ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/05/14 五月文楽第二部②「新版歌祭文」約40年ぶりの本格バージョン

2010-05-19 23:59:37 | 観劇

「新版歌祭文」は、2007年7月の歌舞伎鑑賞教室で「野崎村」を観たのが初見。その前に住大夫の「野崎村の段」のCDで聞き込んで観たし、文楽のは同じ年の12月に座摩社の段・野崎村の段を観ている。店のお金の横領の濡れ衣を久松を陥れる小助に勘十郎をあてて、小助が大活躍のバージョンだったような印象が残っている。
歌舞伎座でも「野崎村」をもう一回観ている(感想未アップ)ので、なんとなく今回の文楽公演もまた「野崎村」だしと油断してしまっていたが、ガツンとやられた。最近は事前のおさらいをせずに観てしまうことも多いので反省しきり。

【新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)】近松半二=作   
野崎村の段・油屋の段・蔵場の段
(人形役割)
おみつ=吉田蓑助 祭文売り=吉田文哉 久作=吉田玉女 久三の小助=桐竹勘十郎 丁稚久松=豊松清十郎 娘お染=桐竹紋壽 おみつの母=桐竹勘壽 油屋お勝=吉田勘彌 駕籠屋=桐竹紋吉、吉田玉翔 船頭=吉田蓑紫郎 油絞り勘六=吉田玉也 油絞り久兵衛=吉田玉勢 油絞り長八=吉田蓑次 乳母お庄=吉田和生 鈴木弥忠太=桐竹亀次、ほか
<野崎村の段>
中 竹本文字久大夫・豊澤富助
  竹本綱大夫・鶴澤清二郎
切 竹本住大夫・野澤錦糸 ツレ 豊澤龍璽
蓑助のおみつが親孝行な娘でまめまめしく働く様子が実に可愛い。人形でも小ぶりな大根をちゃんと切っていたんだと思わず切り方に注目(笑)玉女の久作との父と子の情愛が見事。清十郎の久松の線の細そうな二枚目ぶりにこれは二人の女に懸想されるのも無理はないと初めて思えた。恋敵のお染に当たる蓑助のおみつのハチャメチャさが無類。
住大夫の前をつとめる弟子の文字久大夫は丁寧に勤めている感じ。綱大夫から住大夫へのリレーは贅沢そのもの。国立劇場での「油屋」「蔵場」の上演は1971年2月以来ということで約40年ぶりの本格上演企画だったのだ。見逃さずにすんだ私は実にラッキーだったと思うが、こんな企画だともっとしっかりチェックしておけば友人を誘えたのにと残念至極。反省!

<油屋の段>
中 豊竹咲甫大夫・鶴澤清志郎
切 豊竹咲大夫・鶴澤燕三
「座摩社の段」でも出てきた油絞り勘六がいわくありげ。小助が大星由良之助よろしく茶屋遊びから戻ってきてお染の結納金を盗んで勘六が後にとっておいた飯椀の中に隠す。その目録だけ久松の手文庫に入れて濡れ衣をきせる悪だくみ。勘十郎の小助の小悪党ぶりに大いに笑えて見応えたっぷり。
清十郎の久松と紋壽のお染のじゃらじゃらぶりには実に上方の和事らしさを感じる。その久松の乳母のお庄が登場し、久松が甘えかかるところで相当な家の若様だったことがよくわかった。久松の品はいいがひ弱な感じはこういう育ちからきているのかと納得。二人が最後には心中してしまうという結末を知って見ているのだが、これじゃ簡単に死んじゃうだろうなぁと容易に想像がつく。
許婚の山家屋佐四郎が乗り込んできているところに鈴木弥忠太が浪人に化けてお染の誓紙をネタに強請りにくる。油屋の女将のお勝が見破り、飯椀の中の金も出てきて小助の悪だくみも暴かれて、と勧善懲悪の結末に展開。勘六がお庄の子どもだったこと、二人ともお家断絶となっていたお主のために重宝・吉光の短刀を探して奔走していたこともわかった。さらに久松に同情したもお勝が娘を犠牲にしてまで結納の品として入手していたのが吉光の短刀だったことも判明。お庄は久松と勘六を連れて蔵屋敷に急ぐところで幕。
お家の再興のために身を尽くす人々を描く当時の狂言の王道をいく内容か?!

<蔵場の段>
お勝=豊竹松香大夫、勘六=竹本津国大夫、小助・弥忠太=竹本文字久大夫、お染=豊竹睦大夫、丁稚久松=豊竹つばさ大夫
お勝は娘のお染に驚くべき告白を始める。やもめになったが役者に入れあげて五ヶ月の身重になっていて「堕ろし薬」を飲むつもりだと言う。これは娘の身を自分に置き換えて諭したわけで、娘に子を堕ろして山家屋に嫁いでくれと頼むのだ。そして早く飽きられて離縁されて戻ることを祈っているとも言う。これにはびっくりした。このレベルの内容では現代の歌舞伎ではまぁ上演されないだろうとも思う。

