万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自然エネルギー財団問題-既に‘グレートリセット’は実現している?

2024年04月01日 10時14分47秒 | 国際政治
 ここ数年来、政府は、国民に多大な影響を及ぼす重大な政策の決定に際して、有識者会議を設けるという方法で、政府による独断専行との批判を回避してきました。再生エネルギー推進政策についても「再生エネルギータスクフォース」が設置され、民間団体から‘有識者’が選任されたのですが、民間メンバーから提出された資料に中国国営企業のロゴの入っていたことから、中国の対日介入が懸念されることとなりました。

 同タスクフォースの構成員に選ばれ、問題の資料を持ち込んだのは、自然エネルギー財団事務局長を務める大林ミカ氏です。もっとも、同氏の人選には、現在デジタル大臣等の役職にある河野太郎氏が深く関わっていたとされます。報道に依れば、外務大臣の職にあった際にも、外務省に設けられた「気候変動に関する有識者会合」に同財団から大林氏を含む3名のメンバーが選ばれたそうです。また、今般の騒動の責任をとる形で大林氏が同メンバーを辞任するに際しても、「・・・河野太郎規制改革担当相から「了承した」という返信を事務局経由でもらった」と述べると共に、同氏からの推薦をあった旨も明らかにしていますので、河野氏の関与はほぼ確実と言えましょう。

 かくして、中国国営企業のロゴ発覚問題は、それがたとえ単なる‘ミス’であったとしても、政治家が関わる‘令和の疑獄事件’ともなりました。当の河野氏には中国スパイ説も持ち上がり、「有識者会議」を介して日本国の政策が中国の国策に利用され、同国の政策に沿うように誘導されている実態が明らかとなったからです。それでは、今般の事件にあって、国際法の原則に反する内政干渉を行なった‘犯人’は、中国なのでしょうか。

 確かに、‘実行犯’は、中国なのでしょう。しかしながら、その背後には、全世界のエネルギー政策のコントロールを目指すグローバリスト勢力の陰も見え隠れしています。そもそも、再生エネルギーとは、2011年3月11日に発生した東日本大震災における福島原子力発電所事故を機に、菅直人民主党政権の下で強力に推進されるようになった政策です。大林氏も、反原発の活動家としても知られており、反原発・脱原発運動が、その実、再生エネ利権と結びついていることを示しています。そして、当時にあって反原発運動が全国的な激しさを増す中、ソフトバンクグループを率いる孫正義も、将来予測される国内の電力不足の解消策として、中国、ロシア、モンゴル、北朝鮮等を電線網で繋げる「アジアスーパーグリッド構想」を打ち出したのです。

 ところが、この構想の焼き直しとも言える構想が、中国が進めている「一帯一路構想」にも登場してきます。時系列を見ますと、「一帯一路構想」が最初に提唱されたのは2013年ですので、孫氏の「アジアスーパーグリッド構想」を中国が模倣したようにも見えます。しかしながら、これらの二つの構想は、日中両国においてそれぞれ別々に推進されているわけではなく、事実上、一体化してゆきます。驚くべきことに、孫氏は、中国側の国際送電網構想の事業主体となる中国国営企業、すなわち、件のロゴ使用している国家電網公司を中心として設立された非営利団体「GEIDCO」の副会長に収まっているのですから。日中間の構想が何らの軋轢もなく円滑に一本化された様子からしますと、中国が日本発の構想を真似る、あるいは、‘横取り’したのではなく、既に別の次元で同構想が計画されていたとも推測されます。仮に、後者であれば、孫氏も中国も、同構想の実現に協力しているに過ぎず、‘実行部隊’の一員と言うことになりましょう。

 そして、ここで思い出されますのが、世界経済フォーラムが掲げている未来ヴィジョンです。‘グレートリセット’とも称されているのですが、同ヴィジョンでは、将来のグローバル・ガバナンスは、‘多国籍企業、国際機関を含む政府、並びに、選ばれた市民団体(CSOs)間の3者の協力によってマネージされる’とされています。このヴィジョンに照らして今般の国際送電網構想を見ますと、まさしくこれらの3者の協力によって推進されています。多国籍企業は、国家電網公司やソフトバンク等の国境を越えて事業を展開する企業であり、国際機関や政府とは、AIIBや日中両国政府、あるいは、配下の政治家となりましょう。そして、最後の‘選ばれた市民団体’こそ、自然エネルギー財団となるのです。もちろん、同財団を選んだのは、世界経済フォーラムに代表される世界権力なのです。

 河野太郎氏は、世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議に頻繁に出席するのみならず、2014年には、「グローバル・ヤングリーダーズ」にも選ばれています。また、同ヤングリーダーではないものの、大林氏は、国際太陽エネルギー学会の「グローバル・リーダーシップ賞」を受賞しています。

 今般の中国国営企業のロゴ発覚事件は、それが完成したわけではないにせよ、世界権力による人類支配の仕組みを図らずも公開してしまった観があります。そしてそこには、どこにも国民の声が政治に届く民主的な要素が見られないのです。

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