ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/08/15 「妻をめとらば-晶子と鉄幹-」観てよかった!

2007-08-21 23:59:26 | 観劇

小学校6年生で「百人一首」が大好きになり、偉人伝で石川啄木の話も読んで短歌もいいと思った。中学だったか高校に入ってすぐくらいの頃、文庫本で与謝野晶子の『みだれ髪』も読んだ。晶子の情熱的な歌は私の恋愛至上主義の根幹を形成したようなものだ。その勢いで買った晶子訳の『源氏物語』は初めの方で挫折したのだが(^^ゞとにかく私は自由詩は苦手で定型詩が身体に合う。漢詩も大好き。
その『みだれ髪』の巻末についていた晶子の評伝がまたよかった。晶子が妻子のある鉄幹との激しい恋愛の末に結婚。子どもをたくさん産み育てながら、文化学院の校長をつとめたり、いろいろな分野の仕事をしたこともそれで知っていた。ロダンとの親交のあった夫が命名したオウギュストという息子の名も覚えている。晶子と鉄幹のもとにいた門下生との関係もある程度頭に入っていた。
この作品は青年座の宮田慶子が「与謝野晶子は実は12人の子供を生み育てたスーパーお母ちゃんだった」と知り、そこに焦点をあてて描き出す脚本をマキノノゾミに依頼したことが原点だったという。13年前に「MOTHER-君わらひたまふことなかれ」として上演された作品を藤山直美主演で大劇場で上演するために手を入れたのがこの作品。
大阪の新歌舞伎座、名古屋の御園座、そしてこの夏、東京の明治座での上演となった。予算内のチケットが早々と完売になってしまったこの公演。あきらめかけていたところを譲渡サイトで譲っていただくことができてなんとか観ることができた。ここまで頑張ったのは、藤山直美が大好きだというのもあるし、さらに今回は香川照之を一度舞台で観たかったのだ。ホントに有難かった!

今回の配役は以下の通り。
藤山直美=与謝野晶子 香川照之=与謝野鉄幹
匠ひびき=菅野須賀子 山本未來=平塚雷鳥
太川陽介=北原白秋 山田純大=平野萬里
岡本健一=石川啄木 松金よね子=啄木の母・石川かつ
木下政治=佐藤春夫 岩崎ひろみ=与謝野家お手伝い千代   
曾我廼家玉太呂=八百源 横堀悦夫=蕪木喜一郎(特高警察)       
小宮孝泰=安土兵助(特高警察)
舞台は明治42年から大正2年までの5年間を描く。あらすじは香川照之さんの応援サイト「DONふぁんメモα」さんの記事がわかりやすかったのでご紹介。
冒頭の引越しで一同に会した門下生たち。その中で「邪宗門」を出して自信たっぷりの北原白秋が鉄幹先生は時代遅れと言ったことに激怒した平野萬里から喧嘩が始まり、とめに入った門下生はみな投げ飛ばされる。小柄な岡本健一が大柄の山田純大の腕でくるりと鉄棒のように回ったので感心してしまった。この大喧嘩の場面はこのカンパニーが息もぴったりだということを見せつけた。
菅野須賀子や平塚雷鳥まで訪問してきていたところへ与謝野夫妻が登場。満を持して大きな腹を突き出してのっしのっしと歩く晶子と負けじとのっしのっしと歩く鉄幹が花道から登場。鉄幹が出産用に隠しておいた晶子のへそくりを使い込んだことで大喧嘩。口も聞かない状態になっているので弟子に伝言してしゃべらせることまでする。結局その金は「邪宗門」出版に援助で出したのだと明らかになったのだが、なぜ本当のことを言ってくれないとなじる晶子にしゃっちょこばって「男がすたる」とうそぶく鉄幹。特高の安土も姿を見せ、ここまでで見事に全体の関係性がみえてくる。あっぱれ!

菅野須賀子は早くに大逆事件で死刑になってしまったというのに、スッポンから幽霊姿で登場した時にはまたまた感心。昔『橋のない川』を読んで大逆事件には馴染みがある。ところが夫の覇気がなくなったことを憂う晶子の前に現れて、自分も覇気がなくなった夫の幸徳秋水の革命の志に再び火をつけるために急進派が爆裂弾騒ぎを起こしたのだと言って共感しあう場面にはなぁるほどと思ってしまった。うまい、ウマイゾこの脚本!匠ひびきもカッコいいし芝居も巧いのでよい!!

平塚雷鳥が『青踏』発刊の折に晶子の巻頭言を求めてやってきて、ふたりの考え方の違いも浮き彫りになる(山本未來は芝居はまだまだだがカッコイイからいいことにする)。特高の親玉・蕪木が青踏グループにも監視の目を光らせてやってきて、妻に食べさせてもらっている鉄幹を侮る言葉を吐くと晶子は激怒。頬をはり「主人に謝れ」と繰り返す。「主人」と夫を呼ぶのはおかしいと思う私は何やら変な気分だが、まぁ時代物ということで心を落ち着ける。

赤ん坊が生まれ、頼りない子守の千代の手も借りて、家族を食べさせるために来る仕事は拒まずで原稿を書き続ける晶子。与謝野家の近くには大家族を当てにした行商隊も店を並べている。千代が財布の紐固く買い物する場面、岩崎ひろみと曾我廼家玉太呂たちのやりとりでなかなか生活感あふれていてよい。
また子役たちがたくさん出るのがいい。特高の安土の小宮孝泰がいつも家にくるおじさんとして子どもたちになつかれて困る場面も心がなごむ。

