ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/03/31 『デモクラシー』千秋楽!

2005-05-11 02:06:24 | 観劇
今晩(5/10)の「ニュース23」を見ていたら、ドイツの首都ベルリンにホロコースト記念碑ができたという。筑紫哲也がこれは東京の皇居と国会議事堂との間に日本が戦争で外国で殺してきた人々の慰霊碑をつくるようなもので大変なことだと言っていた。若者の半数近くがホロコーストについてよく知らない時代を迎えており、極右勢力も一定の支持を集めている。そういう人達が記念碑にいたずらをすることもあると覚悟の上でそうしたらまた議論して社会が成熟すればいいという。社会の「成熟度」これが今日の多事争論のキーワードだった。いつまで被害者に謝り続けるのかという問いに対しての政府の姿勢はいつまでも謝り続けるという姿勢だそうだ。ナチ=過去のドイツの犯した罪については政権がキリスト教民主党であれ社会民主党であれ、ぶれることはないのがドイツ社会の成熟度の高さなんだろうと思った。日本は...何をかいわんやである。

さて、2/11に市村正親と鹿賀丈史が26年ぶりに共演する『デモクラシー』初日を観て、終演後にロビーでテレビ東京のカメラインタビューを受けてしまい、翌々日の夜『ソロモンの王宮』市村正親特集で一瞬だがしっかり映ってしまったことはこの日記で書いたが、体調を崩していてちゃんとした記事は書かずにここまできてしまった。勘三郎襲名公演の記事もひと段落ついたので、パンフなどを見て思い出しながら、なんとか書いておきたい。
今回の企画の経緯は下記のようである。
「久しぶりにシリアスな舞台がやりたい」と考えていた市村がプロデューサーに勧められ、イギリスで「デモクラシー」を観劇、その場で自分がギョーム役をやることと、相手役ブラントには鹿賀がいいと決め、...帰国後すぐに自ら電話して説得したという。
実話にもとづくストーリーの大筋は以下の通り。
東西ドイツの融和に尽力し、ベルリンの壁崩壊への道筋をつくった西ドイツ首相ブラント。のちにノーベル平和賞まで受賞した彼に長く仕えていた私設秘書ギョームが実は東ドイツのスパイだった……。この歴史的大事件のあとさきを、さまざまな立場の政界の男の姿を通して描く。

