SCHUBERT : Compendium and full discussion of Composition No.4
シューベルト:作品 大系&詳述 4
第3期(中期前半) 1818.09 - 1822.09 『怒涛のオペラ期』 D624 - D758 4年(21才 - 25才)
この4年間に、7本もの舞台音楽が作曲され、3本が上演されたことは、シューベルトファンの間でもほとんど知られていない事実である。まず7本の舞台音楽全貌を見てみよう。
オペラ「双子の兄弟」D647 (ホフマン台本) 1818 - 1819.01 6回上演
オペラ「アドラスト」D137 (マイヤーホーファー台本) 1819 未完成
オペラ「魔法の竪琴」D644 (ホフマン台本) 1819 - 1820.08 7回上演
オラトリオ「ラザロ」D689 (ニーマイヤー台本)1820.02 未完成
オペラ「シャクンタラー」D701 (ノイマン台本)1820.10 - 未完成
エロールのオペラ「魔法の鈴」への挿入曲2曲D723 1821 8回上演
オペラ「アルフォンソとエレストレッラ」D732 (ショーバー台本) 1821.09.20 - 1822.02.22
シューベルト のリートが極めて「劇的効果」を持っていることは読者の皆様はご存知のことだろう。だが、シューベルトの劇音楽は「劇的効果が薄い」のが特徴。「穏やかなリートを拡大した」感触なのである。「魔王」と言うよりも、「鱒」に近いのである。また、台本が マイヤーホーファー1本、ショーバー1本 と「シューベルティアーデの仲間たち」が加わっていることにも注目して欲しい。特に「アルフォンソとエレストレッラ」D732 は、少なからぬ人が「シューベルトオペラ最高傑作」と称する作品である(ショーバー台本)。
この時期は「リート」は谷間の時期に当たる。「春の想い」D686(ウーラント詩)のみが目立っている程度である。器楽曲も 4手連弾フランス歌曲の主題による8つの変奏曲ホ短調作品10 D624 が重要作品であるだけ。尚、「鱒」ピアノ5重奏曲D667 と ピアノソナタD664 はこの時期の作曲では無い。この件は後に詳述する。
では、何がこの時期の重要作品なのか?
ミサ曲第5番変イ長調D678 が 1819.11 -1822.09 と2年10ヶ月も月日を要した大作であり、最も重要な作品。このミサ曲で、チェロパートとコントラバスパートを初めて分離して作曲した。
この重要なことを記載した文章は私高本は1度も見たことが無い。ベートーヴェンで言えば、7重奏曲変ホ長調作品20 でチェロパートとコントラバスパートを分離して作曲後に、交響曲第1番ハ長調作品21 に取り組んだ時であり、モーツァルトで言えば、弦楽四重奏曲ト長調「春」K.387 で、弦楽4部のバランスを組み立てなおしてから、ピアノ協奏曲3部作 K413, K.414, K.415 や リンツ交響曲 K.425 に取り組んだ時に相当する。(ベートーヴェン と モーツァルト は書かれている。)
上記オペラでも、「魔法の竪琴」以降の作品は、チェロパート と コントラバスパート が分離して作曲されている!
シューベルト:ミサ曲第5番変イ長調D678 は、同時期のオペラなど劇音楽に比較してはっきりと「劇的」!
ミサ曲第4番D452 以前には無かった「劇的なミサ曲」がここに誕生した。
「シューベルティアーデ」が第3期に、シューベルトに働き掛けて実行した出来事
1819.09 シューベルト作曲オペラ上演の約束を取り付ける
1820.06.17 オペラ「双子の兄弟」D647 & 「魔法の竪琴」D644 を上演に漕ぎ着ける
1821.04.02 「魔王」作品1 を皮切りに、「作品番号付き」出版を開始
どれも「作曲家シューベルト」にとって、極めて大きな収穫。第3期のシューベルティアーデの大活躍が無かったら、「歌曲だけの作曲家」としてしか名が残らなかったことは間違い無し!
弦楽四重奏曲第12番ハ短調「弦楽四重奏断章」D703 も、この時期の作品だが、ミサ曲第5番変イ長調D678 の作曲開始後の着手であり、きっかけになっている訳では無い。また、曲の冒頭を省略しての「ソナタ形式再現部開始」も ピアノソナタ第13番ヘ短調D625第1楽章にて既に 1818.09 に実現している。