生活に追われながらも活気にあふれた与謝野家と対照的な石川啄木家。門下生の中でも一番貧しく、病に伏せる啄木の家に見舞いに行くと、文学への夢を捨てて家長としてまともに働かせたい母が嫁をいびっている。あまりの極貧さにせつなくなる場面。岡本健一は愛妻家で才能にあふれながらも病と肉親の桎梏に苦しんでいる啄木を見事な存在感で演じてくれた。
啄木が元気になって遊びに来てくれて帰っていったと思ったら電報で訃報が届く。ここでも幽霊の手法が活きる。匠ひびきも松金よね子でも幽霊用の着物姿が可愛かったのだが、岡本健一だけ幽霊用の衣裳じゃないのに、訃報の後でああやっぱりと思わせるようなはかなさがあった。

太川陽介の白秋は師匠にも認められるほどの才能を持ちながらも人妻との不倫で舞い上がるくらいの軽い明るさ、山田純大の平野萬里は才能は今ひとつだが師匠夫妻に実直に使える地味な役回り。一触即発のふたりの好対照もきいている。

鉄幹に活を入れるために欧州遊学に行かせたものの、離れて暮らすことで夫の存在の大きさを思い知り、原稿料を前借して夫を追ってパリに行った晶子。夫は夫で妻を恋しく思っていた。妻への思いを決して素直に口にしなかった鉄幹が最後に長台詞できちんと思いを伝える。それまで卑屈な態度でずっときていてここでスカッと見せてくれた香川照之、やっぱりいいぞ~。観に来た甲斐があったぞ~。

さて座長の藤山直美は今回もよかった。というか、女だとどうしても引いた役柄が回ってくることが多いが、この晶子は堂々とした女主人公。与謝野晶子の高い文学性のイメージからはちょっと遠いかもしれないが、12人のおっかさんであり、その家族を食べさせるために働きづめに働いた女ということであれば、直美こそこの晶子はふさわしい。
昨年からのメンバーの多いカンパニーは臨機応変。直美が啄木家の障子に激突するアクシデントもかるがるとしのぎ、飛び出すアドリブに笑いを必死に耐えるその信頼関係が好ましかった。「貴女ちょっと笑いすぎよ~」

人間の一生懸命生きる姿に泣かされ、笑わされる人情喜劇、やっぱり私は大好きだ。この作品が繰り返し再演を重ねていくといいなぁと思っている。

明治座の公式サイトはこちら
写真は明治座前に立っていた役者名の幟の中で藤山直美と香川照之の幟が並んでいるところ。こういう幟が立つのって他では浅草歌舞伎とコクーン歌舞伎で見ただけかな。
以下、これまで観た藤山直美の舞台の感想。
「桂春団治」
「殿のちょんまげを切る女」
「ヨイショ!の神様」
「狸御殿」


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4 コメント

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Unknown (くーみん)
2007-08-23 08:50:44
藤山直美の芝居は、チケットがなかなか入手できないそうですね~。
友人がやっと手に入れたのに、介護のためにいけなくなったと泣いていました・・・^^;。
彼女のためにも、ぜひ再演して欲しいです。

私は昨日、「6週間のダンスレッスン」見てきました。
良かったです。草笛さんのように、和ものも洋物もきちんとこなせるヒトは珍しいですね。
貴重な女優さんです。
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★くーみん様 (ぴかちゅう)
2007-08-23 23:19:06
>藤山直美の芝居は、チケットがなかなか入手できないそうですね......休日のチケットや一番安い席は早くに売り切れてしまうことがありますが、平日やお高い席はけっこう大丈夫ですよ。
>介護のためにいけなくなった......お友達の残念な思いをお察し申し上げます。再演が難しいならば、TVで録画のオンエアとかをしてくれるといいですよね。
>「6週間のダンスレッスン」は最後まで気になったのですが見送りました。寺島しのぶとの母娘の葛藤のお芝居を観たことがあるのですが、すごい迫力でした。またの機会を楽しみにしたいと思います。
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こんばんは~♪ (真聖)
2007-08-25 00:54:42
芸達者の舞台って観ていてホッとしますね。
私はやはり横堀くんが良かったです。嫌な役ですが(笑)そういう方も舞台には必要ですものね。

あと、子役の子達がメチャ可愛くて~
全然話変わるけど、金曜10時の二宮くんの「山田太郎ものがたり」に出てくる子供たちもとっても可愛いの。
この子供たち見てるだけで嬉しくて涙がでるのよ。

子供を使うってそれだけで★一つ増えますね。
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★真聖さま (ぴかちゅう)
2007-08-28 02:10:09
おけぴチケット譲渡サイトで2枚で出たので玲小姐さんにおつきあいいただいて8/15に観てきた感想をTBさせていただきましたm(_ _)m
>刑事役の横堀悦夫くん(青年座)のがすばらしく上手くってね。(中略)こういう脇役はどの舞台でも重要だから上手い役者じゃないと話が締まらない。
同感でした。演出が宮田さんだし、安心して任せられるというキャスティングだったのでしょうね。本当にこのカンパニーはいい役者を揃えていて贅沢な舞台だと思いました。だからチケット代が高かったのかのかも。2階のサイド席でしたが、値下げしていただいて有難かったんです(^^ゞ
>子役の子達がメチャ可愛くて~......お芝居もちゃんとできててよかったです。子役が下手だと私はちょっと醒めてしまうんですよ。今回はみんな一生懸命やってて可愛くてニコニコしてしまいました。

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