「天山(てんざん)に登った」と言うと、聞いた人は「おっ」と身構え、天山とはどこかで聞いたことがあり有名な山に違いないが、さて、どこの天山だろうと反応に迷いてこずるかもしれない。ましてや、僕は登山とは縁のない人間である。
まず多くの人がすぐに思い浮かべるのは、中央アジアの中国、天山山脈であろう。
あの敦煌からタクラマカン砂漠を経てパミール高原、トルキスタンに向かう天山北路、天山南路で有名なシルクロードにまたがる山並みである。
最高峰のポベーダ山は、7,439メートルもある。当時の人からすれば、まさに天にも届く山並みだったに違いない。
しかし、佐賀県の人なら、ああ、県内の中央部にある山とすぐに思いつくだろう。酒好きの人なら、同じ名前の日本酒の銘柄を思いつくに違いない。
山登りが趣味の友人が、「おい、明日、天山に登ろう」と、突然電話をかけてきた。
天山がそこそこ高い山と知っていたので(僕にとってはであるが)、僕が「いや、俺は行かない」と断ると、「今は9合目まで車で行けるので大したことはない。あとはハイキングのようなものだ。明日の朝、車で迎えに行く」と言って、一方的に電話を切ってしまった。
佐賀県小城市と多久市の境にある天山は、標高1,046メートルである。
江北町から小城方面の北へ向かうと、裾野の広い天山が見える。小城に入りさらに北へ向かうと、ゆったりとした天山がぐんぐん近づいてくる。
天山の裾野を分け入り、相当登ったところの天山神社の麓に駐車場があった。この駐車場からも佐賀平野が見渡せる。後ろを振り向けば、なだらかでもっこりとした天山の山頂が身近だ。
ここから歩くことになるが、道は階段が設えてある。見上げると、緑のなだらかな稜線が続き、その奥に丸い山頂がのぞく。青い空に、綿菓子のような雲が浮かんでいる。(写真)
しばらく進むと、雨山との分岐点に出る。そこからは、ごろごろとした石の登りである。
シャツが汗ばみ、休みたい頃に山頂に着いた。歩き始めて30~40分ぐらいである。
山頂は、草原が広がっていて、しかも、南は佐賀平野が、北は唐津、富士町に広がる山並みが360度見渡せる。
山頂の草原では、昼時ということもあって、おにぎりや弁当を食べているグループや家族がくつろいでいる。9合目まで車で来ると、確かにそうハードな山登りではないので、子供連れも多い。
山頂には、「霊峰天山」と書いた岩の碑と、「阿蘇惟直」の石碑がある。
阿蘇惟直とは、南北朝の戦いのとき、ここまで流れ着いた足利尊氏を迎え撃った南朝の忠臣であるが、この地まで背走して討ち死にした阿蘇の武将らしい。阿蘇が見えるところということで、ここに碑が建ったようだ。
しかし、いくら天山という名とて、阿蘇までは見えない。
長く広がる山頂を尾根伝いに歩くと、山笹に交じって、ミヤマキリシマのツツジが点在している。近くでホトトギスが、そして遠くにカッコウの鳴き声がこだまのように漂う。
天山は、壮厳なその名に反して、とても穏やかで憩いの山である。
*
それにしても、1,046メートルで「天山」とは仰々しいネーミングである。
しかも、天山がこの近辺で最も高い山というわけではない。天山の奥には佐賀県と福岡県との境に背振山があり、こちらの方がもう少し高い1,054メートルである。
天山という壮大な名前は日本全国にまだあるのかと思ったが、ここだけのようである。さすがに、先祖も日本の低い山ではこの名をつけるには気がひけたのかもしれない。
先にあげた中国の天山山脈は、高さや規模の大きさから本家本元だと思うが。
とはいっても、過剰過大な名前とはいえ、天山は日本語である漢字(中国字)だからまだいい。
南アルプスが日本にあるのだから、思えば驚きである(北アルプスもある)。
アルプスといえば、モンブランやマッターホルンで有名なヨーロッパの山脈である。赤石山脈をどうして、誰がこう呼ぶようにしたのであろうか。日本アルプスと呼ばなくとも、飛騨山脈や木曽山脈でいいと思うのだが。
しかも平成の大合併でこともあろうか、山梨県に南アルプスが市の名前としても誕生した。旧白根町を中心とした町だ。ローマ字記入では、Minami-Alps shi(city)と、日本語と英語交じりの表記になるのだろうか。まさか、Minami-Arupusu shiとは書くまい。どちらにしても変である。Southern Alps cityと書けば、日本ではない、まったく外国の、英語圏の市である。
この南アルプス市に対抗しようとしてか、長野県の駒ヶ根市を中心とした合併では、中央アルプス市にする予定だった。
これで驚くに値しない。何と愛知県の知多美浜町、南知多町の合併では南セントレア市が生まれようとした。日本の町の名としてである。さすがに住民の反対にあい、この意味不明、国籍不明の市は誕生しなかったが。
さて、雄大な天の山の割には、ひっそりとある「天山」の話であった。
川では、奈良県に熊野川の源流の「天ノ川」(てんのかわ)がある。芸能を祭る天河神社があるところだ。
