ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/04/17 スーパー歌舞伎の原点『ヤマトタケル』よかった!

2005-04-19 23:29:10 | 観劇
スーパー歌舞伎は『新・三国志Ⅱ』『新・三国志Ⅲ』と観ているが、昨年のⅢの再演は忙しくて観ることができなかった。そして今回のダブルキャストによる『ヤマトタケル』は絶対観ると決めていた。本当は右近主演と段治郎主演の2公演を観たかったが、段治郎主演の方で1回で終わることになった。実は猿之助による『ヤマトタケル』を教育TVで放映していたのをかなり昔に途中から見たことがある。走水の弟姫入水くらいからだと記憶している。波布を動かして荒れる海を表すというのも新鮮に見ていたくらいだから、歌舞伎鑑賞教室以来だったかもしれない。話自体は壮大でけっこういいなと思ったが、冗長だったのでこれを全部見ていたら退屈だったかもと思った悪い第一印象がある。
しかし、今回観てその印象は一変した。パンフを読んだら初演からはかなり削り込んだという。演出も大幅に変わっているのがわかった。波布のところだってずいぶん違う。これはやはり早めに右近でも1回見ておくべきだったと思ったが、もう残りの日が少ない。次に楽しみに残すとしよう。NHKもダブルキャストの両方を放映というわけにはいかないだろうから放映しなかったらどうしよう・・・。DVDは猿之助で出ているし、買う人は買うから両方出すとかしてくれないかなあ、松竹さん??

梅原猛先生と猿之助の出会いから始まり、ふたりは歌舞伎の原点を踏まえた今の時代に求められる新・新歌舞伎の必要性で意気投合。猿之助の何気なく「先生書いてください」に本気で梅原先生が応えて書かれた電話帳のような脚本が『ヤマトタケル』の出発点だという。それを削りに削り、まず4時間半の作品に、それを再演で削り、さらに今回削ったというが、それでも十分中身の濃い、見応え十二分の作品だ。
梅原先生の哲学があちこちで伺われ、骨太い。大和朝廷に平定されてしまう熊襲や蝦夷をただの蛮族ではなく、それぞれの誇り高い文化(縄文文化圏と思われる)を築き平和に暮らしていた人々として描き、それを鉄と米の文化(弥生文化圏の権力)が飲み込んだという歴史解釈を踏まえて時代の変化を描く。その征伐に出向く小碓命(ヤマトタケル)を、自らの戦の大義のなさに気づいてしまい悩みながらも父である帝に誉められたい一心でたたかう姿として描くところがいい。
腹違いの兄弟もいる中で母をなくし、父の愛情に確信が持てずに疑心暗鬼になって謀反を企てる双子の兄大碓命とも違って悩みまくりながらも父の指示に従って戦に赴く親孝行というか、親を慕う心の強い男として描かれている。だから戦の中でも揺れ動き、その勇ましさが滅び行く熊襲タケルから評価されタケルの称号を贈られるような勇者ぶりを見せた後、その慰めを素直に女に求めるような可愛い男である。それが女心もくすぐり、共に行動する男たちをもひきつけるのである。
また、『新・三国志』シリーズのような本水や本物の火を使っていないが、それを波布や火布で大勢の出演者が息を合わせて動かしてあの迫力を作り上げているところがすごい。歌舞伎の伝統的な技術の粋をバージョンアップして見せてくれていると思う。この大勢の人を惜しみなく使うというところも贅沢極まりない(3月の国立劇場の人出の少なさと対極的だ)。
来年の3~4月の新橋演舞場は何を見せてくれるのだろうと、もうすでに楽しみになっている。


さて、主要キャスト評。
ヤマトタケル=段治郎
「自分が演じているのがヤマトタケルなのか市川猿之助なのかわからなくなるときがある」とパンフに書いてあったが、本当に見得の表情など猿之助の見得そっくりに見えることが何度もあった。芝居中の表情も本当に豊かになった。『本朝廿四孝』の愛之助のところでも書いたが、眉と目の間がある程度長めの顔立ちの方が上品で美しいし、表情も豊かになるという私の持論に段治郎もあてはまる。伏し目がちにしていて、目の開き方に変化をつけた時に顔全体も多様な表情ができるし、反対にそのへんがうまくできないと一番のっぺりした表情になってしまうが。『楼門五三桐』の小鮒の源五郎の頃はそののっぺり顔。声の高低の使い分けも上達している。嘆きの台詞が高い声になっていったあたりも美しく響く。第一の長所である長身が立ち姿だけでなく四肢の動きがきれいになってきた。立ち回りもいい。冒頭の兄と弟二役の早替りで色悪のような兄大碓命も魅力的に演じるし、小碓命のように悩みまくり、女に甘えるような役柄もいい。こういう情けない役は右近よりもはまるような気がする(右近は観ていないので思い込みだけど)。
これからしばらくのスーパー歌舞伎は右近と段治郎のダブルキャストで続けてほしいものだ。

