最新の治療法など、地元の医療情報を提供する「メディカルはこだて」の編集長雑記。

函館で地域限定の医療・介護雑誌を発刊している超零細出版社「メディカルはこだて」編集長の孤軍奮闘よれよれ・ときどき山便り。

なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない

2023年09月02日 16時33分14秒 | 読書
「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」。心に深くしみこんでくるタイトルです。行方不明となった心はどこに行ってしまったのか。
本書は、心が見つからない夜、迷子になったあなたを助けてくれる1冊だ。
著者の東畑開人(とうはたかいと)さんは臨床心理士・公認心理師で、精神科クリニックでの勤務や十文字学園女子大学で准教授を経て、現在は白金高輪カウンセリングルームを開業、現代人の心の問題に向き合ってきた。
「僕らは今、無数の小舟がふわふわと浮遊している世界で生きている。それぞれの小舟は、ときにくっついたり、ときに離れたりするけど、本質的にはポツンと放り出されている」。東畑さんは、これがこの本の原風景として話を始める。さあ、これから、東畑さんとあなたは夜の航海に出立する。そういうとき、サポートとなるものが二つある。一つ目は心の処方箋で、それはあなたが行くべき航路を照らす灯台となる。もう一つは心の補助線で、それはあなたとその周囲を照らす懐中電灯だ。どちらが必要であるかは、ケース・バイ・ケース。今、あなたに必要なのは処方箋なのか、補助線なのか。「どうでしょうか。少し考えてみてもらえませんか?」と東畑さんは問いかける。
夜の航海をサポートするための心の補助線とはどういうものか。補助線とは複雑な図形を複雑なままに扱うための技術。たとえば、いびつな五角形の面積を求める場合、そのままではどこからどう手を付けていいかわからない。ところが、補助線を引くと、それが三角形と四角形の組み合わせであることが見えてくる。
三角形の面積と四角形の面積をそれぞれに求めて、足し算をすれば、いびつな五角形の面積がわかる。複雑なものを一度シンプルな形へと分割して、再びそれらを結び付ける。これが補助線の役割である。心の補助線も同じことをするそうだ。それは複雑な心を複雑なままに扱う技術だという。
アナウンサーの有働由美子さんは本書の書評の中で、「仕事をしていると、気が紛れます」という四十代後半の女性の話は、身につまされる物語だったと書いている。自分のことは自分が一番知っていて、コントロールできていると思い込んでいること自体が大きな苦しみだったのかと、クライエントと先生の会話を読みながら気付いたそうだ。「それぞれの物語を、先生と同時スタートで一から体験する。一体どんな患者さんなのかを一緒に読み手が探っていく。心が重い方、苦しい方はもちろんだが、私のようになんとなくしんどいという方にこそ読んでいただきたい一冊です」


「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」(新潮社)

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