万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

東京メトロ株はGPIFが購入すべきでは?

2024年10月08日 09時48分34秒 | 日本政治
 今月23日に、東京メトロ株が東京プライム市場にて新規上場されると報じられています。80年代以降に広まった民営化政策の一環なのですが、新自由主義に対する批判が高まりながらも、同売却に対して見直し論が提起されなかったことはまことに残念なところです。国民並びに都民にとりましては、殆ど益するところがないからです。政府保有分については、売却益は東日本大震災の復興資金に充てられるとされるものの、敢て国民の共有財産を売却してまで復興資金を調達する必要性は低く、同説明によって国民の多くが納得するとも思えません。

 報道に因りますと、株主に対する配当率は比較的高めに設定されており(3.64%)、高配当株となるそうです(想定価格は一株1100円、一単位100株11万円・・・)。このことは、東京メトロの利益の一部が常に株主に流出し続けることを意味するのですが、利益を得るのが国民や都民から民間株主に変わったこととなりましょう。言い換えますと、公益から私益への転換となります。東京メトロが地下鉄という公共機関を運営するインフラ事業であるだけに、今般の民営化は全く以て不要な措置のように思えるのですが、与野党を問わずに政治家達がグローバリストの代理人となっている現状では、国民は不利益を被るばかりです。主幹事証券4社の中にはゴールドマン・サックス証券の名も見えますので、海外投資家達も手ぐすねを引いて待っていることでしょう。

 しかも、東京メトロの新規公開株式(IPO)の上場に際しては、ブックビルディング期間が設けられており、購入希望者は、取扱証券会社となっている証券会社に事前に申し込みを行なう必要があるそうです(なお、全ての証券会社が取扱証券会社ではない・・・)。各取扱証券会社には売却株数が割り当てられており、その後、各社における抽選によって購入者が決定される仕組みとなります。この仕組みからしますと、他の一般証券会社の50から100倍の株数が割り当てを受けているとされる、主幹事証券会社に既に口座を開設している人が俄然有利になることが分かります(証券会社に口座開設には時間がかかるので、ウェブ上の手続きで一両日程度で口座を開設できるオンライン証券各社が迅速性をアピールしている・・・)。

 民営化に際して日本国政府は、「可能な限り政府の売却する株式が特定の個人・法人に集中することなく、広く国民が所有できるよう、広い範囲の投資家を対象として円滑に消化できる方法により行う必要がある。」とする方針を示し、公平性の尊重を強調しているものの、上述した仕組みを見る限り、主幹事証券会社への割り当て率が高い上に、取扱証券会社も限られていますし、そもそも抽選制ですし(一部の国民しか保有できないことを意味する・・・)、富裕層に有利である制度であることは否めません。所得が十分ではない人々や若年層、並びに、子育て世代に株投資の余裕があるとも思えないからです。実のところ、日本国のみならず、グローバルレベルにおいて貧富の格差が拡大した原因の一つは、民営化政策にあったかも知れません。

 そこで、公益事業の民営化に伴うマイナス面をできる限り低く抑える方法として考えられるのは、年金積立金管理運用独立行政法人、即ち、GPIFが積極的に公益株を買い取るという方法です。GPIFが株主となれば、配当金は同基金に支払われますので、間接的にではあれ、凡そ全国民に益することとなります。この方法を採用すれば、民営化による私益化を公益に再転換することが出来るのです。

 最も望ましいのは、法律によってGPIFによる公益事業株の優先引き受けを可能とすることなのでしょうが、今般の東京メトロ株については立法措置を講じる時間がありません。そこで、上述のIPOに関する仕組みからしますと、GPIFが、直接あるいは、運用委託機関となる証券会社を介して購入予約を入れる、といった方法が現実的な対応となりましょう。主幹事証券会社の中には、GPIFの運営委託機関となっている証券会社もあります(もっとも、抽選に外れることもあり得る・・・)。また、新規公開時ではなく、今後、一般の株式として証券市場にて購入する道もありましょう。

 近年、GPIFは、ESG投資を開始したとされますが(グローバリストからの要求?)、国内公益事業への投資の方が、余程国民からの理解と支持を得られることでしょう。民営化という既定路線の変更と共に、GPIFにつきましても、東京メトロ株のみならず、国民の利益、即ち、公益性を重視した運営を目指すべきではないかと思うのです。

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