万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

対イスラエル制御問題―国連からの‘除名’という方法

2024年05月17日 10時21分14秒 | 国際政治
 イスラエルによるガザ地区住民に対するジェノサイド、並びに、ラファ侵攻を止める方法としては、先ずもって、全ての諸国がイスラエルに対する国家承認を取り消すという方法があります。同手段は、独立国家の主権に基づく対外政策として行なわれますので、各国の政府が独自に判断することができます。EU諸国のように、国家承認の要件として国際法の遵守を設定している国も少なくありませんので、既に承認済みの国家に対しては、国際法上の違法行為は承認取り消しの正当な根拠となりましょう。そして、もう一つ、目下、暴走状態にあるイスラエルを制御する手段として挙げられるのは、国連における同国の事実上の除名です。

 国連憲章の第6条には、同組織からの除名に関する条文が記されています。短いですので全文を載せますと「この憲章に掲げる原則に執拗に違反した国際連合加盟国は、総会が、安全保障理事会の勧告に基づいて、この機構から除名することができる」とあります。同条文は、発足当初から、国連が、平和的解決等を原則に違反する加盟国が出現することを想定していたことを示しています。

 ここで、国連からの除名が法的に可能であることを確認はしたのですが、同条文は、除名に至るまでの手続きを記したものでもあります。これによれば、安保理による勧告⇒総会での除名決議の採択という手順となります。同手続きにおいて高いハードルとなりそうなのは、最初のステップとして定められている安保理の勧告です。国連安保理では、常任理事国に事実上の拒否権を認めていますので、親イスラエルの立場にあるアメリカ、イギリス、フランスのみならず、ユダヤ系勢力の強い影響下にあるロシアや中国までも、拒否権を発動する可能性があるからです。

 それでは、イスラエル除名は不可能なことなのでしょうか。常任理事国による拒否権行使を逃れる方法は、ないわけではありません。ここで注目されるのが、国連憲章の第18条2です。同条項には、「重要問題に関スル総会の決定は、出席し且つ投票する構成国の三分の二の多数によって行なわれる。・・・」とあります。同条項が定める重要問題事項には‘加盟国の除名’も列挙されていますので、国連総会にあって出席し投票した国の3分の2の賛成を得ることができれば、イスラエルの除名は実現するのです。しかしながら、除名の場合、先述した第6条がありますので、総会のみでの決定できると解釈することは困難です。そこで参考となるのが、1971年10月25日に成立した「アルバニア決議」です。同決議の成立に際しては、安保理が全く関与しなかったからです。

 「アルバニア決議」の内容とは、中国に国連の代表権を与えるというものです。この議題が重要問題として扱われたのは、第18条2にあって、重要問題の一つとして‘加盟国としての権利及び特権の停止’が含まれているからなのでしょう。否、同決議は、アメリカ等の西側諸国の拒否権の行使が予測される安保理を迂回しつつ、中国の国連加盟を代表権の‘停止’ではなく‘付与’という形で実現したのですから、共産国家中国を国連に招き入れるために、東側諸国が、第18条2を強引に反対解釈したとも言えます。一方、今般のイスラエルの場合は‘権利の停止’ですので、同条項に関する解釈問題は生じません。この方法をとれば、たとえ第6条に基づくイスラエルの除名が叶わなくとも、総会への出席や投票権を含めてあらゆる国連関連の諸々の権利を停止させることはできます。この措置は、事実上の除名とも言えましょう。

 ディアスポラ以来、自らの国を失ってきたユダヤ人にとりまして、1947年5月14日の建国は、民族の悲願であったはずです。二千年余りの間、流浪の民であったユダヤ人であるからこそ、国家承認の取り消しや国連からの事実上の除名は、相当に堪えることでしょう。再び自らの国家を失う危機となりかねないのですから。今日、とかくに軍事的措置に傾く傾向がありますが、非人道的行為や違法行為を思いとどまらせるためには、知恵こそ絞るべきと思うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ‘爪でも戦う’ネタヤフ首相を... | トップ | 南海トラフ巨大地震とガス田... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事