かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

女の目から見た、ゆるい性を描いた「ホテルローヤル」

2014-07-11 01:07:16 | 本/小説:日本
 「ローヤル」という言葉は、日本語としては何だか締まりがない感じがする。受けた印象が、ゆるいのだ。
 英語でのRoyal、王を表すときには概ねが「ロイヤル」である。イギリスでは王室関係の言葉としロイヤル・ファミリー(royal family)とかロイヤル・ウエディング(royal wedding) とか使われている。
 「ロイヤルホテル」とあれば、なんとなく格式あるホテルを想像する。王立でなくとも、この語に堂々たるという意味もあるので、この名を使っていいのだろう。
 日本には、これまた王立と関係ない「プリンスホテル」がある。西武グループのこの名を冠したホテルは、もともとは旧皇族の土地に建てたのが名前の由来というから、あながち無関係とはいえないのかもしれない。

 芥川賞、直木賞の受賞作品は、かつては発表されるやすぐさま読んでいた。その時代の文学上の基準や指針としてとらえていて、自分に照らしあわせて、受賞作の作者の才能にときめいたり、この程度かと失望したりした。
 しかし、最近はそんなに慌てて読まなくてもと思うようになってきた。話題作は読むのだが、そのうちに読まないで過ぎていく作品も多くなった。年に2回も多いと思うようになってきた。感動する作品が少なくなったというのは、読まない弁明だろう。

 *

 「ホテルローヤル」(桜木柴乃著、集英社刊)は、2013(平成25)年上半期の直木賞を受賞した小説である。
 1周遅れの読書ということになる。
 「ホテルローヤル」とは、ラブホテルのことである。ラブホテルとしては、この名が相応しいように思う。
 ディズニーのアニメに出てきそうな、白い壁でピンクの屋根の、小さな城のようでいて、どことなく格式が欠けている。街から少し外れたところにライトアップされて浮かび上がる、どこかの町で、いつか見たことがある建物だ。
 「ホテルローヤル」は7つの短編からなり、舞台は北海道の湿原が広がる釧路の街はずれである。
 いずれも男と女の性が描かれているが、年齢も職業も男女の関係性もまちまちで、何の関連もない。そこに登場するのがホテルローヤルということである。ホテルは、すでに廃墟になっている場合もあれば、現役で活動しているのもある。
 ここに登場する男女の性は、胸をときめかすような恋愛でも涙する失恋の物語でもない。どこかにありそうな、日常の延長の性愛である。そういう意味では、タイトルと同じく、内容もゆるい。
 登場する男は、社会的もしくは生理的に少し逸脱しているか欠陥がある。そんな男と物語の女性は対峙している。
 読んでいて、男が書く性愛、つまりセックスと、女性が書くセックスは違うなあと思った。

 その中で、私が最も面白く印象に残ったのは、唯一「ホテルローヤル」が登場しない、高校の教師と生徒の関係を描いた「せんせぇ」である。
 先生である主人公は結婚していて家は札幌にあるのだが、妻を札幌に残して函館の南の木古内という町に単身赴任している。その妻を紹介し仲人までした前の学校の校長が、実は妻と不倫の関係だったのを知ったのが、この地に転勤する今から1年前だった。その妻の不倫関係も、教師と生徒の時代から20年間続いていたということだった。
 主人公が、連休に急に思いたって、札幌の家に帰ろうと駅に向かった時から物語は始まる。そこへ、担任している組の女生徒が、列車に乗りこんで来て、彼の横に座る。見た目も成績も、言葉遣いも悪い落ちこぼれの生徒である。
 疎ましく思った彼だが、彼女は、私、今日からホームレス女子高生になったの、お金もないと言って、彼にまとわりついてきた。
 彼は、札幌駅に着くと女生徒をまいて自分の家であるマンションに行くが、そこで妻と校長がタクシーでやってきてマンションに入っていくのに遭遇する。立ちつくす彼の前に、例の女生徒がいつの間にか現れる。
 彼は黙って家をあとにし、女生徒は彼のあとをついてくる。
 その日は、二人はやむなく札幌ススキノの古いビジネスホテルに泊まるが、そこで性愛が行われることはない。
 彼は翌日、札幌から釧路行きの切符を2枚買う。女生徒が「せんせぇ、待って」と、追ってくる。そこで、物語は終わる。
 ここで、やっと「ホテルローヤル」の暗示が表れる。

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