Fish On The Boat

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『IT社会事件簿』

2019-02-09 22:54:57 | 読書。
読書。
『IT社会事件簿』 矢野直明
を読んだ。

ネットが一般社会に普及した黎明期から2013年までの、
主にネットが原因となったり手段となったりして世間を騒がせた事件を、
海外の動きも含めながら再確認していく本です。
(あとがきに2015年までの、
本書が単行本から携書化されるまでの2年間の主だった事件も収録)

いろいろと記憶がよみがえりますね。
それと同時に、順序立てて客観的に当時を振り返ることができる。
尖閣諸島の事件(中国の漁船が海上保安船に衝突した映像がYouTubeにアップされた事件)なんか、
もうそれこのあいだじゃん、みたいに感じる。
インターネットが普及してから、知らない間にたくさんの時間が流れたなあと、
あらためて感じもしました。

自殺ほう助事件である「ドクター・キリコ事件」、
ビデオデッキの修理に関する問い合わせがトラブルになった
「東芝アフターサービス事件」、
自殺志願者が集まるサイトから集団自殺が多数発生した時期もあるし、
学校の裏サイトの書き込みが元となって、
小学生女子が小学生女子を殺してしまう事件もありました。
ファイル共有ソフト・ウィニーの問題、
株誤発注事件、
ライブドア事件、
村上ファンド事件。

また、東日本大震災時のネットの活用のされ方を振り返ったり、
ウィキリークスの話や、
アノニマスのサイバー攻撃の話、
アラブの春なども扱っています。

序盤はそうでもないですが、
読んでいくにつれて、
各事件や問題を、社会学的だったり情報学的だったり、
それこそ追跡取材による視点で、著者なりに考察をし、
各々の側面や、深いところを照らしだしています。

こういう、「ITだけ扱いました」という類の本であれば、
まあ、ステレオタイプな考え方だとは思うのですが、
安直に編んだなら、こうこうこれだけの事件があった、というだけで、
事件の羅列と、ネット側からしか見ない杓子定規な評価だけで終わりそうです。
本書はそうならずに、
事件、ひいてはサイバー空間自体を揺さぶってみようという試みが読み受けられる。
呑みこまれずに、対象化していたい、という姿勢です。
リテラシーや情報倫理が必要だ、というような、
著者流の意見も随所に出てきて、
それがたびたび肯けます。

それでも、さらりと読み終えてしまえる文体と分量なので、
今までのサイバー空間の趨勢というか、
ダークサイドばかりですが、
振り返っておさらいするにはうってつけの本だと思いました。

著者 : 矢野直明
ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日 : 2015-02-26

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