そこに久松が戻ってくるのだ。届けた吉光の短刀は偽物でお家再興の望みは消え、死ぬ決意を固めてお染に暇乞いにきたのだ。久松のためにお染も生きながらえて嫁ぐつもりになったのに、久松が死ぬのなら自分も一緒に死ぬことに躊躇いはない。
ほとんど同時に勘六が弥忠太の腰に吉光の本物ありと見破って取り返したものの、もう遅かった。二人は土蔵の窓から目を見交わし、お染は井戸に飛び込んで久松は土蔵で首をくくって死んでしまった。勘六に抱きかかえられて土蔵から運び出される久松の魂の抜けた亡骸は、人形ならではの悲しさが迫ってくる。

ひ弱な若様育ちでお家再興のために一生懸命生きるという気がなかった久松と、何不自由なく育った商家のお嬢様のお染は、不義密通で子どもができてしまった事態になった時にもう心中という運命に向かって走り出していたのだろう。
周囲の善意も努力もうまく噛み合わず、若い二人の直情は悲劇に向かって突っ走ったという悲劇。これはなかなか苦い物語である。

前回の「座摩社の段」の記憶と今回をつなげてみると、久松の足を引っ張る敵役の小助の存在が大きい。久松の生家の再興の縦糸とお染との悲恋の横糸で大きな悲劇の物語が織り出された。「ロミオとジュリエット」ばりにタイミングがずれたことで若い恋人たちが死ななければならなかった悲劇とも思えて、江戸時代の戯作者たちのスケールの大きさをあらためて思い知らされた。江戸の文化は奥が深い。

前回おみつの母を遣っていた吉田玉英さんがご逝去ということでご冥福をお祈りしたい。また、呂茂大夫が退座ということで大夫陣が変更になっていた。こうして少しずつ顔ぶれが変わっていくのだとも思った。

写真は公式サイトで今公演のチラシ画像のお染と久松。
5/14五月文楽第二部①「団子売」
5/23五月文楽第一部①大スペクタクルの「金閣寺」
5/23五月文楽第一部②「碁太平記白石噺」「連獅子」
(6/4追記)
桐竹紋壽が遣うお染の衣裳で襟から後ろに垂らす鈴のついた飾りが気になったが、「ええねん!文楽」さんのブログの記事を紹介させていただきますm(_ _)m


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
久々の文楽 (さちぎく)
2010-05-24 12:25:42
いつも歌舞伎観劇に追われ文楽も気になるのにご無沙汰気味でした。今月は1部、2部と見られて良かった!かなりすごい展開ですが、当時も若き男女はこうした事情で悩んでいたのでしょうね。芝居ですからお家騒動が絡んでいますが、恋愛、結婚の悩みは今も変わりないのですよね。1部ご一緒できて良かったです。2列目は良く見えて最高でしたね。
★さちぎく様 (ぴかちゅう)
2010-05-31 23:54:31
返事コメントが遅くなってごめんなさいm(_ _)m
第二部も御覧になれたとのことで、よかったです。この演目は約40年ぶりの本格バージョンの上演ということで本当に見逃さずにすんでよかったです。内容を観ると上演頻度が高くないのもなぁるほどと納得しました。歌舞伎ではまぁ上演されないでしょうね。
玲小姐さんからお江戸の文化を理解するための推薦図書が回ってきて、氏家幹人著『江戸の性風俗 笑いと情死のエロス』(講談社現代新書)を読みましたが、性愛のかたちから江戸精神史を読みかえるというキャッチコピーそのままという感じで、この狂言のことも思い返しながら面白く読み終えました。江戸の文化研究が深まります(^^ゞ
ご一緒した文楽第一部もこれからしっかり書く予定ですが、「助六」で五月花形歌舞伎の感想を完結しました。そちらもどうぞ御目通しいただけると嬉しいです。
6月は国立の「鳴神」とコクーン歌舞伎を観劇予定。友人を誘って観劇仲間を増やすことにも力を入れています(^^ゞ
恐縮です (テンプル)
2010-06-05 02:38:36
当ブログのようなへぼサイトをお取り上げいただき恐縮至極でございます。
ありがとうございます。
ちなみに野崎村の大根切り(爆)のシーンですが、昨年12月博多座公演でのお光(紋壽さんでした)は、トンと切った大根の首を、ぽ~いっと豪快に客席の手前まで放り投げましたが、簑助さんのお光はまたちょっと違う、あと、今回のお光とお染のやりとりは、毎日ちょっとずつアドリブが入って変化していたのです。
師匠が同じの兄弟子弟弟子だったおふたりならではの、息のあったコンビネーションは、妹背山の山の段でも観られましたが、おふたりとも本当にまだまだお元気で頑張っていただきたいです・・・存在自体が、宝です。
★「ええねん!文楽」のテンプル様 (ぴかちゅう)
2010-06-08 00:28:34
>今回のお光とお染のやりとりは・・・・・・師匠が同じの兄弟子弟弟子だったおふたりならではの、息のあったコンビネーション
そうだったんですね!今回のお光とお染のやりとりは本当にすごいなぁと感心しながら見ていました。
私もお二人のご活躍をしっかり見ていきたいと思います!
一度ゆっくりテンプルさんの文楽談義を聞かせていただければ有難いです。

コメントを投稿