タケヒコ=右近
昨年の『西太后』では藤間紫の西太后を支持する醇親王役でなかなか渋みのある演技を見せていて見直した。今回のタケヒコも大和朝廷に恭順の姿勢を示してはいるが本心は違う吉備の国の大君だったが、帝から同行を命じられたタケルの人柄に惚れこみ、ともに苦難をのりこえていくという役柄をなかなか渋く演じていた。特にタケルの死後残された人が語る場面の存在感がこの人ならではと思わせた。

兄橘姫、みやず姫=笑也
笑也はスーパー歌舞伎の立女形としては申し分ない。とくに黒装束で愛した大碓命の仇をとろうと小碓命をつけねらう姿がきりっとしていてよかった。しかしながら昨年の『西太后』での宦官役も狂言回し的な役回りを存在感たっぷりに演じ、この人の新しい面も発見した。今後は兼ねる役者として実力をつけていただきたいがどうだろうか。

弟橘姫=春猿
猿之助一門では一番赤姫の似合う真女形タイプだと思う。喉の手術後は声がよくなり安心してきいていられる。弟橘姫は走水での嵐から助かるための海王の神託でタケルを救うために入水する必要を知ると、自分が死ぬことによるタケルの心の負担を軽くしようと兄姫がいるから自分は皇后になれないから海王の皇后になるという言い方をして精一杯の虚勢をはって海に浮かべた畳の上に乗って沈んでいく。女形ではなかなかない劇的な死に方をする美味しい役だと思うが、役に負けずにその魅力を発揮した。女形陣の中では春猿が一番成長著しいと思う。国立劇場研修生同期どうしの段治郎・春猿で何かやってくれないだろうか。

倭姫、帝の使者=笑三郎
小碓命を支える叔母で、帝に疎まれて伊勢の斎宮として下っていたが蝦夷征伐の途中で会いにきた小碓に秘密裏に神宮の宝剣「雨の村雲の剣」を持たせたことから彼の危機を救うことになる。弟橘姫が小碓を慕っているのを見抜き、縁結びをしたのも倭姫だし、なかなか粋なおばさまの役を茶目っ気たっぷりに演じていて楽しませてくれる。小碓の死後、息子のワカタケルに皇太子指名の帝の使者として登場するが、立ち役もきりっとしていていい。兼ねる役者として両方いろいろやってほしい。

皇后、山姥神=門之助
先の皇后の子の大碓・小碓を疎んじている様子が最初からありありで、大碓を殺したために小碓が熊襲征伐を命じられる時の冷たい微笑み。2階席からでも私もしっかり観てました。いかにも帝に大きな影響力をもった皇后という存在感が出せるのは彼ならではと思う。後半の山姥神は自らの命を犠牲にして術を使い小碓に致命傷を与える見せ場のある役だが、可愛い。それも彼の持ち味である。

熊襲タケル弟、山神=猿弥
兄とともに女の踊り子に化けた小碓命に殺されるが、とどめを刺される前に、小碓に敬意を表してタケルの名を贈る。最後は逆に油断した小碓に致命傷を与える伊吹山の山神役なのがおかしい。山神といってもかつては国つ神であり天つ神に追われて鬼神になり、その子孫の大和朝廷に恨みがあるという設定なので、これも熊襲や蝦夷同様、あとからやってきた文化圏の権力に敗れた者の象徴なのである。猿弥・門之助の山神夫婦の仲のよさ、力を合わせて恨みを晴らすところがなかなか楽しい。猿弥にはこういう味のある役をこれからも愛嬌たっぷりに演じてほしい。

熊襲タケル兄、蝦夷弟ヤイレム=猿四郎
猿十郎さん亡き後を埋める形で敵役として活躍が目立ってきた。今回は二役とも小碓命に征伐される役だが、蝦夷弟ヤイレムが殺される前に小碓にこの戦の大義を問いかけるが、そこの台詞も胸にしみた。段治郎、春猿と研修生同期だというし、ますます頑張ってほしい。

帝=金田龍之介
スーパー歌舞伎にはなくてはならぬ人になっている金田龍之介。今回も小碓命が慕い続けた父帝を貫禄たっぷりに演じた。一方、今の皇后の言うことも無視できないという人間臭さも漂わせないといけない。そうでないと何故小碓命にこんなに冷たい仕打ちをするのかという説得力にかけてしまう。彼ならそういう複雑な芝居は安心である。(ちなみに私の小学校時代の同級生のお父さんである。応援してます!)

