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『近代の呪い』

2018-03-02 00:00:05 | 読書。
読書。
『近代の呪い』 渡辺京二
を読んだ。

国民国家の成立以来、つまり近代化以来、
国民は自立性を喪っていっているとする論考など、
現代を見つめるために役立つ、
近代というものを教えてくれる本。

熊本大学での講義を書籍化したもので、
・近代と国民国家
・西洋化としての近代
・フランス革命再考
・近代のふたつの呪い
の4話と、
大佛次郎賞を受賞したときの講演
・大佛次郎のふたつの魂
の五つの章からなる新書です。

民衆と市民の違いとはなにか。
僕はEテレ「100分de名著」という番組の
ハンナ・アーレントの回で
解説の仲正昌樹さんが平易に説明してくれていたことで
その違いを知ったのですが、
本書ではそのあたりももう少し深く、
近代と結び付けて解説してくれいて、
このトピックについて何か読みたいところだったので、
渡りに船といった体で読むのを楽しみました。

要するに、
民衆とは、国家天下のことはどこ吹く風で、
自分の周囲の出来事にしか関心が無く、
そういった生活圏で楽しんで暮らす人々。
比べて市民とは、その国家の構成員であることを自覚していて、
政治について経済について、
いろいろ勉強したうえでコミットしていく種類の人たちをいいます。

昨今の文化人には「みんな、市民になろうぜ」
っていう種類の言説や思想が多いですよね。
良いか悪いかは、
本書について、その良し悪しについて解説があります。
なるほどなあと思いますよ。
どっちに傾くかにしても、
極端に100%針が振れるようなのは害悪になりますね。

近代の呪いのふたつの面についても、
端的に言ってしまえば、
ナショナリズム化していく構造的な面と、
人間中心主義ゆえに自然を消費するものとしてとらえてしまうがゆえに、
生まれてから死ぬまで人工的世界に浸ってしまう貧しさ、
もっと言えば、それは間違いなんじゃないかと著者は言ってますが、
そういった社会構造や心理の面に疑問を持とうと訴えています。

本書では、近代を考えていくことで、
そういった現代の病巣がみえていくかたちになっています。
フランス革命とはなんだったか、だとか、
近代化といえば人権・平等・自由の獲得だが、
そもそもそれは真実なのか、といった見ていき方があり、
つぶさにみていくことで、
さきほど書いたような、近代の呪いと結びつく。

滋味の感じる語り口の文章です。
それでいて論理的で非常に有機的な近代論になっています。
しっかりしていて興味深く教えられる好著だと思いました。

著者の代表作『逝きし世の面影』は名著として名高いようで、
ツイッターなんかでも、たまに良い評判を読むことがあります。
これはまだ未読なんですが、いつか読んでみたいですね。


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