かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ アリ

2006-09-09 02:13:49 | 映画:外国映画
マイケル・マン監督 ウィル・スミス ジョン・ヴォイト

 「蝶のように舞い、蜂のように刺す」(Float like a butterfly, sting like a bee.)
 アリは、詩人だ。「ほら吹き」(big mouth)ではない。
 アリは、闘士だ。対戦するのは、相手のボクサーとだけでなく、国家とも闘う男だ。
 アリは、ベトナム戦争に反対して、徴兵を拒否した。それで、チャンピオン・ベルトを剥奪された。
 アリは、3度チャンピオンに輝いた。
 アリは、ローマ・オリンピックで金メダルに輝き、36年後のアトランタ・オリンピックで聖火を点灯した。聖火を持つ手は、パーキンソン病で大きく震えていた。

 アリは、1960年、ローマ・オリンピックで、ボクシング・ライトヘビー級の金メダルを獲得し、その後プロへ転向した。無敗のまま、64年、ヘビー級チャンピオンのソニー・リストンを破って、チャンピオンに。
 アリは、チャンピオンの時、徴兵を拒否し、67年、ベルトとボクサー・ライセンスを剥奪される。
 その後復活し、71年、その時チャンピオンとなっていたジョー・フレイザーと闘うが判定負け。初めての敗北を喫した。
 74年に、ジョージ・フォアマンと、ザイールのキンシャサでタイトルマッチを行った。アフリカで行われる、初めてのボクシング・チャンピオン・タイトルマッチだった。大方の評判はアリの劣勢だったが、ロープを背に打たれ続けながらも、8回KO勝ち。
 アリは、チャンピオンを奪回した。最初のチャンピオンに輝いた時から10年後のことであった。
 78年には、レオン・スピンクスを破って3度目のチャンピオンに返り咲く。
 81年、引退。

 アリを語るには、60年代の世界情勢、とりわけアメリカの黒人差別への反対運動を抜きには語れない。アメリカでは、南北戦争で黒人奴隷が解放されたことになっていたが、約100年たった1950年代になっても、依然として黒人への差別は公然と行われていた。
 その反対運動の過激的な指導者がマルコムX氏で、アリと氏は交錯する。アリは、プロボクサーになった直後に、ムスリム名のモハメド・アリと改名する。預言者、ムハンマドからとったものである。

 アリは、オリンピックで金メダルを取って、祝福を受けた夜、レストランに入ろうとすると、店から黒人は入れないと断わられる。アメリカの国旗を背負ってメダルを取ったのに、アメリカで自分は人間扱いにされていないと怒ったアリは、金メダルを川に投げ捨てる。
 この話の真贋は定かではないが、アリの本心を表わしたエピソードであろう。

 マルコムX氏は、65年、暗殺される。アリは、その後、徴兵を拒否する。
 1960年から始まったベトナム戦争は、65年アメリカの北爆が始まり、泥沼の戦争に入っていく。
 アリは、ボクサーとしては最強の舞台で闘いながら、戦争で戦うことを拒否した。差別と、国家と、闘った。

 アリ、ことモハメド・アリ、こと本名カシアス・クレイは、伝説のボクサーだ。史上最強のボクサーは誰かと問えば、この人の名前がまっすぐ挙がるだろう。
 しかし、単に強いだけのボクサーではなかった。だから、伝説の人であり、記憶に残り続ける人なのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする