万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

極超音速ミサイル迎撃とハワイの山火事

2023年08月17日 11時58分50秒 | 国際政治
 ここ数日、二つの記事が耳目を集めています。その一つは、安全保障の分野における日米間の協力プロジェクトとしての極超音速ミサイル迎撃システムの共同開発であり、もう一つは、ハワイ島における山火事です。一見、この二つの記事には全く関連性がないように見えます。しかしながら、両者には、あるテクノロジーを介して接点があるように思えます。

 二つの記事を結ぶ接点と推測されるのは、指向性エネルギー兵器の技術です。日米間の極超音速ミサイル迎撃システムの共同開発については、明日18日に予定されている日米首脳会談で合意されるとも報じられていますが、‘日米共同’を謳いながらも実質的にはアメリカ主導のプロジェクトのようです。アメリカ側としては、初期段階において超音速ミサイルの発射を察知できるように、多数の人工衛星をネットワークで結び、これらを一体化して運用する「衛星コンステレーション」を構想しているとされます。レーガン政権時代に計画され、米ソ冷戦の終焉を機に消滅した「スターウォーズ計画(戦略防衛構想)」が再始動した感もあるのですが、同「衛星コンステレーション」が完成すれば、地球全体をすっぽりとカバーし得る宇宙からの監視網が構築されることとになります。因みに日本国でも、第二次世界大戦時から指向性エネルギー兵器の開発に着手しており、戦後にあっても、1970年代から高出力レーザシステムの開発が進められており、‘独自技術’の提供が期待されているのかもしれません。

 そして、おそらく監視ネットワークの先には、指向性エネルギー兵器の活用、すなわち、「衛星コンステレーション」を構成する各衛星に搭載した指向性エネルギー兵器によるミサイル迎撃も視野に入れていることでしょう。同迎撃システムについては「より遠方で迎撃する手段」として説明されており、既存の地対空型の迎撃装置とは別次元の迎撃方法が想定されていることが窺えるからです。‘より遠方’で極超音速ミサイルを迎撃するには、地球を取り囲む形で宇宙空間に配置された衛星群にあって最もミサイル発射地点に近い衛星からレーザーを照射して破壊するのが、最も確実かつ効率的な方法となりましょう。

 報道に依れば、同システムは10年以内での開発が目標とされていますが、潜水艦発射のSLBM、並びに、移動式ICBMや地下ミサイル基地から発射される、極超音速ミサイルを含む如何なるミサイルでも確実に迎撃し得るシステムの開発に成功すれば、核兵器を完全に無力化しますので、少なくとも共同開発に携わった日米両国をはじめ「衛星コンステレーション」を利用し得る諸国にとりましては朗報と言えましょう(ただし、同システムの完成を恐れた中ロによる軍事行動を誘発するリスク、並びに、同様のシステムを中ロが開発する可能性も・・・)。1983年3月23日に「スターウォーズ計画」を公表したSDI演説でも、レーガン大統領は「核兵器を時代遅れにする」と述べています。

 かくして‘新しいミサイル防衛システム’には、核の脅威から人類を解放する希望の光ともなり得るのですが(もっとも、技術的なハードルが高く、昨日の記事で指摘したような核武装による相互抑止のような即時的、かつ、全世界の諸国の安全を護る効果は期待できない・・・)、その一方で、指向性エネルギー兵器は、防衛面のみならず攻撃面にも利用し得ることは疑いようもありません。そして、指向性エネルギー兵器の攻撃面に対する人々の恐怖心や警戒感が、ハワイの山火事に関する真偽不明の‘陰謀説’を生み出すこととなったのです(つづく)。
 

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