万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イスラエルによる野獣の自己証明

2024年05月15日 11時55分17秒 | 国際政治
 国連憲章と言えば、今日の国際社会では、半ば‘憲法’のような立ち位置にあります。バチカンやコソボ等の極少数の諸国を除いて殆ど全ての諸国が国連の加盟国であり、同連合の憲章は、国際機関としての機構のみならず、国家の基本的な権利、義務並びに行動規範等をも定めているからです。もっとも、国連の主たる目的は平和の実現にありますので、扱う対象も国家間の紛争の解決が中心となります。第二次世界大戦を機として発足したという時代背景もあって、特に侵略への対応に主眼が置かれ、解決方法についても個別的自衛権、集団的自衛権、並びに、国連を枠組みとした強制排除の3レベルにおいて武力行使を認めつつも、同憲章は、平和的解決の実現を最優先事項としているのです。

 平和の実現を目的に設立された国連は、大戦中におけるナチス・ドイツによる迫害もあり、自らの国家を持たず、流浪の民と化していたユダヤ人の問題についても、平和的な解決を試みることとなります。この点、ユダヤ人と同じく国なき民族であったクルド人等と比較しますと、金融業等によってマネー・パワーを有するユダヤ人は、随分と優遇されたことにもなりましょう。国連が解決を急いだ理由は、テオドール・ヘルツル等による‘祖国帰還運動’、即ち、シオニズム運動、並びに、これを背景としたイギリスの二重舌外交で知られるバルフォア宣言もあり、パレスチナの地では、既にユダヤ人の移住が始まっていたからです。ユダヤ人の大量移住によって、その地に住んでいるアラブ人との間での紛争が激化することは容易に予測されたのです。否、ユダヤ人からしてみれば、パレスチナの地が国際連盟のお墨付きによってイギリスが委任統治しており、かつ、国連が発足した戦後の同時期こそ、ユダヤ人国家建設の千載一遇のチャンスと見たのでしょう。

 この流れの中で、1947年11月29日に国連総会決議(決議181号Ⅱ)が成立し、晴れてユダヤ人国家としてイスラエルが誕生します(因みに、イスラエル建国の日は、昨日の5月14日・・・)。しかしながら、同決議は、ユダヤ人のみにイスラエルという国家の建国を認めたわけではありません。同決議は、同時にアラブ人にも独立国家を建設することを約束しているのです。つまり、第二次世界大戦後における国連によるユダヤ人問題の解決策とは、ユダヤ人とアラブ人の両民族それぞれによる、二つの国家の平和的な併存であったのです。

 上述した経緯に照らせば‘国連なくして、イスラエルなし’とも言えるのですが、今般、イスラエルは、自らの法的根拠を破壊するような暴挙に及んでいます。今月5月10日に開かれた国連総会において、登壇したイスラエルのエルダン国連大使は、国連憲章を携帯用シュレッダーにかけて細断してしまったのです。同大使によれば、国連憲章を細断した理由は、「パレスチナの加盟を支持する決議案に反対する意思を示すため」であったそうです。因みに、同決議案は、賛成143カ国、反対9カ国で採択されています(もっとも、安全保障理事会での再検討を求めるとする内容であるため、安保理では同決議に反対したアメリカが‘拒否権’を行使するかも知れない・・・)。‘国連憲章に反するテロを行なったハマスに特権を与えるようなものだ’という理屈のようです。国連への加盟は、国際社会におけるパレスチナの事実上の国家承認を意味しますので、大イスラエル主義を目指すネタニヤフ政権としては、これを阻止したかったのでしょう。

 しかしながら、パレスチナ国家の建国は、同決議に含まれる経済同盟の行方については再検討を要するものの、上述したように、国連決議181(Ⅱ)が定めた決定事項です。中東戦争やパレスチナ紛争などによって延び延びになっただけであり、パレスチナ国家建国は、いわば、イスラエル建国とセットとなる平和的解決の条件であったはずなのです。しかも、ハマス=パレスチナでもなく、テロ行為そのものは、パレスチナ国家の国連加盟を否定する根拠とはなりません。否、仮に、テロ、すなわち、国際法違反の行為の有無が国連加盟の要件となるならば、イスラエルの加盟にも見直しを要しましょう。ガザ地区にあってジェノサイドを実行し、国際社会から批判を浴びながらラファへの侵攻も強行しようとしているのですから。さらに踏み込めば、今般のイスラエルの違法行為をもって、国連決議181(Ⅱ)の取り消しを主張することもできるかもしれません。

 今日のイスラエルは、国際法もなにもかもかなぐり捨てて、自らの野望のみに動かされている野獣の如きに見えます。シオニストの代表格とも言えるヘルツルは、「・・・世界は我々の自由によって解放され、我々の富によって豊かになり、我々の偉大さによって拡大されるだろう。そして、我々が自身の幸福のためにそこで達成しようとするものはすべて、善と人道のために力強く有益に作用するであろう。」と記していますが、シオニズム運動から1世紀以上を経た今日、現実は、この言葉とは真逆になりつつあります。自らの野獣性を自らの行動で証明しているイスラエルは、一体、何処に向かおうとしているのでしょうか。

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