万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

トランプ政権貿易摩擦問題ー新たな税率差ルールの提案

2017年01月25日 13時39分48秒 | アメリカ
車めぐり日米貿易摩擦が再燃 トランプ政策が「米自動車産業を衰退させるきっかけに」
 トランプ政権の発足によって、輸出の低迷と国内シェアの減少によって燻ってきた米企業の不満が表面化し、批判の矛先は、専ら日本国を含む”不公正な貿易相手国”と認識された諸国に向けられております。今後、アメリカ政府からの一方的な要求が強まるシナリオも予測されますが、圧力による政治的な解決しか道はないのでしょうか。

 仮に他に道があるとしますと、それは、ルール志向の解決です。現状の自由化一辺倒の行き過ぎたグローバリズムに基づくルールは、”悪法”と言えば”悪法”であり、その利益や恩恵は一部に集中してしまいます。トランプ政権の誕生は、旧来の原理主義的ルールを是正する必要性を痛感させたわけですが、トランプ政権が導入を試みようとしている新たな対抗税制については、一般的な国際ルールとして導入することも不可能な事ではありません。

 現状に対するアメリカ側の不満の一つは、貿易相手国で採用されている一般消費税にあり、この不満には根拠がないわけではありません。これらの諸国の企業は、自国生産品の輸出に際して税が還付されています。しかし、米国には連邦レベルでの同様の間接税が存在しないため、アメリカ企業は、輸出に際しては、相手国に納税する義務が課せられているに等しいのです(仕向地主義)。アメリカから見ますと、相手国企業は、たとえ関税は支払う場合があったにせよ、無税で輸出した先のアメリカ国内でもさらに無税で販売できるのです(ただし、州レベルでは売上税が存在する場合がある…)。一方、アメリカ企業は、無税で輸出しても、相手国に消費税を納めなければならないため、企業間の競争条件は平等ではない、ということになるのです。因みに、日本国の消費税は8%ですが、中国では2016年5月1日から基本税率17%の増値税が全業界に適用対象を拡大させています。また、イギリスを含む欧州各国の不可価値税(VAT)では凡そ20%前後であり、メキシコの付加価値税(IVA)は16%です。

 この制度を見ますと、アメリカ側の言い分にも一理ありますので、無碍にはトランプ政権の是正要求を批判はできません。そこで、仮に、何らかのルール変更を行うのであれば、その一案は、貿易当事国間の関税率差、並びに、一般消費税の税率差を基準として一定の範囲での課税を許すことです。例えば、日米間の自動車産業であれば、関税率差はアメリカの関税率が2.5%である一方で、日本国は0%であり、一般消費税では、アメリカが0%で日本国側は8%です(アメリカにおいて州レベルで売上税があれば加算)。トランプ大統領は、選挙期間中には38%の関税を課すと主張しておりましたが、単純に計算すれば、アメリカは、両項目の差引により、何れかの税において、従価税方式で5.5%まで税率を設定することができることになります(米中間ではアメリカ側は39.5%の課税が可能…)。もっとも、算定された税率はあくまでも上限であり、許容範囲内であれば、通商交渉によって双方が税率削減に合意することも可能です。

 現実の経済は、理論の世界とは違い、国家間において様々な差異や格差が存在しています。貿易摩擦を回避し、貿易が内包する利点を広げてゆくには、自由化原理主義を強引に推し進めるよりも、より公平であり、かつ、現実に即したルール作りが必要なのではないでしょうか。

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-01-26 09:44:33
たぶん、トランプ大統領はルールの改正などのまどろっこしいやり方をせず、大統領令、ツィッター、二国間指導者同士のサシで進めると思います。雇用は待ったなしなのでしょう。FRBが採用している失業率はインチキ、潜在失業率は20%以上あると認識しているでしょう。
トランプさんは鄧小平氏に似ているのです。黒猫でも白猫でも、雇用する猫が良い猫です。察したトヨタの社長、尻尾を千切れんばかりに振っています。
習主席とのサシの会談が今年の最大の山場でしょう。
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Unknownさま (kuranishi masako)
2017-01-26 11:39:25
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 米中両国が国際ルールを軽視する可能性があるからこそ、日本国政府は、ルール志向のアプローチを敢えて国際社会に向けて提起する必要があるのではないでしょうか。相互的な雇用の保護をルール化すれば、法の支配を破壊することなく、アメリカも、失業問題を解決できると思うのです。
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