パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

あしたの君へ

2020-04-12 | book
家庭裁判所を舞台にした人間ドラマ。「あしたの君へ」。2016年7月刊行。2014から15にかけて月刊文芸誌に掲載された5話を収録。著者は柚木裕子。近年の題材は、福祉系のものが多い。

通称カンポといわれる家裁調査官補の22歳の望月大地の成長を、家庭トラブルを背景に描く。

裁判所職員、家裁調査官として採用され、九州、福岡の福森家庭裁判所で、7月から1年間の実務修習に入った。いわゆる見習い期間だ。少年事件、家事事件を経験する。

背負う者(17歳 友里)
アルバイトをしながら生活する鈴川友里、17歳。母親と妹の3人で暮す友里は、28歳の会社員をホテルに誘い、現金を奪った。なぜ、そこまでして現金が必要だったのか。大地は、住まい、親族を訪ね、母親と妹を背負い暮らす悲惨な生活を知る。「人に迷惑をかけてはいけない」。母親からの教えをかたくなに守り続けた。その思いの重さ。

抱かれる者(16歳 潤)
進学校に通う高校2年生、星野潤は高校1年生の相沢真奈へのストーカー事案で家裁に送られてきた。面接では優等生、反省の弁を口にした。母親は地域の名士。対応はいつも母親がしていた。大地は潤の「あいつ」という言葉が気にかかり、家庭を訪問する。生活臭のない家庭。教師同級生に話しを聞く。星野親子の話とは異なる現実を知る。そして父親から知らされた事実。大地は母子に再度面会を求める。母と子の歪んだ重圧。

縋(すが)る者(23歳 理沙)
年末年始の休暇で故郷の静岡に帰省した大地。中学生の旧友8人と飲み会に出る。そこには大地の初恋の人、理沙もいた。20歳で26歳の男性と学生結婚し、2歳の子どもがいた。2次会から2人は帰る道すがら、理沙は夫の浮気が原因で2か月前に離婚したのだと話す。理沙は親権の問題で家裁調査官に励まされたのだと言う。

責める者(35歳 可南子)
初めての家事事件は離婚。結婚5年の40歳の朝井駿一と35歳の朝井可南子だ。子どもはいない。動機は13項目の中の「精神的に虐待する」だった。真面目で人当たりの良い夫は婚姻を継続。しかし、心を病む妻は離婚を翻さない。可南子の通う精神科で聞かされたICレコーダーの夫婦の会話に愕然とする大地。モラルハラスメント。心の虐待。

迷う者(10歳 悠真)
6月。離婚調停。親権でもめている。母親は片岡朋美35歳、父親は片岡伸夫46歳。夫の両親・妹と同居。子どもは小学5年生の悠真。別居して半年。今は父親の元に住んでいる。大地は悠真君の意見を聞くために、家を訪れる。そして、朋美の暮らすマンションへ。そこには男性と暮らす匂いがした。明かされる驚愕の事実。子どもに判断を任せられるのか。

自分はこの仕事が向いていないのではと悩む大地。ともに実習生の同期の家裁調査官補の美由紀と志水もいい味を出す。
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