ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/01/28 「コリオレイナス」客席をうつしだす鏡

2007-02-08 23:58:25 | 観劇

さいたま芸術劇場に自転車で10分、2階のサイド席にぎりぎりに座る!彩の国シェイクスピア・シリーズ第16弾「コリオレイナス」。あらすじは以下の通り。
イメージによくある帝政ローマではなく、共和制のローマ。戦争が続いて食糧不足が続き、市民たちは貴族たちに不満を募らせていた。猛将ケイアス・マーシアス(唐沢寿明)はヴォルサイ人との戦闘で、敵の指揮官オーフィディアス(勝村政信)との一騎打ちのすえコリオライを陥落させる。凱旋した彼は讃えられ、コリオレイナス(コリオライを陥落させた者?)の称号を受け、執政官にも推薦される。しかし執政官になるためには、市民の投票で信任されなければならない。そのためには謙虚の象徴としてボロの服を着て広場に立ち、戦の傷跡を見せながら市民の支持を乞うという課題をクリアしなければならない。貴族としてのプライドが高いコリオレイナスは硬く固辞するが、周囲の説得により慣習に従う。そして何とか市民の支持を得たかにみえた。ところが2人の護民官(瑳川哲朗ともう一人)がコリオレイナスの失脚を狙い、彼の傲慢さを謗り市民たちへの反逆罪を犯していると煽る。最終的には民衆の敵としてローマを追放されてしまう。
コリオレイナスは宿敵オーフィディアスのもとへ降り、自分のかつての行いの赦しを乞い、自分を追放したローマへの復讐のために共に戦うことを申し出る。二人は和解し、共にローマ領に進軍していく。
ローマ側はコリオレイナスのもとに和議を乞いにかつての友人(吉田鋼太郎)をさしむけるが黙殺される。ローマ陥落を前にして、ついに彼の母ヴォラムニア(白石加代子)と妻(香寿たつき)と息子が嘆願にくる。彼が拒むと母は誇り高い死を選ぶことを言い放つ。コリオレイナスは心を動かされ、和議を受諾。
オーフィディアスは彼の勝手な行動に憤慨。ついに裏切り者として殺す。コリオレイナスの存在が自分たちにとっては危険なものになっていたとしながらも、その人物の素晴らしさを讃える中で幕。

蜷川幸雄は役者に負荷をかける方法として今回は大階段を選んだのか。八百屋舞台と比べ物にならない負荷。その前に大きなマジックミラー。階段の上には何重もの横に開く扉。階段の高低差のある中で黒い衣装のローマ軍と白い衣装のヴォルサイ軍が戦う。コリオレイナスが敵側に回ると白い衣装に変わってオーフィディアスと並ぶ。そのわかりやすさと美しさ。
アジアンアイデンティティという考え方をを持っての舞台づくりをする蜷川幸雄。扉は寺院の門扉だったり、鏡に経文の字が浮き上がっていたり、蓮の上に童子が瞑想したりしている絵だったりしている。コリオレイナスたちの衣装は侍のような袴をつけて日本刀を閂差し。戦闘時は日本の槍や薙刀も登場。母と妻が刺繍しながら語り合う場面の大きな布はお寺にありそうなものだった。
そして大きなマジックミラーは何回も客席をうつしだす鏡となる。広場の階段に大勢広がった民衆が護民官に操られて衆愚をみせつけた場面。そこで一転して客席をうつしだされた時はゾクゾクした。「あなたたちは何者かに操られる愚かな民衆ではないか?」蜷川幸雄の挑発を身体中で感じてしまった。
最後に流れるのは般若心経の声明だと思うが、これもゾクゾクものだった。これが蜷川幸雄がロンドンに堂々と持っていく舞台なのだ。とても誇らしい気がした。

当初、主演が唐沢寿明と知った時、あまり気乗りがしなかった。「マクベス」も「天保十二年のシェイクスピア」でもあまりいいと思わなかったからだ。ところがコリオレイナスはよかった。エキセントリックなまでに気位の高い男を五分刈ヘア?に六四の位置に剃りこみまで入れた姿で熱演。市民に謝罪するはずが護民官の挑発で癇癪を起こす場面などは秀逸!これまででいえば映画「有頂天ホテル」の怪しいプロモーター会社の社長役が一番よかったと思ったが、こういうちょっと変人の役だと彼のよさが際立つようだ。
コリオレイナスはかなりのマザコンで、母親の気位の高さを受け継いでいる。息子が生きて恥をかくよりは名誉の死をと願うような母親。その母の期待に応えようとして立派な武人になってきているのだ。その母の説得に心を動かす場面が2回もある。その繰り返しによって母とその母を愛し敬い支配されるコリオレイナスの絆の強さが際立つ。母の前ではすっかり従順な子どもになってしまうコリオレイナス。その可愛らしいこと!こういうところも唐沢寿明の魅力のようだ。

その母を白石加代子。息子を追放した市民たちを呪うところで、彼女が貴族として平民を蔑視する感覚が息子に強く伝わったことを痛感する。さらに最後の嘆願の場面で息子と決裂した後の潔い啖呵!これがここまで決まるのが白石加代子だ。この母によってつくられた彼の性格が彼の高潔で不幸な一生を作り出した。その悲劇の大きさがドーンとくる。

敵将の勝村政信は市村正親との二人芝居「ストーンズ・イン・ヒズ・ポケッツ」で巧い役者だなぁと思ってきたが、今回のような武人の役もよく似合った。コリオレイナスと昨日の敵は今日の友となったのに、最後には殺してしまいながら賛美する。こちらの役の方が地味なのだが、それが主役の派手だが不幸な人生の縁取りを濃くする。
コリオレイナスの妻の香寿たつきは、ダイエットされたのだろうか。前より美しくなっている気がする。役としては本当にしどころが少なく、一箇所だけ強く訴える場面があり、そこまでためる芝居をしている。一度だけ観た宝塚でのトップ公演の時から芝居が巧い人だと思っていたが、どんどんいい女優さんになっていて嬉しい。

蜷川シェイクスピアに欠かせない吉田鋼太郎、瑳川哲朗、大川浩樹(民衆役とか何役か)もいい仕事をしている。スピード感もあり、重厚感たっぷりの舞台。休憩15分を含めて4時間近かったが、とても堪能できた。

「朧の森に棲む鬼」も長かったが、テイストがずいぶん違うのでそれぞれに楽しめた。その間に「スウィーニー・トッド」もあっての3日連続観劇。気が付くといずれも流血もの。どれも満足できる舞台で幸せだった。しか~し気力体力をいっぱい使って堪能してしまったので、もう少し間隔をあけた方がよかったかも~。松岡和子さんの翻訳本を探したが出ていなかった。ちくま文庫で出版されるのを待つことにしよう。

写真はJCBチケットサイトからの画像。
彩の国シェイクスピア・シリーズの公式ブログはこちら
先に書いた友人から観たいといわれた時の話はこちら