写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

一 息

2010年03月14日 | 生活・ニュース
 3日前には2日続けてみぞれが降ったが、春の雪だ。あっという間に溶けてしまい、今はあとかたもない。
 そういえば、ここ1カ月半、楽しい気持ちでどこにも出かけていなかった。「そうだ、雪を見に行こう」、ハートリーとのいつもの3人組でチェーンを積み込み、県北に向かって出発した。
 30km入ったあたりで道端にやっと雪の小さな塊がある程度だ。無理はない、外はもう春の空気だ。ダム湖畔を前にした雑木林の中にある、お目当てのレストランに着いた。時計は12時半。土曜日の昼時というのに、客はいない。
 シェフお勧めのランチセットを注文する。奥さんと二人がやっている居心地のいいレストランだ。待つ間、葉を落とした背の高い雑木林の間から、静かに小さく揺れる湖面が見える。時々、ウグイスが声高く鳴くのが聞こえる。早春の湖畔の宿ならぬ、湖畔のレストラン。
 店内に目をやると、三角形に張り出した空間に、おしゃれな三角錐状の暖炉が置いてあり、丸太が1本勢いよく燃えている。パチッパチッ、大きく燃火がはじける音がする。静かな中で聞こえてくる音はこのふたつだけ。
 食後のコーヒーは、シェフが目の前のカウンターに置いてあるサイフォンで香り高く淹れてくれた。現実離れしたゆったりとした時間を楽しんだ。
 もうしばらくゆっくりしたいと思ったが、車の中でハートリーがじっと待っていることを思い出して店を出た。このレストランは料理もさることながら、来し方を静かに振り返り、これからを思うにはいい場所だと思っている。暖炉の燃えている時期、みなさんもぜひどうぞお出かけください。
 (写真はレストラン、P・P店内にある「暖炉」)