万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

三権分立の意義を理解していない韓国-‘司法の独裁’を認めた?

2019年01月11日 10時47分07秒 | 国際政治
徴用工「争点化は賢明でない」 文在寅大統領、解決策示さず
 昨日、韓国の文在寅大統領は、年初の記者会見の席で所謂‘徴用工判決’について耳を疑うような発言をしております。日本国政府に対して、‘もう少し謙虚な立場にあるべき’であり、‘不満があっても仕方がないという認識を持つべき’と述べたのですから。

 文大統領は、三権分立の原則を根拠として日本国に対していわば‘泣き寝入り’を求めたことになるのですが、そもそも、同大統領が、三権分立の一翼となる‘司法の独立’の意義を正確に理解しているのか、全くもって怪しいところです。何故ならば、‘司法の独立’とは、‘司法の独裁’を意味するのではなく、基本的には、政治・行政機関による司法機関に対する介入を防ぐために確立した統治機構上の原則であるからです。

 仮に、君主、大統領、首相、あるいは、議会といった政治・行政機関によって司法権が握られるとしますと、法律のみに照らして公平・中立的な立場から裁判を行うことが極めて困難となります。政治的な目的が優先され、司法権を利用したライバルや抵抗者の排除や財産没収等も横行することでしょう。こうした事例は古今東西を問わずに近代以前の歴史上にあっては散見され、今日でさえ、三権分立を否定する中国では、習政権を批判した国民や民主化を目指す活動家は、裁判所の有罪判決を以って投獄されています。‘政治裁判が存在する国は近代国家ではない’と評される理由は、政治機関によって常に司法機関の中立・公平性が損なわれ、政治介入による偏った判決が為されるからに他なりません。‘司法の独立’とは、言い換えますと、執政(行政)機関や立法機関からの‘政治不介入’の原則なのです。

  かくして、司法の独立は、国家の近代化を画するメルクマールの一つとなるのですが、
以上に述べたように、統治機構における‘司法の独立’の意義を確認しますと、文大統領の発言は幾つかの点で問題があります。第一に、司法の独立の基本構図は、政治による司法への介入を想定した上での‘政治介入経路の遮断’であって、同原則は、司法機関そのものの政治化を認めているわけではない点です。今般の韓国裁判所の判断を見ますと、上述した基本構図とは逆に、裁判所自身が政治機関化し、それを執政機関も認めている構図となるのです。つまり、韓国政府は、‘司法の独裁’を認めたこととなるのです。

 三権分立に伴う統治機構の分裂による麻痺、並びに、一機関の完全独立による独裁化のリスクに対しては、権力分立の基本構図では、統治機関相互のチェック・アンド・バランスの仕組みをビルトインしています。国によってこの仕組みには違いがありますが、例えば、大統領や裁判所に対しては議会が弾劾権を有し、立法に対しては裁判所が法令審査権を有する…というように。権力分立を統治機構に組み込む以上、各機関が本来の役割から逸脱しないよう制御装置として様々な工夫が凝らされているのです。第2の問題点は、韓国の統治機構には、チェック・アンド・バランスが存在していない点です。

 所謂‘徴用工判決’にあって、韓国は、三権分立を誤認して‘司法の独裁’を認めるという致命的な‘ミス’を犯しています。あるいは、‘ミス’ではなく、本心においては中国と同様に権力分立を否定し、全ての権力が頂点に集中する独裁を是としているのかもしれません。仮に、韓国が、権力分立のメカニズムを、チェック・アンド・バランスを含めて包括的に理解しているとすれば、今般の所謂‘徴用工問題’も全く別の経緯を辿ったことでしょう。例えば、韓国国会が調停機能を担い、「日韓請求権協定」を法源とした裁判所の判決を越権行為として審査に付す、あるいは、日本国政府による協議申し入れを拒絶した文大統領に対して、職務怠慢、あるいは、放棄として弾劾に付すといった方法もあるはずです。

 権力分立をはじめ、統治機構とは、理不尽な‘泣き寝入り’をなくし、より公正で正義に適った世の中を実現しようとする人々の願いを原動力として発展してきたはずです。日本国に対して‘泣き寝入り’を求めた韓国は、人類の倫理上の発展の流れにも逆行しているように思えるのです。

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1 コメント

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千年 (Bystrouska.Vixen)
2019-07-16 17:16:08
前大統領は千年経っても日本を恨むと言いました。
これは韓人にとって可能でしょう。
されど、
韓人が三権分立の意義を理解して運用することは千年経っても無理でしょう。というか、解っても受け付けないでしょう。天子(つまり権力者)は法などという低級なモノの下に在ってはならないことこそが正義なのですから。

ああ、この論議無駄でした。どのみち彼らの国は千年どころか、十年もつかどうかさえあやしいのですからね。

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