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『【実践】 小説教室』

2023-04-02 11:04:33 | 読書。
読書。
『【実践】 小説教室』 根本昌夫
を読んだ。

「海燕」「野生時代」の元編集長で、島田雅彦、吉本ばなな、小川洋子、角田光代、瀬名秀明らの作家デビューに立ち会った著者による小説指南書。著者は現在、小説教室を開き、多くの生徒を教えているそうです。そのなかには、芥川賞をダブル受賞した若竹千佐子さんと石井遊佳さんもいらっしゃったようです。

僕も小説を書きますが、ふだん、原稿を書くことについて話をする人が、オフラインでもオンラインでもいないので、たまにこういった本を読むと、原稿書きの知己や先輩が得られたみたいな、そんな気持ちになり、楽しくなります。

書いてある内容は、どれも腑に落ちます。こういった指南本では、「ほんとうにそうかな?」とか「ちょっと自分の感覚とはずれてるな」とか、自分でもある程度経験があるのに、その外側にあってよく理解できない内容の言葉が書かれていることがあります。理解するように努める、というより、自分の持ち場からぴょんと飛ぶようにして信じてみるしかない、というような種類の言葉です。しかし、本書は、どれも、自分の経験に照らしてみて「わかるなあ」と思えるし、そのちょっと先を行く内容のものも、自分の経験の延長上から逸れていないことが直観でわかるものだったりしました。だから、僕にとって、信用できる小説指南本だったのでした。

本書は三部構成です。「1.小説とは何ですか?」「2.書いてみよう」「3.読んで深く味わおう」、全てわかりやすい文章で書かれていますが、でもそれぞれが歯ごたえのある中身です。小説の文章と正しい文章は違うこと、平叙文が正解ではないこと、小説家に向くタイプなどから始まり、小説のテーマとはどんなものか、書き出しが大切なこと、人称の説明、リアリティについてなどから書くときのポイントを教えてくれ、最後に村上春樹、綿矢りさ、山本周五郎らの作品の解説をしてくれて、小説のその読みの深みに触れられる仕掛けになっていました。

さまざまな面から小説を書くことについて述べられていて、すべて覚えていたいくらいなのですが、なかなかそうもいかないものですから、本棚のとりやすい位置に立てておいて、その都度ページをめくり直したい本です。

では、以下の引用をもって終わりにします。

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いい小説を書くには、言葉の組み合わせから作る描写、叙述、文脈のなかで、あなたが表現したい原物を、ほんの感触でもいいからつかまえて書くよう努めることです。あなたが操る言葉と、あなたの内面的真実の距離を、文脈の中でどうにかこうにか近づけていくのです。
それが小説を書くという営みであって、それをやりおおせたときに初めて、納得できる作品が生まれるのです。(p71)
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小説とはもちろん、作為的なものです。むしろ作為の産物といっていいでしょう。
作家の仕事は、その作為が自然に見えるように書くことです。するとそこにリアリティが生まれます。作為を自然に見せることこそ、小説に求められる技であり、言葉の技なのです。(p74)
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ただ一つ言えるのは、短編小説を書くにはものすごいエネルギーが要るとうことです。それには相当なエネルギーがなければなりません。短編小説のすぐれた作品に、小説家が若いときに書いたものが多いのはそのためです。(p78)
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(小説を書くことによって)ものの見方、考え方に深みが出てきて、生きていること自体が楽しくなってくるのです。(p223)
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というところです。本書は、小説を読むのも書くのも、より深く楽しめる道のりを歩むための、その地図でしょうか。おすすめなのでした。

著者 : 根本昌夫
河出書房新社
発売日 : 2018-03-20

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