写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

おはん

2006年10月01日 | 旅・スポット・行事
 岩国市の川西にある宇野千代の生家で、「秋の特別企画展・宇野千代と萩原葉子」という催し物が、11月末まで開かれている。

 このことを、生家の保存に尽力している知人から聞いて訪れてみた。岩国に住んでいながら今まで1度も生家に入ったことがなかった。

 錦帯橋の下流の緩やかに曲がった小路を進んでいくと、落ち着いた家並みの中に、「宇野千代の生家」と立て札の立った瀟洒な平屋が目に入る。

 やや暑さを感じる秋晴れの日であるにもかかわらず、家の中はひんやりとしている。

 天井は手が届くほど低く、手を加えてきれいにしてある和室には、宇野千代の生原稿、文机、多くの著書が飾ってある。

 その帰り道、図書館に立ち寄り、名前だけはよく知っている小説「おはん」の文庫本を借り、穏やかな木洩れ日の下で座って読んでみた。

 小説の内容はさて置くとして、ひとつ面白い点に気がついた。わずか93ページの小説の中で、35ページにも亘って岩国の町の古い町名・地名が出てくる。

 鍛治屋町、大名小路、鉄砲小路、曲尺町、新小路、豆腐屋町、臥竜橋、竜江と。その何れもが、現在でも日常まだ聞くことのある、耳に心地よい響きのするものだ。

「おはん」を読んでいると、城下町の余韻が残る古い岩国の町を、ぶらりあたかも散策しているかのような不思議な錯覚に陥った。

 これを機会に、もう1歩宇野千代の世界に足を踏み込んでみたくなった。
   (写真は、宇野千代生家に残る「文机」)