万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

事実上の移民政策-日本国民は騙されてきた?

2018年11月01日 13時44分53秒 | 日本政治
安倍政権が今国会での成立を目指す出入国管理法改正案は、自公両党の承認を得たことから可決される可能性が高まっております。同改正法案では、外国人労働者に対して新たな在留資格を設けることから、野党のみならず、保守派からも事実上の移民受け入れ政策ではないか、とする批判も上がっています。左右両派からの移民政策論に対して安倍首相は否定しておりますが、どう考えましても、移民政策以外の何ものでもないのではないかと思うのです。同改正案が移民政策に他ならない第一の理由は、定住や国籍付与を前提としなくても、同法の改正によって在留資格を得ることができる外国人労働者は、国際移住機関(IMO)において定められた移民の定義に合致する、という点にあります。これ以外にも、移民政策と認定せざるを得ない理由があります。

まず、第一に、法改正に伴って、受け入れ外国人に対する日本語教育の実施、地方自治体に対する支援、さらには、‘多文化共生庁’なる行政機関が設置されるなど、日本社会全体の大変革とも言うべき大規模な受け入れ態勢の整備が予定されている点を挙げることができます。仮に、報じられる通り、’多文化共生庁’と命名されるとしますと、日本国政府は、国民に是非を問う総選挙さえも経ることなく、外国人の文化やコミュニティーをそのまま認める共生政策を決定したことを意味します。多文化共生政策であれ、同化政策であれ、社会統合政策とは、移民の存在を前提にした政策なのですから、‘移民政策ではない’という弁明は、どうしても詭弁に聞こえてしまうのです。

 第二に、同法案が定める新資格の内の特定技能2号は、日本国政府が認識している‘移民’の定義にも合致している点です。特定技能1号から2号への移行に際しては、熟練した技術の保有が条件とされ、試験に合格しなければ取得できないものの、在留期間には制限がない上に(更新可)、家族の帯同も許されます。2号への移行を以って5年以上の居住が可能となるため、入国管理法が定める永住資格の取得条件、並びに、国籍法第5条が列挙する帰化条件の重要部分をクリアできるのです(なお、国籍法第6条では、10年以上の居住であれば第5条の要件を充たさなくとも帰化が容易となるとしている…)。

第三に挙げる理由は、帯同家族、並びに、その子孫達が移民化することです。アジア諸国の多くの伝統的の家族形態は大家族であり、帯同者として来日外国人数も無視はできません。加えて、比較的出生率が高い外国人世帯の増加により、日本国内で出生する外国人の子供達の数も増え続けることでしょう。しかも、日本国内で出生した外国人、あるいは、その子孫の帰化要件はさらに下がります(居住期間3年等…)。また、帯同家族が永住資格や国籍を取得した場合、如何なる産業分野や職業であっても自由に就職することができますので、人手不足の根拠は早晩意味を失います。政府は、特定技能1条に関心を向けることで、‘移民’という言葉を回避したいのでしょうが、入国管理法や国籍法等に照らせば、特定技能第2号は、明らかに日本国での定住や国籍付与を前提とした正真正銘の移民政策と言わざるを得ないのです。

 家族帯同の問題については、‘現行の高度人材受け入れ制度にあって既に許可されてきた’とする反論もありますが、この反論も説得力に欠けています。何故ならば、家族の帯同の可・不可が移民政策の認定基準であるならば、既に政府が、移民政策を別の名称を以って実施してきたことを告白したに過ぎないのですから(OECDの統計によれば、既に日本国は世界第4位の移民受け入れ国家…)。諸外国では、高度人材受け入れ政策も移民政策の文脈で議論されておりますので、日本国だけ‘移民政策’ではないと言い張ることには無理があります。言い換えますと、日本国では、既に随分と前から移民政策が採られてきたにも拘わらず、今般の法改正で注目が集まることで、ようやく一般国民がその事実に気が付いたとも言えます。

アメリカは大規模移民集団の越境に備えて国境地帯で米軍を展開するのみならず、国籍法における出生地主義の廃止へと動き、ドイツでは難民問題で躓いたメルケル首相の党首辞任が確定した中、本改正法案は、日本国内でも日に日に関心が高まっております。国会での審議も始まりますが、日本国の姿そのものが変わる程の重要な案件ですので、国民的議論もコンセンサスもないままで年内に成立させれば、国民を欺く背信的な行為にもなりかねないのではないかと思うのです。

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8 コメント

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移民政策に対する激しい怒り(怒) (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2018-11-01 18:53:01
私は、今回の政府の事実上の「移民政策」には、激しい怒りを感じています。
私は、本来はどちらかと言えば「自民党びいき」でした。
それだけに左翼・反政府主義者の
「あべ、やめろ」とか「あべ政治を、許さないっ!!」
とか絶叫する人には、以前は、不快感を感じていました。
また、ブログなどで、安倍総理大臣の顔に、バツ印をつけて嘲弄するような品性の欠けたやりかたにも、軽蔑と怒りを、感じたものです。
 しかし、今回の政府の外国人労働者受け入れ政策(事実上の「移民政策」)には、また、別の意味で、強い憤激を感じず
にはいられません。
 自民党指示者が多数だといっても、白紙委任状を出してるわけではありません。
それを、勝手に、国民が知らないうちに、とんでもない事をやると言うのは理に会いません。!
何度も申し上げましたが、移民政策などというものは本来の保守主義者の思想とは、全く相容れないものです。
 昔、民主党の鳩山由紀夫は、「日本列島は、日本人だけのものじゃない」とかいう妄言(たわごと)を言ったそうですね。
鳩山の言葉は、ただの「寝言」に過ぎませんが、今、安倍政権は、それを実現・実践しようとしているのです。
 本来、保守主義者であった(そして、もちろん今も保守主義者の)私は、今、この問題に直面するに当たり、激しいジレンマを感じています。

何度も、執拗で、くどいかもしれませんが、何度も言わずには、おられません!!
本当に、安倍ちゃんは、最近、おかしいです。!!!!

