完全無欠な「もうすぐ前期高齢男」日記

「もうすぐ前期高齢男」に進級「老いの自覚」を中心にUpしていきます。

実録2004 10 23 17:58   ~そのとき震災は起きた~

2006年10月23日 | Weblog
その日は曇っていて、秋にしては少々寒い感じだった。

土曜も3時を回り、私は日頃の運動不足を解消するために
マウンテンバイクにまたがり家を出た。

風よりも雨がひどかった台風が数日前に通り過ぎた町は、
秋に色付いて残っているはずの木々の葉が無残に散らされている。

今年は本当に天災が多かった。特に雨風の強い台風がいくつも
この地域を通り過ぎていった。

自転車を走らせるのは、少々久しぶりで更に休日の午後。
思い切って25kmほど走って隣町の家電量販店に行く。

前々から気になっていたパソコンの動画編集ソフトを買って、
少々気合を入れてわざと遠回りをして家に帰る。行き帰りで
1時間半ほど走ったろうか。

すっかり汗まみれとなって、少し早いが風呂に入る。
風呂の中で本を読むのが私の日課となっている。

明日は日曜日、朝を気にせず買ってきたパソコンソフトを
いじれる。そんな風に思いながら、ゆっくりと風呂を出た。

天気の良い中秋の夕方はゆっくりと暮れようとしていた。

台所では、下の娘が女房と一緒にカレーを作っている。
その匂いが二階まで漂い、食欲をそそられる。

少し早いが、寒さに耐え切れず出されたコタツに、上の娘は
もぐりこんでマンガを読んでいた。

テレビでは夕方のニュースが流れていた。5時58分の表示が
画面に出ている。

すると今までに聞いたことの無い不気味な音が響いてきた。
地の底から湧き上がってくるような「唸り音」だ。

突然、見ていたテレビが中に浮き、そして、そのテレビが
幼い子供ようにヨタヨタと歩き始めた。中の人物はなんの変化も無く
ニュースを読んでいる。

そして、突然電気が切れた。

二階の部屋は、まるで掻き回されているかのように上下左右に
揺らされるている。

私はそれが地震であることをしばらく認識できなかった。

ただ、コタツの娘にむかって「もぐり込め!」と叫んだ記憶はある。

私は立っていたのだろうか。それとも座っていたのだろうか。

言いようの無い不安感・恐怖感が腹の底から湧き上がってくる。

かろうじて薄暗い部屋を見回すと、倒れた家具は無いがすべて微妙に
向いている方向が変わっている。

コタツに飛びつき娘を名を呼ぶと、なんともヌーボーとした娘の返事が
帰ってきた。どこにも怪我が無いことを確認してほっとする。

しかし、台所の女房・下の娘・親父が急に心配になる。

「火を、火を消せ~~!」何度も同じセリフを繰り返しながら
私は階段を下りる。しかし、腰が引けてうまく降りれない。

カレーの匂いが漂う薄暗い台所で、娘と女房は呆然と立っていた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

家には怖くて帰れない。少しずつ外は暗くなっていく。

一度帰ろうとして、玄関を入ったとたん「余震」が来た。実際
この余震のほうが怖かった。

必死の思いで皆の布団を持ち出し、車に詰め込んで一夜を過ごす。

私は一睡もできない。外をうろつきながら布団と一緒につかんできた
ウィスキーのバーボンをラッパのみにする。

町のはずれにある私の家の前の道を少し上ると、町全体が見渡せる。

放射冷却の起きた夜は、とても冷えて寒い。

しかし私は、その寒さも忘れて二度と見ることのできない、
「漆黒の闇」に包まれたわが町を呆然と見詰め続けていた。


コメント (6)
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