冒頭、鹿賀丈史のブラントが首相就任受諾演説で登場しての第一声からあの独特の勿体ぶったような台詞回しにしびれる。まさにこの第一声でカリスマ首相的雰囲気を漂わせる(ただし、このマジックにかからなかった人には今回のキャスティングの醍醐味は半減するだろうが)。キリスト教民主党が長らく政権にあり、社会民主党から首相が出るのは40年ぶりということで党内は湧いている。しかしながら内部の力関係は微妙。党内の黒幕、院内総務のヴェーナー(藤木孝)との関係はなかなか難しいようだ。首相執務室チーフ法学者のエームケ(近藤芳正)は温厚な感じが良く出ている。彼はブラントがインテリゲンチャばかりに囲まれる弊害をおそれ、庶民の代表のようなギョーム(市村正親)を地方支部から抜擢している。庶民の代表という役柄もぴったりだ。エームケの部下の法律家ヴィルケ(石川禅)は露骨に嫌がるがその鼻持ちならない様子がうまく出ている。ギョームは10数年前に東ドイツから亡命してきて西ドイツにきてから社会民主党に入りコピーショップ経営などを経て党の専従職員になって身を粉にして働いているところを評価されたのだった。首相執務室にきてからも同様の働きについに首相付きの秘書にまで抜擢される。しかしながらその実は東ドイツから送り込まれたスパイでエージェントのクレッチマン(今井朋彦)と定期的に連絡をとっていたのだ。今井は大河ドラマ『新撰組』で徳川慶喜を演じてから知名度が高まっているが、同じ舞台に立っていながら他のメンバーには見えていないという設定の役を淡々と演じていたのが印象的だった。
ブラント政権は中道政党の自由民主党との連立政権であり政権基盤は磐石とはいえない。そこをカリスマ首相ブラントが次々とソ連や東ドイツ側と融和政策をすすめ、国民の支持を受けて選挙に勝利しているうちは、政権の結束は固い。ブラントには慎重になりすぎたり鬱状態に入ると引きこもってしまったり、ワインが手放せなかったりというと弱い面があった。周囲はそれにいらついたりなだめ励ましたりと大変だ。外交で成功しても国内の経済政策で行き詰れば、責任のおしつけあいが始まる。エームケがブラントをしっかりと支えていたのにヴェーナーなどの策謀で更迭されてしまう。
エームケに替わってギョームがブラントをしっかり支えることになる。選挙戦の中で列車で国内遊説に飛び回るブラントとギョーム。ブラントには第二次世界大戦時には海外に亡命して諸国で国籍や名前も偽りつつ生き延びてきた過去があり、自国に残って地下でレジスタンスを続けた同志に対してのコンプレックスにもなっていて彼を苦しめるのだ。ブラントがギョームに語るその苦悩は、スパイであるギョームの苦悩と重なっていく。ともに行動するにつれて次第次第にブラントの人柄に惚れていくギョーム。友情にも似た奇妙な関係が二人の間に築かれていく。本国に忠実でありつつも、スパイであることをブラントに知られることを恐れるようになるギョーム。それを最終的に暴くのは保安局長官のノラウ(温水洋一)で、彼の持ち味のおどおどした感じをさせながら仕事は粘り強くすすめています的な感じがよかった。
また、ブラントは英雄色を好む面もあり遊説先で次々と女に手を出し(鹿賀丈史が絶妙の魅力で納得させてしまう)、それをギョームは管理していた。そのリストがもれてスキャンダルになったりしたが、最終的にはギョームがスパイであったことが発覚して失脚。ブラントを敬愛しつつもヴェーナー側についていたシュミット(三浦浩一)が後任の首相になり、彼の受諾演説で幕となる。影の薄い感じがぴったり。実際に急に後任になったシュミットは受諾までかなり自信が持てずに狼狽していたという記録があるという。対比的に藤木孝の黒幕の怪演が光った。
ノラウの上司のゲンシャー(加藤満)とボディーガードウーリー(小林正寛)も含めて10人の男だけが舞台にいるという、見た目はかなり地味な芝居だった。まあ女性の進出もまだまだの時代だったし。煙草も役として吸うことも多くけっこう舞台上はモクモク。そういう時代だったかもしれないが、最前列だと煙草臭かったかも。
ブラントとギョームの友情は継続できなかったが、個人の人間関係の上に国の体制の維持という命題があった。その命題も「ベルリンの壁」崩壊、続く東ドイツの体制崩壊で消えていった。しかしながら再び二人の関係は戻らないのだ。歴史の中で流されていった多くの人々の葛藤があったことに思いを抱いた。
作:マイケル・フレイン 演出:ポール・ミラー
ドイツに現実にあった話で政治性の高い実話をここまでおもしろい脚本に仕上げられるというのがイギリス現代劇の力だと思った。演出のポール・ミラー氏は初日私の席の少し後ろの方で観ていて、カーテンコールで舞台の上から市村さんに呼ばれてマイペースで下を向いて歩いて行ったが巻きを入れられているのを舞台のすぐ近くで気づいてあせっているのが可愛かった。
東京公演はシアター1010、青山劇場、ル テアトル銀座の3箇所だったが、音響のよくない席では台詞がほとんどききとれなかった所もあったと何人かから耳にした。こういう台詞劇はききとれないと全く意味をなさない。企画者側は今後もっとチェックすべき基本事項だろう。

個人的には、鹿賀丈史と市村正親がまさに光と影のようにお互いを引き立てあっていてベストコンビによる上演だと満足できた。ただし、日本の社会の成熟度からいってまだまだ多くの人に楽しんでもらえる内容とは思えなかった。
写真は、企画の報道用の写真から転載。

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9 コメント

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鹿賀さんの声 (お茶屋娘)
2005-05-11 10:40:37
私,好きなんですよ。お声が。

火曜サスペンスで「渡番頭鏡善太郎の推理」を観ました。元裁判官で、なぜか旅館の渡り番頭、という設定(かなり不自然?)が、鹿賀さんだと、妙に納得できてしまいます。ちょっと謎がある雰囲気がナイス!また、殺人の疑いをかけられた女将の無実を信じて、真犯人を探るわけですが、あのお声で、「あなたを守りますから。」みたいなことを言われたら、女将ならずとも、ちょっと、くらっといっちゃいます。(要は、女口説くの上手いのか?)