◎日本の國は、日本民族のものです。!!!!!!!!
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櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2018-11-01 19:57:20
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 今般の入国管理法改正法案につきましては、何から何まで不可解な点が多すぎるのです。その理由は、既に移民政策が既定路線として決められており、その決定者は、日本国政府ではなく、国際勢力ないのではないかと推測しております。マスメディア等をも動員し、人手不足を演出した上で、大量の移民を受け入れるように日本国民を誘導しているように思えるのです。しかも、当初の案では5分野に限定されておりましたが、あれよあれよという間に、十以上の分野に拡大しようとさえいたしております。野党の反対に頼るしかない状況でもありますが、一般国民も反対の声を挙げませんと、何度も騙されることになりかねません。このままで、都市部にはスラムも形成されるかもしれず、心配なかぎりです…。
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不思議です (Unknown)
2018-11-02 04:56:18
子孫のいないあなたが,将来の日本を憂えるなんて。「私が死んだ後など,野となれ山となれ」でかまいません。
国際勢力が背後にいるとかの陰謀説もちょっと腑に落ちません。アメリカとかドイツとかは、それぞれの理由があり違っていてもかまわないでしょう。
今回の改正は,一帯一路への入会の挨拶料でしょう。中国では、もう募集が始まっているとか。チャイニーズ系のサイトに日本で研修生をした女性の手記が出ています。三年間で300万円の貯蓄ができた。それで台所,風呂,トイレ,暖房を日本のレベルにできて嬉しいとか。道路や上水,下水は政府がやっても自宅はそれぞれの家がやるので、今の二十世紀初頭みたいな家の改修費を稼いで来いというわけか。家がモダンになってうれしく、日本に感謝でよいのじゃないですか?
陰謀説ですが、多分、麦が人間を操り、今じゃ,日本の全面積の七倍もの麦畑ができたという説のほうがしっくりきます。麦は美味しくなって人間に食べられ人間が栽培して大繁栄ですからね。人間の移動もウィルス,細菌に操られているのじゃないですか?
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Unknownさま (kuranishi masako)
2018-11-02 07:48:56
 子孫の有無に拘わらず、私は、全ての人々が、自らが生きる社会におきまして、責任を分有すべきと考えております。仮に、Unknownさまのように’後は野となれ、山となれ’という態度はあまりに無責任で利己的であり、子供以下の幼稚な精神性なのではないでしょうか(小学生でも責任感の強い子供はいる…)。

 まことに残念なコメントでしたが、重要な内容も含まれておりましたので、掲載いたします。いただきましたコメントから推測される現状とは、日中、あるいは、その背後の勢力が協力し、中国人を大量に日本国に送り出すという計画が進んでいることです。法案が可決されていない現状にあって、既に中国で募集が始まり、しかも、一帯一路構想の一環であるとしますと、これこそ、日本国民に対する陰謀以外の何ものでもありません。日本国民は、政府から、この件について何も説明されていないのですから。Unkwnownさまのコメントは、’静かな侵略’という中国の陰謀の実在を証明しております。
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後になって申訳ございません。 (ベッラ)
2018-11-03 19:27:58
先生の記事、私のブログで紹介させていただきました。
https://blog.goo.ne.jp/bellavoce3594/e/a01e1d7bdcb16e4f997508a8f3f8c81b?fbclid=IwAR0OSmitufltKbaa643USZ1cGBfbXdS8H8hrj-W8e8FyKYsIz0HYH8hLLks

心身ともにくったくた~です。倉西先生の文を読むと元気が出てきます。

またこの文はリンクでツイッターやフェイスブックにも単独でシェアさせていただきました。ありがとうございます。
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ベッラさま (kuranishi masako)
2018-11-03 21:05:42
 コメント、並びに、転載を賜りまして、ありがとうございました。ご配慮をいただきましたこと、心より御礼申し上げます。

 なお、本記事の本文に誤りがございまして、訂正をいたしました。移民の定義は国連ではなく、国際移住機関(IMO)によるものでした。転載を戴いた後での訂正となり、ベッラさまにもご迷惑をおかけいたしてしまい、まことに申し訳ない限りでございます。謹んでお詫び申し上げます。
 
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上から5行目のところですね。 (ベッラ)
2018-11-03 22:02:39
大丈夫です。さっそく文のなかで入れ替えてあります。
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ベッラさま (kuranishi masako)
2018-11-04 08:52:51
 当方のミスにも拘わらず、早々の対応をいただきまして、ありがとうございました。お詫び、並びに、心よりの御礼を申し上げます。
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