写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

寒晒し

2014年01月12日 | 旅・スポット・行事

 私は満州の大連で生まれた。その日は大変寒い日だったと、母から何度も聞かされていた。父が、旧満州鉄道に勤めていたことから、レンガ造りの社宅に住んでいた。近くにある共同風呂に入ったあと家に帰るまでのわずかな間に、濡れていたタオルはカチカチに凍り、棒のように硬くなったことは今でもを覚えている。

 ネットで調べてみると、大連の1月は平均気温はマイナス5度、平均最低気温はマイナス10度くらいと書いてある。なるほど、濡れたタオルも凍ったはずだ。とはいいながら家の中は暖かかった。床には床下暖房のオンドルが設けられており、窓は2重になっていたからだろう。寒い夜は、外側の窓ガラスには雪の結晶が模様のように凍りついていた。5歳まで、そんな厳しい環境で育ったせいか、寒がりではあるが寒さには強い。ここ30年間、風邪をひいて寝こんだことがない。唯一私が自慢できることである。

 寒くなったときの対処法として、ハワイなど暖かい地に出かけて行くのが人の常。「避暑」の反対で「避寒」というのだろう。ところが毎年私は、それとは全く逆のことをして寒さをしのいでいる。寒い時期だからこそもっと寒い所に身を置き、寒さを楽しみ味わいながら免疫をつける。言ってみれば「寒晒し」である。

 家の周りに小雪がちらつくような日には、チェーンを巻いて中国山地に分け入ってみる。道路に雪が積もるこんな日を選んで遊びに出かけるような人は誰もいない。雪深い山間のお気に入りの温泉に立ち寄り、雪山を眺めながら露天風呂を独占して帰る。

 2年前の冬には、流氷を見るために網走まで行ってきた。流氷はもちろん、釧路湿原も、阿寒湖も、摩周湖も、単に雪と氷以外何も見えなかったが、白一色の何もない極寒を堪能して帰ってきた。さて、今年の冬は何をして「寒晒し」をしようか。そんなことを考えていたとき、旅行会社から旅に誘うパンフレットが届いた。

 めくっていると、マイナス10度の世界へ、美しい写真入りで誘ってくれている。「よしっ、今年はこれにしよう!」。年の初め、過剰にたるんだ身と心を、極寒で寒晒ししてくれば、この1年また緊張感を持って元気で過ごせそうな気がする。修行のような旅でもある。