北海道の上ノ町には「天の川」(あまのがわ)がある。こちらは、宇宙に漂う天の川に遠慮してか、声高ではない。
さすがに、「天の国」は地上にはないようだ。
まず多くの人がすぐに思い浮かべるのは、中央アジアの中国、天山山脈であろう。
あの敦煌からタクラマカン砂漠を経てパミール高原、トルキスタンに向かう天山北路、天山南路で有名なシルクロードにまたがる山並みである。
最高峰のポベーダ山は、7,439メートルもある。当時の人からすれば、まさに天にも届く山並みだったに違いない。
しかし、佐賀県の人なら、ああ、県内の中央部にある山とすぐに思いつくだろう。酒好きの人なら、同じ名前の日本酒の銘柄を思いつくに違いない。
山登りが趣味の友人が、「おい、明日、天山に登ろう」と、突然電話をかけてきた。
天山がそこそこ高い山と知っていたので(僕にとってはであるが)、僕が「いや、俺は行かない」と断ると、「今は9合目まで車で行けるので大したことはない。あとはハイキングのようなものだ。明日の朝、車で迎えに行く」と言って、一方的に電話を切ってしまった。
佐賀県小城市と多久市の境にある天山は、標高1,046メートルである。
江北町から小城方面の北へ向かうと、裾野の広い天山が見える。小城に入りさらに北へ向かうと、ゆったりとした天山がぐんぐん近づいてくる。
天山の裾野を分け入り、相当登ったところの天山神社の麓に駐車場があった。この駐車場からも佐賀平野が見渡せる。後ろを振り向けば、なだらかでもっこりとした天山の山頂が身近だ。
ここから歩くことになるが、道は階段が設えてある。見上げると、緑のなだらかな稜線が続き、その奥に丸い山頂がのぞく。青い空に、綿菓子のような雲が浮かんでいる。(写真)
しばらく進むと、雨山との分岐点に出る。そこからは、ごろごろとした石の登りである。
シャツが汗ばみ、休みたい頃に山頂に着いた。歩き始めて30~40分ぐらいである。
山頂は、草原が広がっていて、しかも、南は佐賀平野が、北は唐津、富士町に広がる山並みが360度見渡せる。
山頂の草原では、昼時ということもあって、おにぎりや弁当を食べているグループや家族がくつろいでいる。9合目まで車で来ると、確かにそうハードな山登りではないので、子供連れも多い。
山頂には、「霊峰天山」と書いた岩の碑と、「阿蘇惟直」の石碑がある。
阿蘇惟直とは、南北朝の戦いのとき、ここまで流れ着いた足利尊氏を迎え撃った南朝の忠臣であるが、この地まで背走して討ち死にした阿蘇の武将らしい。阿蘇が見えるところということで、ここに碑が建ったようだ。
しかし、いくら天山という名とて、阿蘇までは見えない。
長く広がる山頂を尾根伝いに歩くと、山笹に交じって、ミヤマキリシマのツツジが点在している。近くでホトトギスが、そして遠くにカッコウの鳴き声がこだまのように漂う。
天山は、壮厳なその名に反して、とても穏やかで憩いの山である。
*
それにしても、1,046メートルで「天山」とは仰々しいネーミングである。
しかも、天山がこの近辺で最も高い山というわけではない。天山の奥には佐賀県と福岡県との境に背振山があり、こちらの方がもう少し高い1,054メートルである。
天山という壮大な名前は日本全国にまだあるのかと思ったが、ここだけのようである。さすがに、先祖も日本の低い山ではこの名をつけるには気がひけたのかもしれない。
先にあげた中国の天山山脈は、高さや規模の大きさから本家本元だと思うが。
とはいっても、過剰過大な名前とはいえ、天山は日本語である漢字(中国字)だからまだいい。
南アルプスが日本にあるのだから、思えば驚きである(北アルプスもある)。
アルプスといえば、モンブランやマッターホルンで有名なヨーロッパの山脈である。赤石山脈をどうして、誰がこう呼ぶようにしたのであろうか。日本アルプスと呼ばなくとも、飛騨山脈や木曽山脈でいいと思うのだが。
しかも平成の大合併でこともあろうか、山梨県に南アルプスが市の名前としても誕生した。旧白根町を中心とした町だ。ローマ字記入では、Minami-Alps shi(city)と、日本語と英語交じりの表記になるのだろうか。まさか、Minami-Arupusu shiとは書くまい。どちらにしても変である。Southern Alps cityと書けば、日本ではない、まったく外国の、英語圏の市である。
この南アルプス市に対抗しようとしてか、長野県の駒ヶ根市を中心とした合併では、中央アルプス市にする予定だった。
これで驚くに値しない。何と愛知県の知多美浜町、南知多町の合併では南セントレア市が生まれようとした。日本の町の名としてである。さすがに住民の反対にあい、この意味不明、国籍不明の市は誕生しなかったが。
さて、雄大な天の山の割には、ひっそりとある「天山」の話であった。
川では、奈良県に熊野川の源流の「天ノ川」(てんのかわ)がある。芸能を祭る天河神社があるところだ。
北海道の上ノ町には「天の川」(あまのがわ)がある。こちらは、宇宙に漂う天の川に遠慮してか、声高ではない。
さすがに、「天の国」は地上にはないようだ。