写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

自らが変わる

2016年01月15日 | 生活・ニュース

 10年来の知人Fさんが1カ月ぶりに話に来てくれた。年は私より3才上。外見は60代前半かと思えるほど、髪はふさふさ、顔色もよく若々しく見える。国内旅行が趣味で、3か月に1度くらいの頻度でツアーに申し込んで出かけている。

 いつ出会っても楽しかった旅の話をしてくれるが、いつも奥さんを家に置いてひとりで参加している。「どうして奥さんと一緒に行かないのですか?」と聞いたことがあるが「女房を誘ってみるがは『あなたと行くよりは友達と行く方が楽しい』と言って、ついてこない」という。見るところFさんは奥さんに厳しく、どうも夫婦仲はそれほど良くはないように感じられる。

 数年前、一緒に車で九州への旅に出た時、行く先々で喧嘩ばかりしていて、楽しくもなんともなかったという話を聞かされたことがあった。そんなこともあって、このところ、奥さんと一緒の旅行には全く行っていない。

 そんな状態であったFさんが、コーヒーを飲みながら明るい笑顔でおもしろい質問をしてきた。「茅野さんは、奥さんのことを家ではどう呼んでいますか?」「お前とか、○○子と名前で読んでいます」と答えると、「いい話をしてあげよう」と言って、次のようなことを話してくれた。

 何を思ってかFさんは1か月前から奥さんのことを「△△さん」と今まで呼び捨てだった呼び方を止めて「さん付け」で呼ぶようにした。すると奥さんまでがそれまで「おじいさん」とか「じいちゃん」と呼んでいたものが「○△さん」と下の名前で呼んでくれるようになり、2人の間で会話も増え笑うことも多くなったという。

 その甲斐あって、来月には富士山・伊豆の2泊3日のツアーに一緒に行くことになったと、まんざらでもない嬉しそうな顔をする。いいことである。この話を聞いた後、Fさんと私の2人の結論は「相手に変わって欲しいことがあるときには、まず自らが変わればよい」ということである。

 いい話を実体験を持って聞いた。夕食を食べながらこの話を奥さんにしたあと「さあ、今日からお前のことを『さん付け』で呼ぶぞ。そうしたら優しくなってくれるだろうから」というと「もうこれ以上お父さんに優しくなんかできません!」と厳しい返事が返ってきた。まいった、まいった、舞の海……