今回の公演の音楽は加藤和彦による全曲新作だそうで、『新・三国志』シリーズと通ずる雰囲気があった。全体的にアジア的だが、特に琵琶の音が効果的でよかったと思う。衣裳も中国物よりも今回の方が豪華できれいだったと思う。熊襲兄弟の衣裳も楽しかったし、それぞれの姫の衣裳も美しかった。最後の白鳥になったタケルの魂の昇天の宙乗り衣裳も宝塚のようで夢のようだった(翼を広げるジュディ・オングの「魅せられて」の時の衣裳にヒントをもらったのだろうか?)。
とにかく目にも耳にも心にも至福の舞台だった。
     

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16 コメント

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ちょっと便乗 (HineMosNotari)
2005-04-20 11:04:14
こんにちわ ぴかちゅうさん

「そうそう」とうなずいちゃうところがたくさんある、つぼを押えて、かつシンプルにまとめてあるすごい観劇記です!私もこのくらい、きれいにまとめて書けるようになりたいっ!と思います…

(性格的に多分無理だと思いますが(^_^;)

で、便乗しまして一?言。



私もブログに書きましたが、「勘三郎BOX」より、「ヤマトタケル紅白セット」(^_^;)の方が私にとっては魅力的。でも、いまのところ、NHKも歌舞chも、撮影に来てたという話を聞いてないのですが…どこでもいいので、ぜひとも記録しておいて欲しい舞台です。



大勢の人を使う→お金がかかる→なかなか出来ない というジレンマを越えるのは難しいんでしょうねぇ…。集客力はあるお芝居だと思うのですが、(私も含めてリピーターがたくさんいるみたいだし)勘三郎襲名に比べられてしまうと痛いところです…(-_-;)



段治郎さんの「四肢の動き」というのは、私も同感です。しゃがんで足を前に出した時の形のよさ!背が高いって、足が長いって、いいなぁと思ってしまいます。(^_^;)

あとは、姿勢のよさと口跡の鮮やかさ。普通にたってるときも背筋がきれいに伸びてるのが、目につきますし、低い声のセリフでもはっきり聞き取れるので、凄みが増します。それから、立ち回りのキレのよさ。熊襲の館での立ち回りになると、イキイキして見えます(^_^;)



春猿さんと段治郎さんの共演ですが、以前、春猿さんのHPに掲載されていましたが、今年の夏、自主公演で段治郎さんをお相手に「滝の白糸」をやる予定だったそうですが、都合により、中止になったそうです。残念。



ぜひ、ぴかちゅうさんには右近さんがタケルのバージョンも見て欲しいところです。でも、東京公演は今日をいれてあと7回!

本当に、来年もやってもらえるとうれしいのですが…そのときは帝役とかでもいいので、猿之助さんも復帰してくれるといいなぁ…でもそうなったら、チケット取れないかもしれませんねぇ(^_^;)
コメントありがとう、これからもよろしく! (ぴかちゅう)
2005-04-20 12:07:17
●うみひこ様

「はじめまして。いつもはROM専ですが、楽しく拝見させていただいています。今日は内容と関係のないことですみません。......(このコメントは削除していただいて結構です)」とご指摘いただいた件、了解しました。ご指摘ありがとうございました。削除はさせていただきましたが、この場にて御礼申し上げます。今後ともよろしくお願いします。そしてこれからもコメントお寄せください。お待ちしています。



●HineMosNotari様

「ヤマトタケル紅白セット」とはなかなかいいネーミングですね。そうそう今年の夏、春猿さんの自主公演で段治郎さんをお相手に「滝の白糸」をやる話、私も小耳にはさんでましたが、もう自主公演に出るより大きな公演でひっぱりだこなのではないかなあ。いいのよ、もっと大舞台でふたりで堂々と主役級で組んでみてほしいのだけど、「切られ与三」なんてどうかしら。このコメントを書いている間にHineMosNotariさんから「華が出てきた段治郎」の方の記事に「コメントのコメントでご容赦」というコメントが飛んできました(すごいタイミング)。いいんですよ、コメントのコメントは容赦どころか大いにありあり!です。松嶋屋の千之助ちゃんの記事なんて15本にもなってしまった。サロンみたいでいいじゃないですか。これからもどんどんコメントしてくださいね。

