Fish On The Boat

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『クリスマスの思い出』

2013-08-21 22:24:54 | 読書。
読書。
『クリスマスの思い出』 トルーマン・カポーティ 村上春樹:訳 山本容子:銅版画
を読んだ。

カポーティの作品の中で、もっとも愛された作品とも呼ばれるのが、
この『クリスマスの思い出』という短編だそうです。
この作品は『誕生日の子どもたち』という短編集にも収められていますので、
ただ読んでみたい人は、そちらで読んでみてもかまわないと思います。
しかし、この本は山本容子さんの銅版画で彩られた絵本というスタイルを
とっていますし、1ページ1ページぜいたくに使って、文庫の短編集だと30pほどなのが、
この本だと80pくらいに紙的にはボリュームアップしています。
なので、金銭的にお得な文庫本をとるか、一冊の本としての完成度の高さがお得な
本作をとるかはけっこうな迷いどころだったりします。
僕はアホなので、どっちも買ってしまいましたが・・・。

誰もが持っている、心の瑞々しさがあります。
そういうのは、子どもの頃につちかわれた柔らかい心の土壌だったりします。
それが、大人になって、知らず知らずのうちに死角のようなところに
押し込められ、わからなくなっていたりする。
また、社会生活をしていくうえで、主に働いていくうえで、
そういうのが合理的でなく、機能的ではないので、邪魔っけにされて、
使われなくなった心の部分として、いつか出番を待っていたりします。
そして、幼く、弱いものとして嫌悪されたりもします。

でも、そういったもののもつ純粋さ、美しさは偽物ではないはず。
そういった心でしか見えなかったりできなかったりする、
世界の美しさがあり、人の暖かさや情愛があり、生の本来の輝きがある。
と、訳者の村上春樹さんの言葉も重ねて書いてみました。

またそういった世界を構築する文章の完成度とセンスそして暖かさは、
カポーティという天才的な文学人から発せられた唯一無二のものだと思います。
日本語訳は、そういうところを損なわないようにされているのでしょう、
読んでいても柔らかな凄さに圧倒されました。

こういう本を読んで感じ入る心の部分っていうのは、
人間の土台の部分だと僕は断言したいくらいです。
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