『野田版研辰の討たれ(のだばんとぎたつのうたれ』
野田秀樹脚本・演出によるこの作品は4年前の8月に初演されたが、その時はまだ歌舞伎を本格的に観ていなかったために観ていない。一昨年の『野田版鼠小僧』を観て面白かったので今回の再演を楽しみにしていた。今回も中村梅之さんのブログで稽古場だよりをしっかり読んでから観た。
梅之芝居日記=http://blog.melma.com/00135602/
あらすじはまず、チラシの裏側にある解説より抜粋。「守山辰次は元は刀の研屋で、殿様の刀を研いだ縁で侍に取り立てられたものの、武芸はまったく駄目。家中の侍に打ちのめされた研辰は、家老へ意趣返しをしようとします。ところが、仕掛けがうまく行き過ぎて家老は死んでしまい、研辰は家老を殺した敵として追われる身となります。家老の息子二人に追われて、諸国を逃げ回る研辰でしたが...」。
私の誕生日は赤穂浪士討入の日。だから冒頭の討入シーンは誕生日誕生日って観てしまった。それを影絵で表現し、白い幕を落とすと剣術の稽古風景にするというのはなかなか面白い演出だった。
そこで辰次の勘三郎が真面目に稽古せずに他の侍達の反感を買い、さんざんに竹刀で頭を打たれているところ、松竹新喜劇のようなノリでバシバシと叩かれているようだがこれ本当?だとしたらけっこう大変な芝居だと思った。家老の三津五郎も大家に続く老け役だが前回の大岡越前同様こんなにはじけて面白い芝居を見せてくれてうれしい。家老の息子ふたりの染五郎・勘太郎の剣術の模範稽古風景は新撰組VS鬼御門という感じの殺陣がついていて気合いっぱいの感じがよい。そのふたりから敵と狙われるハメになるわけだから大変だ。辰次は逃げに逃げて四国の道後温泉の宿で長逗留。宿代の支払いを溜めて問い詰められて敵討ちの最中だと嘘をつく。赤穂浪士の一件以来、敵討ちがブームになっていて宿の者の人気をさらう。同宿の姉妹の福助・扇雀がおしかけ女房の座をめぐってたたかうのが可笑しい。
ところが敵と嘘をついた家老の息子たちも同宿になっており、対面するハメになって嘘がばれる。そうなると形勢逆転、姉妹は家老の息子兄弟に乗りかえるし、宿の者も全て敵に回り、また逃げ出す辰次。仇討ち兄弟と一緒になった群集に追い詰められ、いよいよ仇討ちされるところをジタバタしていろいろ言い逃れるのが見苦しくておかしい。ところが老和尚(橋之助)が示唆した言葉に「許してやれよ」という世論が群集の中に沸き起こり、兄弟は仇討ちをあきらめざるを得なくなった。兄弟も群集もいなくなり安堵しきった辰次だが、兄弟に闇討ちされて幕。
福助の一役目の殿の奥方の「あっぱれじゃ」の連発がまずハイテンションでいい。二役目の扇雀との姉妹もいいし、年増女の嫌らしさと可愛らしさの両方が好ましい。しのぶの芸者金魚もギター侍のパロディをやらされていたがこれまで観たことがないほど実に楽しそうに演じていた。染五郎・勘太郎も勘三郎にさんざんにからかわれながら楽しそうに演じている。仇討ちのための追跡の場面では『真夜中の弥次さん喜多さん』も群集に混じっていたのが可笑しかった。金髪のちょんまげと道中笠に名前入り。梅之さんの芝居日記によると初演よりも群集を増やしているようだし、群集の一人ひとりの演技も真剣でよかった。最後、群集心理が気まぐれのように大きく動いて人ひとりの運命を揺さぶる恐ろしさがきちんと伝わってきた。
兄弟はその場の雰囲気に飲まれて仇討ちをあきらめたようであった。しかし、元々が本人たちの自発的な仇討ちではなく、周囲がそれをやらざるをえないように追い込まれたのだ。このまま仇討ちをしなければ郷里の人々が帰郷を許さないだろうという、これも群集?の怖さゆえに闇討ちという卑怯な方法で仇討ちをする。野田秀樹の風刺がたっぷりきいている。
なにやらオペラの歌声が響く中で辰次の上に大きな紅葉が落ちてくる。この意味はちょっとわからなかったのだが、でも余韻が感じられる終わり方だった。
