ノーマン・ジュイソン監督 スティーブ・マックイン フェイ・ダナウェイ 1968年米
有り余る金を手にしたら、どうしようか。
もちろん好きなことをやる、と誰でも答えるだろう。では、好きなこととは何か?
男は、事業で成功し、金を持っている。妻とは離婚し、女に不自由はしていない。スポーツカーを乗り回し、海辺に瀟洒な別荘もある。休みにはポロの試合にも出て、大空をグライダーに乗って飛び回る。
主人公の男、スティーブ・マックインは、こんな男だ。
男は、銀行強盗を企てる。自分は黒幕として、顔を出さず指示を出すだけだ。複数の実行者は、お互い知らないもの同士である。
この銀行強盗の企ては成功し、男は、その大金をスイスの銀行に預ける。
警察の捜査は行き詰まったままだ。保険会社の辣腕調査員の女性が、調査に乗り出すことになる。この調査員がフェイ・ダナウェイだ。
彼女は、犯人は単なる金目当ての人間ではないと推測する。そして、資料から、スティーブ・マックインだと確信し、彼に近づく。彼女は、男に犯人はあなただと告げる。普通の男と女の会話のように。男は、イエスともノートも答えない。二人は男と女の仲になるが、立場と利害は対立している不思議な関係なのである。
ダナウェイの体をはった調査なのか、ミイラ取りがミイラになったのか、最後まで分からない。
スティーブ・マックインは、当時アメリカで人気ナンバーワンのアクション・スターであった。カジュアルなジーンズが似合い、スポーツカーが好きな男といった印象だが、この映画ではスーツ姿で通した。
フェイ・ダナウェイは、この映画の前年『俺たちに明日はない』で一気にスターダムにのし上がってきた女優だ。決して美人ではないが、この映画では、こんなにいい女だったのか、と再発見させられた。手と足が長いスリムな体なのに、セクシーなヘロモンをプンプンと放っているのである。
さて、本題の、有り余る金があったら、何をするだろうか、である。
グライダーから草原に下りたったマックインは、付きあっていた女から「着陸するときは、慎重に」と言われて、「なぜ?」と聞き返す。
「もし、失敗したら……」と言う女に、マックインは、こう答える。
「心配事から解放される」と。
「何が心配なの?」
「気まぐれな自分が」
男がハーバード大出で、頭を使って成金になったとする状況設定は、今のわが国のIT成金と共通するところがある。しかし、男は、単に金を稼ぐことだけを考えているのではない。
彼に漂っているのは、虚無的なダンディズムである。破滅に向かう快楽主義である。
男は、「なぜ金があるのに、銀行強盗を」という女の質問に、こう呟く。
「私と、腐った社会制度との対決だ」と。
スティーブ・マックインが、こんな役をこなせるとは思わなかった。
葉巻、真っ赤なスポーツカー、海辺の別荘、ブランデー、チェス、流れる音楽……それに、いい女。舞台は、揃っている。
フェイ・ダナウェイは、当時、『俺たちには明日はない』(原題は「ボニー・アンド・クライド」)で、ボニー・ルックと呼ばれたベレー帽にロングスカートの1920年代のファッションを流行らせた。この映画では、流行に先駆けた膝上20センチもあろうかというミニ・スカートを見せている。
スティーブ・マックインを乗せた黄色いグライダーが、空を飛び回る。そこに流れるミッシェル・ルグランの音楽がいい。
夏の日々は早く過ぎ去る なぜそう早いのか
恋人たちの足跡が 砂浜に点々と続く
出会った人の名も顔も 忘却の彼方へ消える
別れを悟ったときに気づく
彼女の髪の色が 秋の葉の色と同じだと……
まるで、心の中の風車 いつまでも回っている
有り余る金を手にしたら、どうしようか。
もちろん好きなことをやる、と誰でも答えるだろう。では、好きなこととは何か?
男は、事業で成功し、金を持っている。妻とは離婚し、女に不自由はしていない。スポーツカーを乗り回し、海辺に瀟洒な別荘もある。休みにはポロの試合にも出て、大空をグライダーに乗って飛び回る。
主人公の男、スティーブ・マックインは、こんな男だ。
男は、銀行強盗を企てる。自分は黒幕として、顔を出さず指示を出すだけだ。複数の実行者は、お互い知らないもの同士である。
この銀行強盗の企ては成功し、男は、その大金をスイスの銀行に預ける。
警察の捜査は行き詰まったままだ。保険会社の辣腕調査員の女性が、調査に乗り出すことになる。この調査員がフェイ・ダナウェイだ。
彼女は、犯人は単なる金目当ての人間ではないと推測する。そして、資料から、スティーブ・マックインだと確信し、彼に近づく。彼女は、男に犯人はあなただと告げる。普通の男と女の会話のように。男は、イエスともノートも答えない。二人は男と女の仲になるが、立場と利害は対立している不思議な関係なのである。
ダナウェイの体をはった調査なのか、ミイラ取りがミイラになったのか、最後まで分からない。
スティーブ・マックインは、当時アメリカで人気ナンバーワンのアクション・スターであった。カジュアルなジーンズが似合い、スポーツカーが好きな男といった印象だが、この映画ではスーツ姿で通した。
フェイ・ダナウェイは、この映画の前年『俺たちに明日はない』で一気にスターダムにのし上がってきた女優だ。決して美人ではないが、この映画では、こんなにいい女だったのか、と再発見させられた。手と足が長いスリムな体なのに、セクシーなヘロモンをプンプンと放っているのである。
さて、本題の、有り余る金があったら、何をするだろうか、である。
グライダーから草原に下りたったマックインは、付きあっていた女から「着陸するときは、慎重に」と言われて、「なぜ?」と聞き返す。
「もし、失敗したら……」と言う女に、マックインは、こう答える。
「心配事から解放される」と。
「何が心配なの?」
「気まぐれな自分が」
男がハーバード大出で、頭を使って成金になったとする状況設定は、今のわが国のIT成金と共通するところがある。しかし、男は、単に金を稼ぐことだけを考えているのではない。
彼に漂っているのは、虚無的なダンディズムである。破滅に向かう快楽主義である。
男は、「なぜ金があるのに、銀行強盗を」という女の質問に、こう呟く。
「私と、腐った社会制度との対決だ」と。
スティーブ・マックインが、こんな役をこなせるとは思わなかった。
葉巻、真っ赤なスポーツカー、海辺の別荘、ブランデー、チェス、流れる音楽……それに、いい女。舞台は、揃っている。
フェイ・ダナウェイは、当時、『俺たちには明日はない』(原題は「ボニー・アンド・クライド」)で、ボニー・ルックと呼ばれたベレー帽にロングスカートの1920年代のファッションを流行らせた。この映画では、流行に先駆けた膝上20センチもあろうかというミニ・スカートを見せている。
スティーブ・マックインを乗せた黄色いグライダーが、空を飛び回る。そこに流れるミッシェル・ルグランの音楽がいい。
夏の日々は早く過ぎ去る なぜそう早いのか
恋人たちの足跡が 砂浜に点々と続く
出会った人の名も顔も 忘却の彼方へ消える
別れを悟ったときに気づく
彼女の髪の色が 秋の葉の色と同じだと……
まるで、心の中の風車 いつまでも回っている
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