万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

マイナカードにも健康保健証にも国籍の記載がない

2024年10月09日 12時17分32秒 | 日本政治
 健康保険証のマイナンバーカードへの一本化について、日本国政府は、最大のメリットとして不正使用の防止を挙げています。この不正使用に関してしばしば指摘さているのが、外国人による‘なりすまし’犯罪などです。外国人による不正使用に注目しますと、マイナンバーカードにも健康保険証にも、国籍が記載されていない事実に気付かされます。そして、この問題への関心は、本人確認の手段以前の問題として、外国人が医療保険に加入できる、あるいは、容易に悪用できる現行の仕組みにも及んでくるのです。

 健康保険については、日本国内に居住する外国人にも加入義務があります。2012年の入国管理法の改正では、外国人の加入資格が入国1年以上から3ヶ月超えに短縮されてもいます。近年の日本政府による事実上の‘移民政策’により、外国人の数は増加の一途を辿っており、これに比例して外国人健保加入者数も当然に増え続けています。在留資格が3ヶ月超えていれば加入できますので、もちろん、外国人技能実習生も対象となります。

 政府は、建前としましては‘外国人にも日本国の医療保険制度を支えていただく’という低姿勢なのですが、保険とは、保険料の支払を受ける代わりに利用者のリスクをカバーする制度です。このため、民間の保険会社がビジネスとして運営するように、通常、長期的かつ確率的に両者のメリットがバランスするように設計されています。「加入期間一日、保険料1円」という条件で、リスクが顕在化したときに加入者に1億円の支払いを約束する保険会社はおそらく存在しないことでしょう。しかも、国の医療保険制度ともなれば、保険提供側の収益は度外視されますので、より利用者、即ち、国民のメリットに比重が傾くように制度設計がなされているはずです。実際に、健康保険の赤字分は国庫から補填されているのですから。

 こうした保険制度における制度設計上のバランス、否、アンバランスを考えますと、‘3ヶ月超え’という短期間の外国人滞在者に対して国保加入を義務付けることが適切であるのか、疑問が生じてきます。健康保険制度の基本設計では、国民が生涯に亘って日本国に居住することが想定されているからです。健康な若い時には医療機関にかかる機会は少なくとも、高齢になる程に老化現象による医療費の負担は増してゆきますので、生涯を通してトータルに見れば、およそ収支がバランスするように考慮されているのです。

 しかしながら、短期滞在者にも保険制度への加入並びに利用を認めるとなりますと、若年の外国人にとりましては、給与から天引きされる保険料は負担に感じられると共に、それは、積極的な利用へのインセンティヴともなりましょう。外国人による健康保険証の‘使い回し’や‘なりすまし事件’が発生する背景には、こうした制度上の問題点を指摘することができます。民間の医療保険のように適用対象や給付額や期間に制限はなく、申請に際しても医療機関から各種の証明書類を取得する必要もありませんので、外国人にとりましても、日本国の医療保険ほど手厚い制度はないのです。

 また、短期間の滞在資格でも健康保険に加入できるのであれば、「医療目的の入国」もあり得ます。因みに、2018年にNHKで放送されたクローズアップ現代では、「外国人が国民健康保険に加入して半年以内に80万円以上の高額な治療を受けたケースが、1年間に1,597件あった」と報じられたそうです。しかも、国内在住であれば被扶養者まで保険が適用されますので(かつては、国外居住の被扶養者にも保険が適用となったケースも・・・)、外国籍の人が本国で暮してきた高齢の両親や親族を日本国内に呼び寄せて扶養親族とし、一般の医療費のみならず、高額療養費制度を利用することも制度的には可能となるのです。後者の方は合法的な行為ですので、制度的な是正をもって対応せざるを得なくなります。

 長期的なスパンでの保険制度の設計と短期的な滞在者の保険加入との間に齟齬があり、それが、不正使用や所謂「外国人ただ乗り」の一因となっているのであるならば、先ずもって短期滞在外国人の保険加入こそ見直す必要がありましょう。外国人には、入国に際して民間ベースでの医療保険への加入を義務付ける、あるいは、外国人を対象とした短期型の医療保険を別途設けるべきかもしれません(国費投入を要さない独立採算となる保険制度・・・)。そして、不正であれ、合法であれ、マイナンバーカードや健康保険証に国籍を示す記載がないことが、外国人による医療保険制度の悪用を助長しているとしますと、先ずもって、‘必要最低限の情報’として、これらのカードに国籍を明記すべきではないかと思うのです。

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