goo blog サービス終了のお知らせ 

万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

食料安全保障とは自給体制の強化では?

2025年03月31日 11時57分41秒 | 日本政治
 先日の3月28日付けの日本経済新聞朝刊の第1面に、日本国の食料安全保障に関する記事が掲載されておりました。タイトルは「三菱商事、穀物メジャーと提携」というものです。同記事の内容は、日本国の大手商社三菱商事が、2030年度の穀物の取引量を現在の1.5倍に増やすために、アメリカの穀物メジャーであるADM(アーチャー・ダニエルス・ミッドランド)に対して1000億円ともされる額を出資するというものです(ADM側は、穀物の供給先として三菱商事の再生航空燃料事業に期待・・・)。同提携については、日本国の‘食料安全保障に寄与する’としているのですが、日本国の農業を取り巻く厳しい現状に照らしますと、この解説には疑問が沸いてきます。

 この問題を考えるに先だって、‘食料安全保障とは何か’という同用語の定義を確認する必要がありましょう。農林水産省のホームページには、食料・農業・農村基本法の抜粋として以下の記載があります。

「(食料の安定供給の確保)
第2条食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることにかんがみ、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない。

2  国民に対する食料の安定的な供給については、世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることにかんがみ、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行われなければならない。

4  国民が最低限度必要とする食料は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に著しい支障を生じないよう、供給の確保が図られなければならない。

(不測時における食料安全保障)
第19条国は、第2条第4項に規定する場合において、国民が最低限度必要とする食料の供給を確保するため必要があると認めるときは、食料の増産、流通の制限その他必要な施策を講ずるものとする。」

HP掲載条文の全文をアップしましたが、とりわけ注目すべきは、第2条の2です。食料安全保障の基本は、「国内の農業生産の増大を図ること」と明記しているからです。おそらく、国民の大多数が、たとえ同定義を知らなくとも、常識的には食料安全保障とは食料自給率の向上を意味すると理解していることでしょう。ところが、今般の日本国の商社と米穀物メジャーとの業務提携は、穀物輸入を増やすという、逆方向での“食料安全保障”なのです。

 もっとも、第2条の2では、‘基本’について述べた後に「これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行われなければならない」と続きますので、必ずしも輸入を否定しているわけではありません。しかしながら、有事にあって‘敵国’が‘海上封鎖’を実施すれば、日本国への輸送ルートは断たれ、兵糧攻めに遭ってしまいます(中国は、既に太平洋に進出し、潜水艦等による海洋戦略を展開している・・・)。輸入に依存しない食糧の自給体制構築が近々の重要課題であるとする認識は国民が共有するところですので、輸入拡大をもって食料安全保障の強化とする見解には、自ずと疑問符が付いてしまうのです。

 そこで注目すべきは、やはり、目下、日本国で起きている異常なまでの米価高騰です。米価格の高騰の背景には、お米を含む穀物輸入を増やしたい日本国政府、あるいは、グローバリストの思惑があるのではないか、とする指摘があります。大手商社と穀物メジャーという民間での事業提携の形態を取りながら、本当のところは、日本国政府の‘国策’であるとも推測されるのです。

 しかも、同協定で想定されている穀物の輸出国はアメリカのみではなく、ブラジルも加わっています。ブラジルと言えば、先日、同国の大統領が訪日したばかりなのですが、両国間で穀物の取引に関する何らかの‘協定(密約?)’が結ばれた可能性も否定はできません。中国がアメリカからの穀物輸入を減らし、ブラジル産に切り替えている中、日本国がブラジルからの輸入を増やして中国に対抗するとする対中政策論です。ところが、岩屋毅外相は、「日中ハイレベル経済対話」の席で中国に対して日本産精米の輸入拡大を求めていますので、日本国政府の政策は支離滅裂なのです(ブラジルが、アマゾンの熱帯林を伐採して日本輸出向け穀物生産を拡大させるならば、地球の環境破壊を促進することにも・・・)。

 三菱商事の現状での穀物輸入量は500万トンから600万トンとされていますので、目標とされる5年後の2030年度に1.5倍に拡大すれば、250万トンから300万トンが新たに輸入されることとなります。その一方で、日本国内でのお米の年間の生産量は凡そ700万トン弱です。以上の諸点を考え合わせますと、最悪の場合には、日本国の高級ブランド米は中国を含む海外に輸出される一方で、中小規模の農家は廃業に追い込まれ、米生産の減少分を海外からの安価な穀物の輸入で補うという未来もあり得ないことではありません。しかも、両社の提携は有事を想定したものでもありませんので、この未来は、直ぐそこまで来ているように思えるのです。輸出による外貨獲得が先細る中、有事であれ、平時であれ、永続的に食料を海外に依存する体制が望ましいはずもなく、日本国政府は、国内農業の育成と発展にこそ努めるべきではないかと思うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« グローバリストの実行部隊の... | トップ | 日本国の食料&エネルギーの... »
最新の画像もっと見る

日本政治」カテゴリの最新記事