パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

成人の日と職 「碇星」 吉村 昭 27

2009-01-12 | 吉村 昭
今日は成人の日。各地の式典も夏や正月、昨日行われたところも多く、昔とは様変わりです。
西高東低の気圧配置が強まり、降雪や突風も。
昨年からの経済危機は、あらためて「職」とは何かを問うています。
成人式の華やかさと、雇用システムと経営の危うさにあえぐ人々、そして日本の政治状況が、この寒波で余計に身につまされます。

そんな中、吉村昭の「碇星」という短編集を読みました。8つの短編集で平成11年(1999)に刊行されました。

特に退職をテーマした5編が秀逸です。自営業であろうが、サラリーマン家業であろうが、いつか社会の第一線を去る日が来ます。
上司の愛人の面倒を次々に部下へとつなぐ「飲み友達」、孤独を分かち合う3人の男たち「喫煙コーナー」、友人の死からその孤独感を感じる「受話器」、退職を機に妻に去られる「寒牡丹」、再就職が会社の葬儀係りという「碇星」(カシオペア座)。
そして、戦争時の思い出「牛乳瓶」「光る干潟」、命の恩人である医師の死と孫の存在を通して、血族を語る「花火」です。

戦争文学や幕末の歴史物など、その長編にファンも多い吉村は、短編小説を竹の節に例えます。「それがなければ竹の幹である長編小説はもろくも折れてしまう」と。再び長編小説に向かう活力を回復する術だというのです。

作品に触れながら、自分がいなくなった死後のことを思わず考えてしまいました。吉村昭は、私にいつもさまざまな思いを交錯させる作家です。
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