『研辰』でも幕がもう一度上がったが初演の伝説のようなスタンディングオーベーションは起こらなかった。『鷺娘』と両方立ってという風にはなかなかならないと思う。まあ初日が開いてすぐだということもあると思うが。
勘三郎は、8月の納涼歌舞伎は串田和美さんの演出のものをやりたいということらしい。7月の『NINAGAWA十二夜』もあるし、夏の歌舞伎座は熱くなりそうで楽しみだ。
写真は、中村屋の定式幕。3階席より携帯のカメラで撮影。
野田秀樹脚本・演出によるこの作品は4年前の8月に初演されたが、その時はまだ歌舞伎を本格的に観ていなかったために観ていない。一昨年の『野田版鼠小僧』を観て面白かったので今回の再演を楽しみにしていた。今回も中村梅之さんのブログで稽古場だよりをしっかり読んでから観た。
梅之芝居日記=http://blog.melma.com/00135602/
あらすじはまず、チラシの裏側にある解説より抜粋。「守山辰次は元は刀の研屋で、殿様の刀を研いだ縁で侍に取り立てられたものの、武芸はまったく駄目。家中の侍に打ちのめされた研辰は、家老へ意趣返しをしようとします。ところが、仕掛けがうまく行き過ぎて家老は死んでしまい、研辰は家老を殺した敵として追われる身となります。家老の息子二人に追われて、諸国を逃げ回る研辰でしたが...」。
私の誕生日は赤穂浪士討入の日。だから冒頭の討入シーンは誕生日誕生日って観てしまった。それを影絵で表現し、白い幕を落とすと剣術の稽古風景にするというのはなかなか面白い演出だった。
そこで辰次の勘三郎が真面目に稽古せずに他の侍達の反感を買い、さんざんに竹刀で頭を打たれているところ、松竹新喜劇のようなノリでバシバシと叩かれているようだがこれ本当?だとしたらけっこう大変な芝居だと思った。家老の三津五郎も大家に続く老け役だが前回の大岡越前同様こんなにはじけて面白い芝居を見せてくれてうれしい。家老の息子ふたりの染五郎・勘太郎の剣術の模範稽古風景は新撰組VS鬼御門という感じの殺陣がついていて気合いっぱいの感じがよい。そのふたりから敵と狙われるハメになるわけだから大変だ。辰次は逃げに逃げて四国の道後温泉の宿で長逗留。宿代の支払いを溜めて問い詰められて敵討ちの最中だと嘘をつく。赤穂浪士の一件以来、敵討ちがブームになっていて宿の者の人気をさらう。同宿の姉妹の福助・扇雀がおしかけ女房の座をめぐってたたかうのが可笑しい。
ところが敵と嘘をついた家老の息子たちも同宿になっており、対面するハメになって嘘がばれる。そうなると形勢逆転、姉妹は家老の息子兄弟に乗りかえるし、宿の者も全て敵に回り、また逃げ出す辰次。仇討ち兄弟と一緒になった群集に追い詰められ、いよいよ仇討ちされるところをジタバタしていろいろ言い逃れるのが見苦しくておかしい。ところが老和尚(橋之助)が示唆した言葉に「許してやれよ」という世論が群集の中に沸き起こり、兄弟は仇討ちをあきらめざるを得なくなった。兄弟も群集もいなくなり安堵しきった辰次だが、兄弟に闇討ちされて幕。
福助の一役目の殿の奥方の「あっぱれじゃ」の連発がまずハイテンションでいい。二役目の扇雀との姉妹もいいし、年増女の嫌らしさと可愛らしさの両方が好ましい。しのぶの芸者金魚もギター侍のパロディをやらされていたがこれまで観たことがないほど実に楽しそうに演じていた。染五郎・勘太郎も勘三郎にさんざんにからかわれながら楽しそうに演じている。仇討ちのための追跡の場面では『真夜中の弥次さん喜多さん』も群集に混じっていたのが可笑しかった。金髪のちょんまげと道中笠に名前入り。梅之さんの芝居日記によると初演よりも群集を増やしているようだし、群集の一人ひとりの演技も真剣でよかった。最後、群集心理が気まぐれのように大きく動いて人ひとりの運命を揺さぶる恐ろしさがきちんと伝わってきた。
兄弟はその場の雰囲気に飲まれて仇討ちをあきらめたようであった。しかし、元々が本人たちの自発的な仇討ちではなく、周囲がそれをやらざるをえないように追い込まれたのだ。このまま仇討ちをしなければ郷里の人々が帰郷を許さないだろうという、これも群集?の怖さゆえに闇討ちという卑怯な方法で仇討ちをする。野田秀樹の風刺がたっぷりきいている。
