万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

反戦より反核に熱心な奇妙な平和主義者たち

2024年04月17日 12時08分28秒 | 国際政治
 近年、ノーベル平和賞の受賞者には、バラク・オバマ元米大統領やICANなど、核兵器廃絶に尽力した人たちが目立つようになりました。日本国では、唯一の被爆国ですので、戦後、一貫して反核運動が盛んであったのですが、国際社会を見ましても、核兵器に対する反対運動は強い影響力を発揮してきました。核廃絶を求める同運動は、平和を求める人類の良心の声のようにも聞えます。しかしながら、その一方で、核兵器を特定国にのみ保有を許す現行のNPT体制が、その実、全世界を対象とした核の配分による支配体制の構築のための戦略であったとする視点からしますと、同運動は、平和に資するものとして無条件に賞賛されるべきものでもないように思えてきます。

 もちろん、核廃絶運動に取り組む人々の大多数は、平和を願う気持ちから同運動に参加しているのでしょう。組織にあっては、真の目的を知る者は、極一部の中枢に居る人々に限られるケースは珍しいことではありません。しかも、核兵器は残酷且つ非人道的な兵器ですので、同兵器をこの世から消し去ることこそ正義であると信じる人々の心情も理解に難くはないのです。しかしながら、その一方で、組織の内部にいるからこそ、疑問を感じる場面もあるのではないでしょうか。

 例えば、運動資金に注目しますと、同運動は、自発的に参加しているメンバーの寄付やカンパだけで賄われているのか、という疑問が沸くはずです。反核デモへの参加に際して日当や交通費やお弁当代などの実費が支払われているとしますと、何らかの支援金が提供されている可能性が高くなります。また、反核団体の組織が、何れかの政党や政治団体の系列に属しているとしますと、純粋な平和の訴えと言うよりも、政治的な活動としての側面が強くなります。しばしば、日本国の反核運動は、‘アメリカの核はダメで中国の核はよい’とする矛盾した態度が揶揄され、‘中国の回し者’扱いも受けてきましたが、核兵器配分論の視点からしますと、政治団体としての反核組織とは、世界権力が、核の‘抑止力の拡散’の抑え込みを目的として育成した下部組織となりましょう。最大の攻撃力は、最大の抑止力でもあるのですから(少なくとも、防御型指向性エネルギー兵器などの完璧なる防御手段が開発されるまでは・・・)。

 そして、何よりも核兵器廃絶運動において不自然な点は、戦争反対よりも核兵器反対に傾いているところにあります。核兵器とは、戦争という存在があってこそ人類の脅威となるものです(戦争が起きなければ、使われることもない・・・)。その破壊力としての側面のみを取り上げる、即ち、核兵器=非人道的大量破壊兵器=絶対悪の等式から廃絶を訴えている平和主義者であればこそ、戦争が発生してしまう国際社会の構造に反対するはずなのです。しかしながら、反核運動の人々は、ベトナム戦争と言った個別の戦争に反対することはあっても、根本的な脅威の原点となる戦争自体については、国際社会の構造的な問題に触れようともせず、積極的にその‘構造改革’を訴えようともしないのです。

 現職にあってノーベル平和賞を受賞したオバマ元大統領に至っては、戦後の国際社会にあって国連体制を曲がりなりにも支える暗黙の了解事項であった、‘世界の警察官’の職を‘辞任’する意向を示しています。この辞職宣言には、国際社会における治安維持機能の低下、即ち、戦争や紛争に対する抑止力が低下するリスクが全く考慮されていません。ウクライナ戦争も、イスラエル・ハマス戦争も、それが起きたのは、平和主義を党是としていたはずの民主党のバイデン政権でした。このことは、リベラルといえども、アメリカの民主党政権が‘本気’で平和を願っているわけではないことを、その行動によって示しています。

 おそらく、真剣に戦争を廃絶しようとすれば、力によるのであれば、全ての諸国による核の抑止力の保持を認める必要がありますし、交渉による合意解決を目指すのであれば、協議機関を設け、当事国双方に着席義務を課す必要があります。そして、国際法違反の行為に対しては、中立・公平な裁判による平和的な解決が実現するよう、国際司法制度の具体的な改革を要します。そして、大統領自らが反核をパフォーマンスとして叫ぶよりも、アメリカ自らが、具体案をもって提唱してゆくべきであったと言えましょう。

こうした平和的解決の実現に向けた制度改革の努力が見られないからこそ、反核運動も、核の独占体制の維持が真の目的ではないかと怪しまれることとなります。このままでは、アメリカは、自国の軍需産業のために、そして、さらにその深奥では、世界権力が自らの私益となる戦争ビジネスのみならず世界支配のために核兵器の配分をコントロールとする説は、ますます信憑性、否、真実性を帯びてくるのではないかと思うのです。

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