HineMosNotari様 (ぴかちゅう)
2005-04-20 12:55:25
gooブログが不調で嫌になりますね。

HineMosNotariさんのブログに昨日コメントで3月の長いほうの『ヤマトタケル』記事のTBをお願いしましたが、読んでいただけましたか?楽天の方=目八ブログだから最新のコメントとかにすぐに気づいていただきましたでしょうか?お待ちしています~。

す、すみません~ (HineMosNotari)
2005-04-20 17:00:29
(重複投稿になってたらすみません)

夕べ、帰ってきてから、PC開く気力がなくて…(^_^;)

出先からでは、ログインしてTBつけられないので、すみませんが、今晩までおまちくださいませ~。

目八の方も、さきほどコメントつけました!

すみません~ なんか手際悪くて…(^_^;)

でも、ブログにコメントつくと うれしいですね~。今までTBとかも自分のとこからしか飛ばしてなかったんで、ぴかちゅうさんやsayuriさんからTBもらって、すごくうれしいです♪

私もちょくちょく遊びにきますので、ぴかちゅうさんも、手際の悪さにあきれずに、遊びにきてくださいね~。
鳴神いかが (お茶屋娘)
2005-04-20 21:12:51
段治郎、春猿で、「鳴神」希望!春猿くんなら、めちゃめちゃセクシーな雲絶間姫になりそうだし、段ちゃんの上人は、もう言葉にできません。

茶屋娘、妄想のカタマリになっております。
「段・玉」か「段・春」か、いや両方を! (ぴかちゅう)
2005-04-21 03:17:32
私の舞台写真コレクションを職場で隣に座っていた「玉様ファンのダンサー」さんに見せたら、赤姫姿の春猿を玉三郎と間違えていました。もちろん背の高さとかは違うけど、けっこう似ていると私も思ってます。

でも確かに玉三郎にはあまりセクシーさは感じないよね。そっちは福助の方があると思う(「桜姫」ラクの前前日の金曜日夜前から9列目の平土間とってしまった。福助がんばれよ~)。春猿はこれからそっちも出せるようになると思う。

段治郎は玉三郎とも春猿ともどんどん組んで大きな舞台で活躍してほしい。ああ、博多座の「三人吉三」が観たい~。でも飛行機代が出せない。東京でやってくださ~い。

Unknown (かつらぎ)
2005-04-21 08:10:22
素晴らしいレポありがとうございました。

舞台の波が乗り移ってくるようなレポですね。

段治郎・右近のダブルキャストは、やはり見事成功というべきでしょうか。今回は観劇を結局諦めましたが、新たなる飛翔はまた続くことを祈って。乾杯です!

おまたせしました~ (HineMosNotari)
2005-04-22 23:17:44
こんばんわ ぴかちゅうさん

TB間違ってしまっててすみません!

ご指摘の「左のフリーページ」表示も確かにこちらの不案内です。こちらも修正しました。(TBのとこに出てる記事は修正前です)

自分ではなかなか気づかないとこだったので、ご指摘いただき助かりました。

また、なにかお気づきの点がありましたら、遠慮なく、ご指摘をお願いします。

これからもよろしくお願いしまーす!
「龍の目」様 (ぴかちゅう)
2005-04-30 02:48:44
TBありがとうございました。私の記事もTBさせていただきます。「歌舞伎はエンターテイメント」というのはまさにその通りだと思います。猿之助丈の『スーパー歌舞伎』という新書も読みました。彼の奮闘があればこそ、下の世代の勘三郎もいろいろな新しい取り組みができたのだと思います。

猿之助さんはもう無理をされないようにしてしていただきたいです。演出やプロデューサー的なお仕事をメインに、出演するとしても出番があまり多くなくても舞台を締める役とかで活躍していただければいいなと思っています。7月の歌舞伎座からははずされるなど一門がちょっと不遇だとは思いますが、国立劇場で頑張ってほしいし、来年のスーパー歌舞伎も新橋演舞場でダブルキャストで上演してほしいです。
チケットゲット(*^^)v (kabukist)
2005-05-06 17:10:01
ぴかちゅうさんにぐいっと背中押されて(笑) ヤマトタケル、チケット申し込んでしまいました(^^;;

せっかくだから段治郎さんのと右近さんの両方♪

右近さんのは千秋楽。ひょっとするとまた猿之助さんの登場ということも?(欲張りっ!)

楽しんできますね~♪

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