Fish On The Boat

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『ゲンロン0 観光客の哲学』

2018-06-17 20:08:19 | 読書。
読書。
『ゲンロン0 観光客の哲学』 東浩紀
を読んだ。

内容は難しいのだけれど、
「そうか!」と視界が開ける瞬間が多々ある。
著者はたくさんの文献にあたってそれらをきちんと把握し、
その延長線上にこれまでの著者自身の思索との結晶として、
この哲学を出現させている。
とはいえ、延長線上でありながら、
その行き詰まりゆえにオルタナティブなものになっています。
持続的イノベーションとして行き着いた哲学ではなく、
オルタナティブであり、従来の価値観、ヒエラルキーを壊す、
破壊的イノべーションになりうる萌芽としての哲学でしょうか。

誤配がおこる、観光客をイメージした生き方が、
ナショナリズムやグローバリズムに板挟みになった世界で、
自分を分裂させず、保ち、そして連帯を生む生き方になるのではないかというのが、
一番の筋だったでしょうか。

そのために説き明かしてくれた世界の二層構造、
国家と市民社会、政治と経済、思考と欲望。
著者は、それを独特の言い方で、「人間と動物」とも表現しています。
ここらあたりは、クリアな視点で世界を見つめるのにおもしろい視座でした。

また、途中で、ネットワーク理論にも触れています。
これは食物連鎖や人間関係を数学的に解明した複雑系の理論なのですが、
それを援用することで、これまでの社会思想では
見てきていない視界があることを指摘し、
ゆえに、これまでの社会思想の欠落部分を捉えなおし、
改変できる、可能性の大地を照らしているのを
著者は目にとめて、思考に取り入れています。

僕の印象だと、
著者の哲学は、偶然だとか二層の重なりだとか、
量子論の考え方からヒントを得たり類推したりして編んでいるところが、
とくに発想面ではけっこうあるのではないかなあという感じがします。
著者の小説、『クオンタム・ファミリーズ』だって、
名前からしてもう量子論ですし。

第二部の、「荒削り」と自ら評する、
家族論とドストエフスキー論もおもしろかったですよ。
アマゾンなどのeコマースで評判の本になっているそうです。

優れた智に触れる経験になった読書でした。

著者 : 東浩紀
株式会社ゲンロン
発売日 : 2017-04-08

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