ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

ワタシはネコである(105)

2009-06-14 18:04:48 | Weblog



6月14日


 さわやかな青空が広がっている。とても、梅雨に入っているとは思えない。その後、たった一日雨が降っただけで、晴れた日が続き、今後一週間も、雨は降らないだろうとのことだ。それでも、今は、梅雨の中休みだと言うそうである。

 まあ、人間たちが勝手に、空模様に名前を付けているだけだから、ワタシたちネコが、とやかく言うことはないのだが・・・。ともかく、ワタシたちは、その日の天気に応じて、行動するだけである。
 それは、また飼い主が戻ってきてからの、ワタシの対応と同じことだ。長い間、ワタシをノラネコにしておいて、いざ帰ってくれば、ワタシをネコ可愛がりする。
 どうして、ワタシを放っておいたのかと、問い詰めたところで、どうなるわけでもない。その思いはぐっと飲み込んで、むしろ、今一緒にいられることをありがたく思いたい。


 飼い主と家に戻ってきて以来、もう10日になるが、ワタシは、冬の間、飼い主と一緒に暮らしていた時と、同じような毎日を過ごしている。
 つまり、雨降りの日以外は、午前中か夕方に、必ず一緒に、長い散歩に出かけることにしている。夕方には、生の小さなサカナを一匹か二匹もらい、後は時々ミルクを飲むだけだが、それで食事は十分である。
 夜は、飼い主とすこしふざけて、噛みつきごっこなどをした後、やさしくなでられて、飼い主の布団の足元で寝る。
 まあ、時々飼い主がクルマで出かけることがあるが、ちゃんと夕方には帰ってきて、サカナをくれて、ワタシが、飼い主のそばで安心して寝ることができれば、それで、良いのだ。
 
 つまり、年寄りネコのワタシにとっては、変わらない日常こそが、最も大事なことなのだ。
 『静かな眼 平和な心 その他に何の宝が世にあろう』(三好達治)


 「快晴の日曜日の今日。ミヤマキリシマの花が満開の、九重の山々は、多くの人々でにぎわっていることだろう。
 混雑するところに、出かけたくはない私は、そんな日には、一日家にいる。まずミャオと一緒に散歩に出る。ゆっくりと歩きまわった後、先に家に戻って、まず部屋中に掃除機をかけ、洗濯をして、庭木の刈り込みと、草刈りを少しして、そして、二日前に行った山の写真の整理をする。
 そうなのだ。4日前の平治岳(6月10日の項)に続いて、また九重の山に、ミヤマキリシマの花を見に行ってきたのだ。


 登山口の牧ノ戸峠(1333m)に着いたのは、6時半。まだ駐車場は、所々空いていた。(これが、戻ってきたときには、駐車場はいっぱいで、道の片側に、停められたクルマの列が並んでいたのだ。)
 沓掛山(1503m)付近の花は、さすがにもう終わりだったが、そこから人々とともに縦走路をたどり、ゆるやかに登ってゆく。天気予報は、午前中は晴れるが、午後は曇り空になるとのことだった。しかし、上空は、もう青空が少なくなっていた。
 まずは、九重のミヤマキリシマ二大名所の一つである、扇ヶ鼻(1698m)に向かう。まだ十分に、今が盛りの花々が、一面に咲いている。特に、その西側谷あい斜面の満開の花は、初めて見るほどで、素晴らしかった。
 次に、縦走路から分かれて、やっと一人きりになれて、尾根に取り付き、星生山(1762m)へと向かう。下の長者原(1040m)から見たときは、この星生山の東面が、これまた初めて見るほどに、赤く染まっていて、頂上東の肩から、少し下りて見に行った。
 しかし、何といっても、星生山頂上南面の急斜面を駆け下る、ミヤマキリシマの群落は見事だった。その西に続く岩稜をたどり、星生崎(1740m)まで行くと、目の前に、九重山の主峰、久住山(1787m)の姿が、さえぎることなく聳(そび)え立っている。いつもの年にはあまり目立たない、久住山のミヤマキリシマだが、山腹を彩るように、点々と咲いている。
 その上に、ありがたいことに、いったん曇った空が晴れてきて、青空が広がってきたのだ。時間があれば、もっと先まで行きたかったが、午後の大事な用事のために、どうしても昼までには、牧ノ戸に戻らなければならないのだ。残念。
 しかし、まだ時間はある。星生崎下に降りて、さらに人々の行き交う、西千里浜の縦走路から、南に踏み跡をたどり、肥前ヶ城(1685m)へとゆるやかな草原をたどる。一人と会っただけだった。その端のところから、谷を隔てて、眼前に赤く染まった扇ヶ鼻の姿が素晴らしかった(写真)。
 南側には、遠く、祖母山・傾山連峰と阿蘇山が、ミヤマキリシマの群落を前に、絵になる風景だった。その絵ハガキ写真になるような光景を、何度もシャッターを押して、撮っていく。ひたすら夢中になって、何と幸せなひと時だろう。
 誰もいないここで、ゆっくりと休みたかったが、時間がない。後は、人々で賑わう縦走路を急ぎ足で下り、昼前には牧ノ戸峠の駐車場に戻ることができた。


 長い間、九重のミヤマキリシマを見てきているのだが、今年は、九重全域にわたって花が多く、初めて見る群落地の広がりには、ただただ驚くばかり。それは、天候のこともあるのだろうが、例年の虫食い被害対策を講じたことの、成果だとも言われている。
 ともかく、わずか5時間余りの、慌ただしい山歩きだったが、予想外の花の盛りに出会えて、これだから、山はやめられない。ああ、生きていて良かった。

 私は、これまで、北アルプスや南アルプスの、主に斜面地に広がるお花畑や、あの北海道は大雪山の、例えば五色ヶ原のような、広大な高原に広がるお花畑こそが、日本の山の誇るべきお花畑だと、思っていた。
 しかし、今年の九重のミヤマキリシマを見て、単一種の花ではあるが、その面積と広がりからいって、日本最大の、高山の花のフィールド(あえてお花畑とは言わないが)だと、確信するようになった。
 そして、自分が元気でいる限りは、そんな見事な花を、たやすく見に行ける所にいるのだから、私は恵まれているともいえるだろう。
 静かな心と、穏やかな眼を持って、これからも、山々の姿を見ていきたいものだ。」