に紹介されていた深澤村長の言葉がズシンときたので追記してご紹介する。
「・・・与えられた人の命を燃焼しつくすまで、住民の命を守りつづけることが主義主張を超えた政治の基本でなければならない。教育も経済も文化も、すべてこの生命尊重の理念に奉仕すべきものである。・・・」


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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hitomi)
2010-05-04 01:37:39
沢内村の事は随分前に社会科で知りました。素晴らしい方がいるんだとうれしかったです。さらに映画化されてうれしいです。
他にも山田洋次監督が映画化される良い話があります。

喘息、大変ですよね。今年は花粉症がかつてないぐらい楽でしたが毎年、辛いは、費用はかかるわでうんざりです。公害もあると思うのです。
私も始め大鶴義丹とはわかりませんでした。村長が若い方を抜擢するところも嬉しかったです
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★hitomiさま (ぴかちゅう)
2010-05-04 01:45:02
>村長が若い方を抜擢するところも嬉しかった......そうなんですよね。プログラムに太田祖電さんが寄稿されていて、肩書きが元村長となっていたので、深澤村長のあとを継承されたんだろうと推測しました。
その中に紹介されていた深澤村長の言葉がズシンときました。
「・・・与えられた人の命を燃焼しつくすまで、住民の命を守りつづけることが主義主張を超えた政治の基本でなければならない。教育も経済も文化も、すべてこの生命尊重の理念に奉仕すべきものである。・・・」
そうだ、本文にも追記を入れておきましょう。
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ありがとうございました (小老朋友)
2010-05-05 17:23:51
「コラボ・コープOB」と「生協OB九条の会・埼玉」の二つのブログへのアクセスのうえ、このような素晴らしいご感想文へのリンクをご紹介いただき、誠にありがとうございました。
またの機会には、コメント欄にコメントと一緒にURLを記載してご紹介下さったほうが分かりやすいのではないかと存じます。
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高齢者 (paru)
2010-05-06 02:00:20
民主党になっても?なったから?高齢者になると医療費負担が今度から上がると親が言っていました。
寒冷地ではその気候だけで寿命が縮まりますが、
世界的に見ても長寿の村って同じ地域でも沿岸部より山間部だったりすることが多いので、そのような地域の生活のしくみを取り入れるというのも大事かもしれませんね。
鎌田實さんと長野県、茅野市の取り組みなどはよいと思っています。
今の医療では慢性的に病院にかかればかかるほど薬を出され、具合が悪くなると思っていますので、予防(健康診断以前の)は大事ですね。
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皆様、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2010-05-09 00:43:08
★小老朋友さま
貴ブログで情報アップしていただいたからこそ、地元の上映会を見逃さずにすみました。感謝申し上げます。
コメント欄にコメントと一緒に記事のURLとのこと、了解しました!
★paruさま
>高齢者になると医療費負担が今度から上がる......このくらいの政権交代ではこの方向は止まらないでしょうね。大きな方向転換をさせるような政治勢力を日本の国民全体としてつくり出せていないと思いますから。
鎌田實さんのオフィシャルサイトみつけました。面白そうですね。
http://www.kamataminoru.com/
こころとからだについては、精神的な余裕がまずないと生活を変える力が出ないような気がします。鶏と卵の関係みたいにどちらが先かということもないとも思うのですが(^^ゞ
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TBありがとうございました (KUMA0504)
2010-08-20 10:12:41
この「日本の青空」第二弾は前作よりもドラマ性が増していて、大変面白く作られていました。こういう映画がどんどん作られるべきなのですが、いかんせん、賛助団体があまりにも狭すぎる。
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★「再出発日記」のKUMA0504さま (ぴかちゅう)
2010-08-21 01:33:15
この映画を撮影している最中の記事にTBしてしまいました。作品の感想のTB返ししていただいてよかったです。有難うございましたm(_ _)m
日本国憲法の制定過程を描いた前作も今回の作品も私には実に面白かったです。しかしながら広がりがないのも事実ですね。
周囲の国から監視され続けたドイツと違ってアメリカの占領政策転換後、日本の過去の過ちについての歴史教育をしないという政策の徹底で、歴史のブームは英雄ばかりおっかけるミーハーなものになっているのではないかと危惧しています。
ヨーロッパのような労働者階級の成長がないと、保守反動勢力が増長してしまいます。「市民運動こそ社会を変える力」というのも気分で流されてしまいやすい弱さがあります。「市民」=高学歴高収入の階層が中心で社会の弱者は組織できていないような気がします。
さて、これからの社会の結集軸はどのように構築していったらいいのかと考えているところです。
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