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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米価高騰の原因不明こそ大問題

2025年05月26日 11時41分40秒 | 日本政治
 今日、日本国は、奇妙な現象に見舞われています。それは、‘一向に下がらない米価’という目に見える現象なのですが、‘奇妙’と表現したのは、国民には、何が米価高騰の真の原因であるのか分からからです。お米の値段が上がっているのは、誰もが日常の消費を介して体験していることなのにも拘わらず、その原因が藪の中なのです。日本全国にあってお米の卸売事業者も小売店も多々ありながら、何れの事業者も、市場メカニズムの最大のメリットも言える値下げ競争をするでもなく、何らの説明もないままに値札の表示が高値の方向に更新されてゆくのです。

 如何なる問題も、その原因を突き止めないことには有効な対策を打てるはずもありません。言い換えますと、問題解決の出発点は、原因の解明にあるとも言えましょう。ところが、政府も国会も含めて政治サイドでは、米価高騰の原因を真摯に解明したり、責任を追及しようとする姿勢は殆ど見られません。失言で職を辞した江藤拓議員に代わって大臣のポストを得た小泉農水相も、米価を下げることだけに国民の関心を向けようとしているかのようです。

 この‘米価を下げる’という目的のために小泉農水相が打ち出したのは、競争入札方式を止めて随意契約とし、農協を介さずして直接に大手小売り事業者に売却するという方法です。農協が20万トンを超える備蓄米を放出しながら米価下落の効果が見られませんので、農協や卸売事業者を流通ルートから排除すれば、即、米価を下げることができると考えたのでしょう。この方法であれば、米価を2000円まで劇的に下げることができるとアピールしているのです。しかしながら、このピンポイント式の方法では、米価が下がるのは放出された備蓄米のみであり、しかも、大手小売店に限定されます。近隣に備蓄米販売店がない、あるいは、通販に慣れていなければ購入もできませんので、全ての国民が恩恵を受けるわけでもないのです(また、注文殺到で、瞬時に売り切れとなるかもしれない・・・)。

 しかも、同方式は法に触れるとの指摘もありますし、見方を変えれば、通販を含めた大手小売店に対する備蓄米の独占的な払い下げともなります。小泉農水相は、備蓄米の安値販売を引き受ける大手小売り事業者を利益を度外視した慈善的な行為として褒めていますが、僅かであれ利益を上乗せするでしょうから、独占的な販売は、やはりビジネス・チャンスともなりましょう。そもそも米価高騰の狂乱以前は、2000円程度で販売されていたのですから。また、中小の小売店にとりましては、現状にあっても米価高騰で売り上げが減少する中、顧客が大手小売店に流れるリスクも抱えてしまいます。さらに穿った見方をすれば、小売店への直接売却は、農水省が作成している全国の相対取引を平均化した「現物コメ指数」への影響を避けるためかも知れません。何故ならば、同指数は、大阪堂島取引所における「コメ指数先物」で用いられている指数であり、相対取引とは、農協等の集荷業者と卸売事業者との間の取引であるからです。

 かくして、今般の大手小売りへの直接売却方式には限界も問題点もあるのですが、そもそも真の原因が解明されていないという大問題があります。最も有力であり、かつ、小泉農水省が主張してきた‘農協解体’の目的にも合致する農協犯人説も、必ずしも正しいとは限りません。何故ならば、お米取引の自由化が進んだ今日では、農協の農家からの集荷率は既に3割程度に下がっており、同事業への民間事業者の新規参入が増加している現状があるからです。半数を超える7割程度が農協を介さない流通であるならば、米価高騰の真の原因は、民間の新規参入者にあると考えるのが自然です(老舗の米卸問屋については、お米が確保できずに廃業するケースも・・・)。

 もっとも、本日からAmazon.co.jpでは全農のパールライス(JAグループのブランド米)が、5kg3868円で販売されているそうですので、同米が備蓄米であれば、2000円の備蓄米の登場を前にしてか、少なくとも農協が落札した備蓄米の小売りは始まったことになりましょう(この価格でも、落札価格を考慮すれば農協は十分に利益となる・・・)。その一方で、これが備蓄米でなければ、米価高騰を目的として農協が‘売り渋り’を行なっていた証ともなりましょう(標的とした組織に対して予め自らの‘味方’を送り込むのは常套手段ですので、農協の中枢部も、金融グローバリストに半ば‘乗っ取られている’とも推測される・・・)。

 農協犯人説は、巨額の運用資金を手にするために農協を解体したいグローバリストの筋書きなのでしょうが、原因不明の状態も、それが好都合であるからなのでしょう。原因が国民には分からない状態であれば、政府が‘原因’を一方的に‘特定’し、その対策を口実と低如何なる政策をも思い通りに実行することができるからです。しかしながら、この手法、既に辻褄が合わなくなってきており、あちらこちらから綻びが生じてきているように思えます。たとえ米価が下がったとしてもここで満足せずに、解決すべきは原因不明状態、即ち、日本社会を覆う強度の情報隠蔽あるいは情報統制ですので、後者の原因こそ追求すべきと言えましょう。国民が、自らの食に関する情報を十分に得ることができない現状こそ、異常事態ではないかと思うのです。

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