万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

軍事面でも表面化する米中直接対立-ポンペオ国務長官の訪朝中止

2018年08月26日 15時48分48秒 | アメリカ
「米国は無責任」と非難=中国
先日、トランプ米大統領は、北朝鮮の非核化に十分な進展が見られないことを理由に、ポンペオ国務長官の四回目となる訪朝を急遽中止しました。表向きの理由は北朝鮮の合意不履行なのですが、この決断にこそ、トランプ政権の方針転換が窺えるように思えます。

 これまで、トランプ大統領は、北朝鮮問題を解決するに当たって、二国間の首脳会談を重視してきました。トップ同士が直接に顔を合わせ、タフな交渉を経て最後は握手で合意する、というスタイルは、ビジネス界出身の同大統領の得意とするところであったはずです。6月12日の米朝首脳会談は、まさにこのスタイルの典型的な事例と言えるでしょう。北朝鮮は、金王朝とも称される強固な独裁体制を敷いてきた国ですので、そのトップである金正恩委員長との間で合意が成立すれば、懸案であった北朝鮮の非核化も難なく実現するものと信じたのかもしれません。

 しかしながら、ビジネスとは些か異なり、国際政治の世界では、交渉相手の背後に様々な利害関係者が蠢いている場合が少なくありません。北朝鮮の場合には、建国や朝鮮戦争等の経緯があり、中国とロシアがその後ろ盾であることは疑いなきことです。言い換えますと、背後にあって北朝鮮を操る国家が控えている場合、金委員長は真の政策決定者ではないわけですから、トップ会談重視のトランプ流外交は通用しなくなるのです。

 実際に、中国は、既に国連の制裁決議を無視して対北支援に動いており、習近平国家主席は、訪中した金委員長に対して莫大な経済支援を申し出たとされています。また、東シナ海等における北朝鮮船舶による‘瀬取り’は、中国の黙認のもとで行われているとされ、制裁決議違反行為も相次いでいるのです。北朝鮮側も、8月25日の「先軍節」にあって、国営メディアは非核化問題には全く触れず、経済再建を強調していたとされますので、中国からの支援を期待しての変化なのかもしれません。

北朝鮮が中国のコントロール下に置かれている現状を見れば、ポンペオ国務長官が訪朝し、たとえ非核化に向けた具体的な措置を採る約束を北朝鮮から取り付けたとしても、中国の介入によって反故にされる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。となりますと、北朝鮮の非核化問題を根本的に解決するには、中国こそ、アメリカが直接に対峙すべき相手国となります。

この推測を裏付けるかのように、中国外務省は、アメリカがポンぺオ国務長官の訪中中止と中国の非協力的態度を絡めた点を取り上げて、「米国の言い分は基本的な事実に反しており無責任だ」とする非難の談話を発表しています。おそらく、中国もまた、アメリカ側の方針転換を敏感察知し、逃げ道を模索しているのかもしれません。北朝鮮と同様に中国もまた、トランプ流の交渉術が通じる相手ではないことを考慮しますと、米中対立は、貿易戦争のみならず、軍事面においても表面化する可能性が高いのではないかと思うのです。

よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ‘新世界秩序’はバベルの塔か? | トップ | 北朝鮮が示す独裁国家のパラ... »
最新の画像もっと見る

アメリカ」カテゴリの最新記事