なにやらオペラの歌声が響く中で辰次の上に大きな紅葉が落ちてくる。この意味はちょっとわからなかったのだが、でも余韻が感じられる終わり方だった。
『研辰』でも幕がもう一度上がったが初演の伝説のようなスタンディングオーベーションは起こらなかった。『鷺娘』と両方立ってという風にはなかなかならないと思う。まあ初日が開いてすぐだということもあると思うが。
勘三郎は、8月の納涼歌舞伎は串田和美さんの演出のものをやりたいということらしい。7月の『NINAGAWA十二夜』もあるし、夏の歌舞伎座は熱くなりそうで楽しみだ。
写真は、中村屋の定式幕。3階席より携帯のカメラで撮影。
ちなみに、蛇足ながら、髪結新三の大詰は「深川閻魔堂橋の場」です。
8月の納涼歌舞伎は串田さんなんですか!毎月話題抱負ですねー。
橋之助さんの老け役でしたね。夜中に朦朧として書いていて間違えました。早速訂正入れました。
また、髪結新三の大詰の場面の名を教えていただきましてありがとうございます。そちらも早速修正しました。
これからも何かありましたら、バシバシとご指摘、ご教示くださいm(_ _)m
「研辰の討たれ」、日を追ってさらに熱い舞台となってまいりましたよ。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
ぴかさんと同じく宝塚から観劇歴が始まりました。とても親近感がわきました~
これからもお邪魔させていただきます!
よろしくお願いします。
映像で何度も見たことあるのに野田版研辰は実に面白かったです。研辰や鼠小僧、野田秀樹が書く歌舞伎はどちらも群集心理の怖さというのが凄いですよね…!そうした重さがありながら、とても笑えるというのがまたすごい。
最後のオペラの曲はカヴァレリア・ルスティカーナ、田舎の武士道という意味だとか解説にありました。皮肉っぽいですねえ(><)
●梅之様
こちらにもコメントいただきましてありがとうございます。『稚魚の会・歌舞伎会/合同公演』での武田勝頼、ぜひ頑張ってください。応援しています。
●ジャスミン様
TB、コメントありがとうございます。ジャッキーさんとおふたりでブログを書かれているのですね。続きが書けたらまたTBしてください。お待ちしています。
●lowoolong様
野田秀樹が書く歌舞伎は1年おきの上演ですよね。だから再来年、または来年あたりの8月に新作をやってくれるのではないかなあと期待しています。
昼の部も是非観てください。おすすめです。
>スポットライトの当たった辰次に一枚のもみじがはらりと落ちてくる。散りたくないと言っていた辰次が散り(死に)、同じく散ったもみじが。。。
そうか、「散りたくない」という台詞に対応してたんですね、あのもみじ!その辺の台詞がちゃんとききとれてなかったので、紅葉の意味がよくわからなかったんですよ。教えていただき、ありがとうございました。
私も5日行っていましたよ~。鷺娘にカーテンコールがあったのはあの日だけだった様ですね。ちょっと得した気分です。
場内感動のカーテンコールの直後に、玉三郎舞踊集の宣伝アナウンスを流した歌舞伎座がサイコーだと思いました(笑)。
今後もどうぞ宜しくお願いしますね。
TBとコメントありがとうございました。鷺娘のカーテンコールは5/5だけとはなんと嬉しい偶然だったのでしょう。3階東1列目から見ていたらかなりの方がスタンディングオベーションされていました。宣伝のアナウンスは記憶に残らなかったなあ(笑)。
芝えび様
TBいただき、ありがとうございました。
「研辰が“熱く”なければならない理由」の解釈は共感するところが多いです。私も群集心理の恐さをよくここまで描き出したなと感心しました。それを心地よい刺激として伝えられる作品は大事だと思ってます。現在の人間社会の清濁をきちんと把握して愛し、少しでもいい方向にすすんでいくために私もできることをやっていきたいし、そのための励ましになってくれる作品がどんどん生まれてほしいものです。