それにつけても、大河ドラマ「徳川家康」の鹿賀三成をまた観たいなあ。絶品だったもの。
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私も好きだなあ鹿賀さんの声・・・ (ぴかちゅう)
2005-05-11 14:48:15


今日はカウンセリングの予約日を間違えて渋谷まで行ってしまい、落ち込んで帰って来ました。元々月曜日だと勘違いして手帳をみて水曜日だと思い込んでいたので出かける前に手帳を見なかったんだけど、水曜日と木曜日を間違えていた・・・。落ち込んだ時や娘と喧嘩してイライラした時は『レミゼ』の鹿賀バルジャンの声をきくとおさまってきます。あとは山口さんの『オペラ座の怪人』かな。

鹿賀さん、2時間ドラマの刑事ものと渡番頭の2つシリーズものをもってるようですが、これで安定収入を得ながら気に入った舞台だけやってますね。もうホント我儘人間!一方、市村さんは泳いでないと死んじゃうマグロのように立て続けに舞台入れてるものね。本当に対照的な二人です。その対照的な個性が今回の舞台でもお互いを引き立てあって思い出しただけでうっとりしてしまう...。でも市村さんが自分のことよくわかっているのよね。鹿賀さんくらい強烈な光があると自分の影の演技が映えるって。その鹿賀さんの鬱の演技もよかったなあ。鹿賀さん、ブラントにこういう面がなかったら引き受けなかったんじゃないかなと思う。年末に『ジキル&ハイド』再演あるけど、どうしよう。今回も出てる石川禅が友人の弁護士役で抜擢されてるのも相当気になってるし...。



そうそう「渡番頭鏡善太郎の推理」はビデオにとってあるから早く見なくては。当日はNHKの終戦60年企画「望郷」っていうシベリアでの捕虜収容所でルーマニア人との間に友情がめばえた日本人の実話を踏まえたドラマと再会のドキュメンタリーを見てしまったからビデオにしたのよ。なぜ今頃シベリア抑留問題の方にだけスポットをあてるのかという胡散臭さは感じるのですが、まあ『異国の丘』もよかったし、そっちもきちんと抑えた上でもう一方の南京大虐殺の方も語らなくてはいけないしと思っております。昨晩の筑紫さんの話よかったよ。加害者の面と被害者の面の両方をきちんと理解して考えていかなくてはならないという話。

市村さんが次にTVに登場するのはどうせ結婚の話題だろうし(『anego』けっこういいのよ。今日も観なくては)、TVでは鹿賀さんのお姿を楽しませていただきます、ハイ。

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『渡番頭鏡善太郎の推理』の鹿賀さん、ビデオで観ました! (ぴかちゅう)
2005-05-16 18:04:10
刑事ものの『吉敷竹史シリーズ』の鹿賀さんよりもいいね。蝶ネクタイと金色のベストに懐中時計の鎖も見えていて、その上に旅館の法被を着てるのがすごく変で鹿賀さんの個性が活きる衣裳でよかったです。『料理の鉄人』の司会の時を思い出しました。渡り番頭に付いて歩く渡りコンパニオンの西尾まりもこまつ座で『父と暮らせば』の娘役(観てないけど)やったりするくらい芝居が達者な人らしく、よかった。

鹿賀さん、あの声での途中の決め台詞もよかったけど去っていく時の笑顔も最高。

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西尾まりちゃん (お茶屋娘)
2005-05-16 20:11:15
「喪服の似合うエレクトラ」に出てたじゃないですか!田村正和のドラマ「パパはニュースキャスター」で田村さんの娘役をやっててね、そのころ(中学生くらい?)から上手かったよ。
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続・西尾まりちゃん (ぴかちゅう)
2005-05-16 20:22:25
西尾まりちゃん、そうでした。『喪服の似合うエレクトラ』の記事に戻ってみてみたら=http://blog.goo.ne.jp/pika1214/d/20041204

エレクトラの婚約した幼馴染の妹で、幼馴染兄妹ってひとくくりにして、名前を入れてあげていませんでした。あれで初めて観たんですよ。そうそうその時も確かに評判通り上手いなと思ったのを思い出しました。TVでは観てません。私、田村正和ってけっこうどうでもいいんですよ。芝居は大根だし。まあムードで見せてしまうタイプと思ってますよ。古畑任三郎シリーズも見てない。ファンの方、ごめんなさいねm(_ _)m

