万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イランは核開発・保有を宣言するのか?

2024年10月02日 11時46分31秒 | 国際政治
 本日、速報として、イランによるイスラエルに対するミサイルによる報復攻撃が報じられています。ここ数週間に亘って、イスラエルは、ハマス支援の立場からレバノンで活動を続けてきたイスラム教シーア派武装組織ヒズボラに対する攻撃を強めてきました。ヒズボラのメンバーに配られたポケットベル型通信機が爆発し、民間人が巻き添えとなった9月18日のテロ事件も、同装置を仕掛けたのはイスラエルとされております。イスラエル軍がレバノンの首都ベイルートに対して初めての空爆を行なったのが9月30日です。これに先立つ9月29日には、イランへの武器輸出を阻止する目的で、イスラエル軍機がイエメン西部の港湾都市であるホデイダをも攻撃する事件も起きています。そして、昨日の10月1日に、イスラエル軍は国境を越えてレバノン南部で軍事作戦を開始しており、イスラエルの攻撃がエスカレートするにつれ、中東全域に戦火が拡大する兆しを見せているのです。

 なお、ヒズボラとは、レバノン国内で活動する武装組織でありながら、イラン革命の指導者であったホメイニ師の指導の下で結成されています。軍事訓練もイラン革命防衛隊が行なっているとされます。いわば、レバノンに駐留するイラン革命防衛隊の支部のような立場にあり、公式にはレバノン政府の国軍ではありません。このため、本来であれば、自国領域に対する武力攻撃が行なわれたのですから、レバノン政府が国軍をもってイスラエルに応戦すべきところなのですが、ハマス並びにヒズボラ幹部の殺害等への報復を根拠として、‘親玉’であるイランがイスラエルに対して報復攻撃を行なっているのです。

 もっとも、過去の世界大戦の経緯等から推測しますと、一連の事件の背後で中東情勢を操っているのは、またしても戦争を富と権力を自に集中させるための一大チャンスとしてきた世界権力なのでしょう。しかしながら、世界権力が作成した‘カバー・ストーリー’は実によく出来ており、政府の公式見解やマスメディアが発する情報だけを信じますと、あまりにもアクター達の反応の連鎖が上手に説明されていますので、‘茶番劇’を現実と思い込んでしまいます。それでは、どのようにすれば、‘茶番’であるか否かを見極めることができるのでしょうか。この判別のために有効となる方法の一つは、現実ではあり得ない非合理的な行動について説明を求めることです。

 例えば、今般の一連の動きで問うべきは、イランの核の行方です。核兵器については、イスラエルはNPTには加わらず、その枠外で核を保有する核兵器保有国です。イランによる対イスラエル報復攻撃は、イスラエルが核保有国であることを考慮しますと、自国が核攻撃されるリスクを負っての決断であったことにもなります。今般のミサイル攻撃は、イスラエルが誇る‘アイアンドーム’によってその殆どが迎撃されたとされますが、それでもイスラエルは、イランに対して報復攻撃を行なう可能性は十分にあります。この展開からしますと、ここに、イランは核合意によって停止してきた核開発を再開し、核兵器を保有する正当な根拠を得たことにもなります。イランはNPT加盟国ですが、同条約第10条には、「・・・この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する」と定められているからです。つまり、イランは、イスラエルからの核攻撃の可能性を主張することで、NPTを合法的に脱退できるのです。

 イランの核開発については、2015年に、米英仏独中ロの六カ国との間で核合意が成立したものの、トランプ政権時代の2018年にはこれを不十分としてアメリカが離脱しており、今や空文化しています(イランも、2019年に核合意の段階的履行停止を宣言・・・)。その一方で、イランは、NPT条約の締約国であり続けていますし、2017年に国連総会で核兵器禁止条約が採択されるに際しては賛意を表明しています(ただし、締約国にはなっていない・・・)。つまりイランは、裏では核兵器の開発を進めながら、表向きは非核兵器国を装っているのです。

 今般のイスラエルとの開戦の可能性は、上述したイランの表裏二面作戦を遂行する必要性を失わせます。言い換えますと、最早、隠れて核兵器を開発・保有する理由がなくなったのです。となりますと、イラン政府が合理的に自国の安全を確保しようとするならば、当然NPTからの脱退を宣言し、核兵器の開発再開を堂々と進めるはずなのです。否、既に核兵器の開発段階は終了しており、既に核兵器保有国となったからこそ、イスラエルに対して報復攻撃を行なったとも考えられましょう。かつて北朝鮮が六カ国協議を翻弄し、時間を稼いで核兵器の保有に至ったように・・・。

 しかしながら、中東での一連の動きをイスラエルやイランの両国を含めて世界権力が操っているとすれば、イランは、自らの核兵器の保有を全世界に向けて公表しようとはしないことでしょう。何故ならば、公表した時点で、両国間に核の相互抑止力が働き、戦争拡大の動きが止まってしまうからです。戦争利権を握り、第三次世界大戦シナリオをも温めてきた世界権力としては事態の早期鎮静化は望ましいことではなく、願わくばロシアとウクライナとの間の核の非対称関係のように通常戦力による泥沼の戦闘状態が長引くことを欲することでしょう。あるいは、イランの核保有の事実が知れ渡っているに拘わらず、イスラエルがイランを報復攻撃するとしますと、‘核戦争による人類滅亡シナリオ’を発動させるのかも知れません。

 果たして、イランは、核兵器の保有を公言するのでしょうか。今後のイランの動きは、壮大なる‘茶番劇’の主催者としての世界権力の存在、あるいは、その操作力の如何を人々が知る上でも、極めて重要なポイントにとなるのではないかと思うのです。

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