万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

EU大統領と神聖ローマ帝国皇帝

2009年11月21日 15時32分26秒 | ヨーロッパ
EU大統領の知名度めぐり皮肉 ジスカールデスタン氏(朝日新聞) - goo ニュース
 リスボン条約の発効がほぼ確実となり、第一代のEU大統領として、ベルギーの首相ヘルマン・ファンロンバウ氏が選ばれました。この人選に関連して思い浮かべるのは、ハプスブルク家出身で初めて神聖ローマ帝国皇帝に選ばれた、ルドルフ1世の選出事情です。

 神聖ローマ帝国の皇帝は、世襲ではなく帝国領内の諸侯によって選ばれる仕組みとなっており、誰が皇帝に選ばれるかは、常にヨーロッパの為政者たちの関心事でした。度重なる十字軍の遠征では、神聖ローマ皇帝は旗印とはなりましたしたが、13世紀ともなると、その実態は、帝国内の有力諸侯たちが肩を並べ、相互に覇を競う分立状態となります。この結果、1254年から大空位時代に入るのですが、混乱に乗じて、帝国領外のイギリス、カスティーリャ、ボヘミア、フランスなどの大国も相次いで加わり、帝位争いは混戦模様となります。こうした混乱に終止符を打ったのが、当時はまだ弱小の君主であったハプスブルク家のルドルフの皇帝選出でした(1273年)。敢えて小国の君主が皇帝に選ばれたのは、大国や有力諸侯が相互に牽制し合い、強力な皇帝の出現を望まなかったからと言われています。

 今回のEU大統領の選出にも、ルドルフ1世の選出に際して大国の間に働いた力学に通じる政治的なバランス感覚を見ることができます。ヨーロッパに傑出した指導力を持つ大統領が登場するよりも、各国とも、EUおける自国の政治的なプレゼンスを保持するために、大統領職に調整役を望んだのですから。この側面は、国連の事務総長の選出にも観察されていますが、国際機構における集権化と分権化との綱引きが透けて見えるように思えるのです。

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