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TB間違えてしまいました (red and black)
2005-09-23 15:09:04
ごめんなさい!TBする記事を間違えてしまいました。デモクラシーの記事を送ったつもりが、エリザベートの話になってしまいました。お手数ですが、わたしが送った最初のTB(ルドルフの話)は削除していただけますか? ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
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red and blackさま (ぴかちゅう)
2005-09-23 23:15:50
小泉自民党圧勝ということにかなり気落ちしてしまって、ようやく気を取り直しつつあるところです。そういう記事も書いてますが、red and blackさんのブログに今の状況の中で3月の『デモクラシー』を観た時の感想の記事があったので私からもTBさせていただきました。TB返しもありがとうございますm(_ _)m

自民党内の護憲派の後藤田正晴さんも亡くなってしまい、惜しいなあとまた気落ち。何かで元気を取り戻したいです。

『エリザベート』も観ましたので書いたら私もTBさせていただきますね(^O^)/

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「Wein, Weib und Gesang」のpfaelzerweinさま (ぴかちゅう)
2005-10-29 19:00:08


ベルリンのホロコースト記念碑を実際に訪れたご感想をTBしていただきまして、本当にありがとうございます。

>政権がキリスト教民主党であれ社会民主党であれ、ぶれることはないのがドイツ社会の成熟度の高さなんだろう

とか勝手に書いておいたら、ドイツの総選挙で両党のが大接戦になり、大連立、キリスト教民主党のメルケル党首が首相にという大きな情勢変化がドイツでも起こってしまいましたね。

そのメルケル女史についての記事も読ませていただきました。東独にいて共産党政権のひどさが骨の髄までしみている方のようですね。(まあ共産主義政権といっても世界のどこにも本来的な資本主義の成熟した段階=民主主義が発達した段階を経て移行した国はないわけだからそれを共産主義=悪と言われてもそれは厳密には違うと私は言いたいのですが...)

理系の実務派の保守派の女性ってなんかあるステレオタイプを想像してしまうのですが、まあ実際に政権を担ってやってみてくださいよって感じで見てます。失政ということになればまた社会民主党の方に支持がいくだろうし、二大政党制でもこれくらい力が均衡していればいいけれど、日本における小選挙区制選挙の結果はあまりにもひどすぎてお話になりません。

筑紫さんの番組で一昨日だったかな?精神科医の香山リカさんが選挙直後から語っている国民の中にある大きな不安感が強いリーダーシップに頼る気持ちを増大させていると言ってました。ドイツのナチ政権誕生の時代の雰囲気に似ていますよね。高所得層は社会全体を見渡すよりも自分の生活を守る立場に立ってしまっているし、低所得層もそういうリーダーシップになんとなく頼ってしまっているという...世界経済の低迷と世界的な保守傾向の強まり...過ちを繰り返す中で人間の叡知を磨いてきたはずなのに忘却をはからせる力の方が強いのでしょうかね。

ひとりひとりの努力から始めてそういうことを考えられるネットワークをどこまで広げられるかにかかっているように思えます。

いろいろと考えさせていただきました。いい機会をありがとうございました。

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劇場の可能性 (pfaelzerwein)
2005-10-29 20:32:41
ぴかちゅうさん、こちらこそ早速のご訪問とコメント、TBありがとうございました。古い記事で失礼しましたが、ヒットして良かったです。



芝居の数々、楽しみが伝わります。芝居について私が語れることは余りありませんが、少ない分だけ見た芝居は全て印象に残っています。ドイツでは劇場が公的に運営されているので、その経済運用を考えて義務教育での劇場訪問を指導する方向にあります。



以前一度採り上げた、



公共堆肥から養分摂取 [ 女 ] / 2005-01-11



などは子供向けではありませんが、スキャンダルを起すほどの意欲作のようでした。元首相が裁判で黙秘を使っているので、問題にならなかったのかもしれません。商業的に成功しながら、何かを示す事が出来れば素晴らしいです。



芝居は、映画などと違って本は残ってもその場で消えてしまうのも良いですね。直接に評価を問えますから。上手く行えば劇場の可能性は、今後も高いと思います。
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