最新の治療法など、地元の医療情報を提供する「メディカルはこだて」の編集長雑記。

函館で地域限定の医療・介護雑誌を発刊している超零細出版社「メディカルはこだて」編集長の孤軍奮闘よれよれ・ときどき山便り。

生物はなぜ死ぬのか

2023年06月10日 19時02分41秒 | 読書
「2022新書大賞」で第2位となった小林武彦さんの「生物はなぜ死ぬのか」(講談社現代新書)は14万部を超えるベストセラーとなった。生物学の視点から見ると、すべての生き物、つまり私たち人間が死ぬことにも「重要な意味」があるようだ。 生き物が死ななければいけないのは、主に2つの理由が考えられる。その一つは食料や生活空間などの不足で、もう一つの理由は「多様性」のためだとする。
現在の日本人は、食料や生活空間の不足はほとんどないが、保育所や教育環境、親の労働環境など、いくつかの子育てに必要な要素が不足している。それにより、子供を作れなくなる少子化圧力が強まり、出生数は減り続けている。死亡率が上がるのも、出生率が下がるのも、人口が減るという意味では同じ。この減少が、日本人の絶滅的な減少に繋がるか、あるいは出生率が低い状態で安定するのかは、今後これらの少子化圧力要因がどのくらい改善されるかにかかっている。不足は衣食住の物質面だけではなく、精神面においてもある。子供を作りたくなくなるという将来の不安要素は当たり前だが、確実に少子化を誘導する。
小林さんは、何も対策を取らなければ、「残念ですが日本などの先進国の人口減少が引き金となり、人類は100年も持たないと思っています。非常に近い将来、絶滅的な危機を迎える可能性はあると思います」と警鐘を鳴らす。
生物は、激しく変化する環境の中で存在し続けられる「もの」として、誕生し進化してきた。その生き残りの仕組みは「変化と選択」。変化は文字通り、変わりやすいこと、つまり多様性を確保するように、プログラムされた「もの」であり、その性質のおかげで、現在の私たちも含めた多種多様な生物にたどり着いた。
具体的には遺伝情報(ゲノム)が激しく変化し、多様な「試作品」を作る戦略である。変わりゆく環境下で生きられる個体や種が必ずいて、それらのおかげで「生命の連続性」が途絶えることなくつながってきた。そのたくさんの「試作品を作る」ためにもっとも重要となるのは、材料の確保と多様性を生み出す仕組みであると小林さんは教えてくれる。材料の確保については手っ取り早いのは、古いタイプを壊してその材料を再利用すること。小林さんが本書で何度も繰り返してきた「ターンオーバー」で、ここにも「死」の理由がある。
「生き物にとって死とは、進化、つまり変化と選択を実現するためにあります。死ぬことで生物は誕生し、進化し、生き残ってくることができたのです」。生と死、変化と選択の繰り返しの結果として、ヒトもこの地球に登場することができた。「死があるおかげで進化し、存在しているのです。死は長い生命の歴史から考えると生きている、存在していることの原因であり、新たな変化の始まりなのです」


生物はなぜ死ぬのか
講談社現代新書

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