【猿翁十種の内 黒塚(くろづか)】
あらすじと今回の配役を公式サイトより引用。
「名僧阿闍梨祐慶は諸国行脚の途中、奥州の安達原にさしかかると、岩手という老女に一夜の宿を求めます。祐慶の言葉により長年の心のわだかまりが消えた岩手は、閨の内を見ることを堅く禁じて、夜寒を凌ぐために薪を取りに出掛けます。しかし高僧に従う太郎吾が約束を破り閨の内を見たことを知ると豹変。ついに安達原の鬼女の本性を現し...。」
老女岩手実は安達原鬼女=右近 阿闍梨祐慶=門之助
強力太郎吾=猿弥→休演で代役は寿猿
山伏大和坊=猿三郎 山伏讃岐坊=弘太郎
「黒塚」は初見。今月は夜の部の「伊達の十役」、昼の部でこの演目で猿之助の芸が継承される。市川宗家の弟子筋の澤潟屋の芸が本家返りもし、一門にも引き継がれということでこのような座組みが続いていくことに期待しているので、バランスよく継承演目が上演されていることが嬉しい。
右近は新作歌舞伎の「蓮絲恋慕曼荼羅」で主人公の初瀬を苛め抜く継母を好演していて、垂髪系の鬘も似合うことがわかっていた。写真は演舞場ロビーにあった特別ポスターの老女岩手の右近を携帯で撮影したもの。ポスター撮影の前に右近が師匠の「黒塚」の舞台写真を探しにきたと木挽堂書店のご主人からお聞きしていたのでこれがその成果かと納得。
能の「黒塚(安達原)」を踏まえているという本格的な舞踊劇。強力太郎吾が狂言師のような拵えなのも能の形式をしっかり踏まえているせいかと納得。
Wikipediaの「黒塚(能)」の項はこちら
第一場の安達原の一つ家に糸車を操る老女の影を映し出す装置から気に入った。一夜の宿を求めた祐慶阿闍梨にこれまでの妄執にとらわれてきた越し方を吐露、それでも仏は救ってくださるという阿闍梨の言葉に救われた岩手。客人たちに暖をとらせるための薪を拾いにでかけたのもその感謝の思いからだろう。
第二場のすすきの原に大きな三日月のかかる舞台装置も美しい。月光に照らされて映った自分の影とたわむれて童のように無邪気に踊る姿は、月の明るい面のように人の心の明るさを取り戻したことの象徴のようだ。右近の老女の踊りが実に愛らしい。
ところが太郎吾に閨の中の死体の山を見つけられてしまったことを知り、覗かれたくなかった闇を約束を破ってこじ開けた人間への怒りが爆発し、鬼婆へと姿も変えての第三場へ。
本格的な鬼女の姿にぶっかえって、阿闍梨と弟子たちに襲いかかるが数珠をもんで祈祷する3人についに力を奪われる。
奥の台で鬼婆は力つきたまま、舞台の手前に阿闍梨と弟子たちが極まってという、わりとリアルな幕切れだった。歌舞伎では主役の鬼が段付きの赤い台に登って絵面に極まっての幕切れが多いので逆に新鮮に思えた。
なかなか面白い作品だったし、右近も頑張っていたのを評価したい。お正月らしくない演目とも思えるが、まぁ前後をおめでたい演目で挟んでいるので明暗があって悪くないと思う。
1/23初春花形歌舞伎(1)「寿曽我対面」